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彷徨うおっさん138 未熟なアイデンティティ(2/7) 不十分なアイデンティティ確立と防衛本能

 前回は、昨年、おっさんが作った料理にたまたまありつけなかった人が居て、たった1杯の豚汁で縁が切れたその体験談と、そこに、当人のアイデンティティの崩壊が見られるのではないかという考察を述べた。
 そして、アイデンティティの崩壊原因は人によりけりであることも述べた。

 今回は、アイデンティティ崩壊と激しい防衛本能の発揮、ドイツの心理学者エリクソンの考案した、8つの発達段階による、本来あるべきアイデンティティの確立の重要性について述べたい。

<アイデンティティの崩壊は悲しみと防衛本能(怒り)を呼ぶ>


 また、アイデンティティの崩壊による怒りは、どれも特徴が似ているように思う。前回の①~③の例

① 仕事人間 → 無能と言われるのが耐えられず、僅かな失敗の指摘でも怒る
② 専業主婦 → 子供が居なければ勿論、居ても、半人前の寄生者と揶揄されると、差別だなどと言って怒る
③ オタク → 趣味や拘りに対する、非オタクからの拒絶に耐えられず、差別だなどと言って怒る

 でも、都度部下や環境のせいにしたり、夫や子供に激しい感情をぶつけたり、差別は許せないなどと過激な発言や運動に転じたりと、なりふり構わず、自分のアイデンティティを維持するために、当事者が全エネルギーを周囲にぶつけまくるという話は、しばしば耳にするも好ましいとは言え無いだろう。

 とはいえ繰り返すが、これらは一般的なルールや節度とは別のところにある事象で、本人にとっては全てを投げうってでも守るべきことである。
 そして、客観的にはとんでもない我儘であっても、個別に複雑な事情で、本人の中では成立している。
 また、本人の悲しみと防衛本能がたっぷりと絡みついて不可分になっている事象でもある。

 故にその我儘な部分も含めて、防衛本能によって丸ごと守ることが本人にとっては最良の選択肢になってしまっているのだろう。


 これを単なる我儘と捉えて終えるか、個別具体的な事象と捉えるか、そして共感・同情できるかによって、本人との関係が決まるが、根っことしては強い防衛本能の発揮とだけ理解すれば、我儘放題騒がれても、少しは冷静に捉えられる思う。

<客観的に見てハテナな人は、アイデンティティ確立に失敗しているから>


 とはいえ無用な場所で過剰な防衛本能を発揮してしまうのは、アイデンティティの確立が不十分な可能性が考えられる。

 アカデミックな話をすると、ドイツの心理学者エリクソンの考案した、8つの発達段階というものがある。そのうち12~20歳の「青年期」において獲得すべきもので「自分はこういう人間だ」という内面、つまりアイデンティティを確立する必要性が挙げられている。

 近年は20歳程度では、まだまだ具体的なアイデンティティの確立が困難であるようには思うが、基礎設定としては妥当なところにも思う。
 この時までに、「周囲との関係(社会性)や、大人として社会参画する上での人間関係調整能力の必要性をしっかりと認識」できれば、恐らく基礎としてはよいだろう。

 だがこれが出来ていないと、紹介した例の人物のように、次の20歳~40歳ぐらい(年齢は諸説あり)の成人期における、他者との親密性の獲得や、非認知能力、安定した自己の確立という段階において、大きく躓いてしまうのではなかろうか。


 多少私見にもなるが、青年期の段階においては、形式や字面の意味だけの社会のルールを叩き込むことは尤もな流れではあるが、実社会においては、人によって、組織によって、その他状況によって柔軟に判断を行う必要が生じてくるように思う。

 故に基本的なルールやモラルも大事であるが、青年期を過ぎた成人期においては、他者の行いや考え方について、多少のことは目をつぶる反面、自分の本当に芯となる考えについては譲らないといった、その人らしさを特に美しく削り上げていく段階にも思う。

 だが、青年期に「周囲との関係(社会性)や、大人として社会参画する上での人間関係調整力の必要性をしっかりと認識」できないでいると、その芯となる部分の、どこを削って何処を補填しなければよいか分からないので、いつまでたっても感情に任せる結果となるのではないか。

 紹介した例の人物のように、自分だけ、たまたま1回、無料のご飯が食べられなかったからと言って怒るような人は、何が自他にとって大事で、何が自分自身の美徳で、何を我慢しなければいけないのか全く理解していないように思う。即ちアイデンティティの形成が不十分である。

 こんな程度のことで怒ること自体、無論、基本的なルールやモラルの埒外にあるが、かといってそれを、譲れない自分自身の芯と言うにはあまりにも原始的な欲望である。
 また、反応も情動的すぎる。これでは単に欲深で怒りっぽい未熟な人止まりになってしまっている。


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