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旅するコックピット⑦

お父さんとお母さんが買い物から戻ってきて私たちと合流した。

さっきまでの翔太のまじめな顔はいつもの優しい顔に戻っていた。さっき話していた翔太が本当の翔太なのか、優しそうな翔太が本当の翔太なのか、私には判断がつかなくなっていた。

「そろそろホテルに行こうか」というお父さんの合図で私たちはホテルに向かった。

子どもたちは休憩したからか元気にホテルに向かうので慌ててお父さんが走って追いかけた。

「翔太君ってどんな子なんですか?」とお母さんに聞く。

「弟思いで、優しい子よ」

「そうですよね。」

「でも、時々怖いのよ。怒るとき。こないだも、弟と兄弟げんかしてた時も、手は出さないんだけど、奇声発したりして。挙句の果てには自分のほっぺたを殴りだすし。」

「そんなことが…」

「それだけは心配かも。」


翔太にそんな一面があるということに驚きを感じながらも、少し納得できたかもしれない。

彼は、優しさを演じるあまりその反動が奇声としてたまに出てしまうのではないか。弟に手を出さず自分を殴ってしまうのは、演じなければならない優しさと、その反動の中で葛藤し、ぎりぎり優しさが勝ったからではないか。もし、決壊してしまったら翔太はどうなってしまうのだろうか。


翔太に無理して優しさを演じなくてもと伝えなければと思ったが、そこでシドニー空港へそろそろ着く旨のアナウンスが耳に入ってきた。

いつものように車体と滑走路を平行に持っていき、着地させる。翔太がにこにこしながらオーストラリアの地に足を踏み入れる姿が想像できる。

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