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【書評】二枚腰のすすめ

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●鷲田清一著『二枚腰のすすめ』<世界思想社・教養みらい選書>(20)

悩む人は気持ちが行き詰っている。ネガティブな思考は硬化する一方で、中々軟らかくならない。ああでもないこうでもない、あちらでもないこちらでもない、と出口へのキッカケさえつかめず堂々巡りの状態に苦しんでいる。

読者としては、気分的に叱咤激励してあげたいところだが、鷲田さんは実にしなやかに言葉をかけておられる。穏やかな筆致なのだが、悩みへの共感の思いは伝わるし、的確な指摘も読み取れる。そっと肩を抱きながらも背中を押しているような、優しさと力強さを感じる。

よく登場するアドバイスの一つに「周りに目を向けなさい」というのがある。自分の頭の中だけで解決しようとすると本来目を向けるべきものに気付かない。自分がやりたい事の何が他人の為になるのかという考えや、自分にストレスを与える存在の立場になってみるとか…考えの角度や方向を変えてみる事で、行動に移せる面はあるかも知れない。

悩みのタネの逆パターンを考えてみるというのも、相談者の目のウロコをはがす手立てになりそうだ。これがいわゆる「二枚腰」の基本的なスタイルだ。物事には二面性があり、相談事の行く末を案じ過ぎて煮詰まっている相談者に別の可能性を披露している。

ひとつの問題の原因をひとつに固定してしまっている相談者には、人生の流れには好不調のリズムがあり、「不運続き」というのは自分がそう思ってしまっているからと仰る。これもまた物事の二面性を語っている。

鷲田さんは、相談への「回答」より相談に「乗る」という姿勢で臨んだ。実は、相談する側も悩み事に「乗る」姿勢が必要ではないかと。自分はどうすべきかに頭が向かい過ぎ、実は悩み事に正対していない、悩み事を深く考察していない場合もある。自ら悩みに「乗る」事が行動に繋がるのではないかと思う。鷲田さんも、「あなたはまだ何もしていない内から悩んでいる」と指摘されている場面もあった。

さて、読んでいて他人事に思えない悩みもあれば、努力すれば案外簡単じゃないかと思うものもある。ドシッと重いものもある。これも考えてみれば私の興味の向く方向や、考察の甘さがもたらすものだろう。全ての悩みには「乗り切れてない」からだろう。

誰しも自分の人生に完璧に乗っている人はいないのではないか。少しでも自分らしく「乗る」為に我々は生きているのだろう。

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