読了のおっさん14 AQUA/ARIA(天野こずえ/月刊ステンシル・月刊コミックブレイド)
今日も、おっさんが全巻読んで面白かった漫画をご紹介です。
個人の感想であり、感じ方はそれぞれなれどご参考に。
概要的なネタバレは含みます。
AQUA/ARIA
(天野こずえ/月刊ステンシル・月刊コミックブレイド)
2001年~2008年 全2巻+12巻
① タイプやテーマなど
近未来、少女漫画、スローライフ、SF、火星、ヴェネチア、ゴンドラ、観光業、ウンディーネ、未来系ヒーリング、猫
② 簡単な内容
火星がテラフォーミングされた近未来、地球から火星(作中ではアクアと呼ばれる)に、ゴンドラの漕ぎ手(水先案内人・ウンディーネ)となるべく移住した主人公、水無灯里(みずなしあかり)と、水先案内人の仕事を通じて知り合ったお客さんや友人達との交流を描いた作品。
ネオ・ヴェネツィアと呼ばれる、地球のヴェネチアの文化をそのまま継承した火星の水上都市が舞台で、主要な産業は観光業。主人公を含めた少女たちの交友と恋、様々な登場人物の心情や想いがほんわかした雰囲気の中で綴られる。
③ 読みどころ
絵が美しい。現実のヴェネツィアをトコトン理想化した景色の中で、愛らしい登場人物たちが楽しそうに暮らしている。絵を追いかけるだけでも癒される作品。
ファンタジー寄りではあるが、火星をテラフォーミングしたという設定の上での技術的、歴史的背景も少々語られ、そこに謎解き要素と、物語の展開に弾みをつける要素になっている。
そして登場人物たちが非常に魅力的である。ぽわぽわした女の子、ちょっと変わった男の子、気の強い子、頑張り屋など個性豊かで愛らしいキャラ揃い。
果ては重要キャラに「火星猫」という謎のデブ猫が居て、ドタバタ動き回って何とも言えず和ませられる。本編はそれぞれのキャラクターが織りなすショートストーリーの連続でもあり、
何処を切り取っても面白い。
④ 雑多な感想
愛らしい年ごろの女の子が3人も出てくる(おっさんが言うとアレだが別に他意はない)。仲良しで、ライバルで、それぞれ同じ業界の違う会社に勤めていて、立場も性格も異なる。
3人のお師匠に当たる女性たちも同様の間柄で、お師匠たちからすると自身の若かりし日に重ねるところがある。
そして、色々と面倒を見てお師匠たちも成長したり、過去の時分に重ねて想いを馳せたりと、作中では多くの登場人物たちの心の成長と変遷が楽しめるように思う。
女性ばかりが主役で、男性陣はどちらかというと脇をしっかり固めるような形で存在している。おっさんが読むとそのあたりにも新鮮さを感じることができる。
かといって、おっさんが読むと恥ずかしい作品かというとそういう事もなく、思うに「ファミリー向け」である(特に娘がいる家庭)。
火星の公転周期が地球のほぼ2倍といった事実や、異なる重力をどう克服しているか、何故火星がアクア(水の惑星)と呼ばれているのかといった、サイエンス
に言及した部分も違和感のない理由付けが作中でなされている。本格的な科学を描くわけではない(そういうのは作風上期待すべきではない)が、科学や物理現象の側面
から世界の理解と興味を促す一面もあり、全体として楽しくほんわかしているが未来的であり、軽薄な作品では決してないようにも思う。
四大精霊(サラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフ)をモチーフとした役職(職業)も登場する。これらはどちらかというとファンタジーの領分に属するものだが、
近未来の火星に纏わる職業への愛称へと置き換えられている。現代では古代の錬金術の示す4要素を基にした理論は、すっかり迷信となってしまったが、
やはり文化面における感覚では捨てがたいものであり、本作でも美しいネオヴェネツィアの世界を構成する4要素として、綺麗に描かれている。
⑤ その他
本作はやはりアニメシリーズも存在している。元々美しい絵の原作であるが、それがカラーで動くとなると、かなりの魅力である。
演技や音楽も素晴らしく、本当にネオ・ヴェネツィアに居る(或いは行ってみたい)という気持ちにさせる楽しい作品となっている。
アニメのオリジナルキャラクターやストーリーも存在するが、原作の世界観とキャラクターが魅力的なので全く気にならない。
原作も含めて、ヴィジュアル面、物語面で非常に情操教育にいいなとおっさんは思っていて、娘には勧めることにしている作品の一つ。
最近は未来に希望が見いだせないような時代が続いている。だが少し未来に火星がテラフォーミングされて、こうも美しくほんわかした世界になるのだとしたら、
まあ世の中も人類も捨てたものじゃないよね、などと思うところである。