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ひと匙日記 文フリ東京37

 11月に入っても半袖で過ごせるような日が続き、秋なのに春みたいに鼻がむずむずしていたが、11月11日(土)文学フリマ東京37当日はようやく晩秋らしい気候になった。自宅から流通センターまでの経路を調べて開場の20分くらい前に着けばいいなと思っていたはずが、どういうわけか40分前に到着した。ちょっと早過ぎたかなと思ったが、すでに第二会場前には入場待ちの長蛇の列ができている。(えー!こんな並んでるん?!)と驚き、(こりゃあお目当ての本がすぐに売り切れてしまうで…)と、恐れ慄きながらも列の最後尾に並んだ。もちろんわたしが最後尾だったのはほんの一瞬で次々と文フリの猛者たちが列を伸ばしてゆく。ドローンで上から見たら、列が建物を締め付ける大蛇のように見えているのではないかと想像をしながら、得意の(こんな行列、いつものことですけど)みたいな顔で夏目漱石「こころ」を読みながらじっと待つ。建物の間を吹き抜ける風が冷たく、次第に身体が冷えてくる。(いや、季節相応になるの、もう2.3日あとでもよかったんちゃう…)と、自分勝手な事を考えつつも、今から出陣する会場の巡り順を思案しつつ、漱石を読む。
 それにしても…一年前はじめて文フリに行った時にはどの位の規模のイベントなのかも知らず、出店者に知り合いは一人もいない状態で行ってしまい、想像以上の人の数と熱気に、ココハワタシノクルバショデハナイ…と謎の敗北宣言をしていたのに、今わたしは、開場前の行列の一部、大蛇の鱗と化している。(足首が冷える…。漱石を読む。)
 なぜなら、今回の文フリにはわたしが参加した「短歌を詠んだら歌集を編もう。」というワークショップの主催であるSPBSさんが出店しミニ歌集を販売してくださるのだ。もちろんわたしの「ぐらでーしょんきせつ(緑)」も並ぶ。そして歌集制作で出会った仲間の何人かは、出店者としてブースに立つというのだ。さらにわたしのエッセイ「わたしが第一歌集を編むまで」を書いたアンソロジスト文章講座の講師の先生や、そちらで出会った同期生の方も出店されているという。(あぁ…今日は風呂沸かして入ろかな。漱石。)
 知ってる人がいっぱいいるぞ!喜べ昨年のわたしよ!こんなことになってるなんて想像もしてなかったよな!自分の本が売られてて知ってる人が何人もいるんだぜ!又吉さんが部長を務める第一芸人文芸部さんも出店されてるんだせ!同じ文フリでブースは違えど又吉さんの本とわたしの本が並んでいるんだぜ!こんなうれしいことあるか!最高だよ!叫びたいよ!この曇天に歓喜の雄叫びを!!(湯ぶね浸かりながらTVerでドラマでもみよかな…。漱石。)
 頭の中で過去の自分と対峙したり、今日の自分の動きをシュミレーションしたり、漱石したりしているうちに、ゆっくりと列が動き始め予定時間よりも早い開場となった。わたしは、前もってざっくり計画していた順にブースを巡り、それぞれ出店者の方(知り合い♪)と少しお話をさせていただき、本を購入した。こういう時に一番わたしが恐怖を抱くのは「覚えていてくれてるかな…」という不安である。(実際これまでに何度もお会いしているのに毎回「はじめまして」な雰囲気で話しかけられた経験なら黒帯だ。)なので遠目からそっと近づき相手と目が合った時、「あっ」とか「おっ」とかいう表情で反応してもらえるだけで、(覚えてくれてたぁぁぁ〜)と半泣きになる。本当に覚えていてくれてありがとうございますと思う。そして、忘れられたくないからまた会えるといいなとも思う。とか言いながらもわたしも最近は人の顔を覚えるのが苦手になってきているので(加齢)、自分も忘れたくないからまた会いたいなと思う。色々な方に会えて本当に嬉しかったし楽しかったのだけど、環境刺激よわよわなわたしはそれでも長めのウルトラマンくらいには変身できたようでカラータイマーが赤く光ったのは約1時間後といったところだった。ウルトラマンのようにビュンと帰れればいいのだけど、そこは人間らしく電車に揺られておとなしく帰宅した。
 来年はビックサイトで開催されるという文学フリマ東京。自分も出店したいかと聞かれたら、正直なところ難しいと思うけど、(あの空間に何時間もいられる自信はない)でも、出店者も来場者もみんな本が好きな人たちなんだよなーって思うだけで嬉しくなる。自分も歌集を作らせてもらって一冊の本ができることのすごさを身をもって感じたから余計に、今回文フリで買わせていただいた本は(もちろん普段書店で購入している本もだけど)、大切に読ませていただきたいと思う。(文フリで買わせていただいた本の感想はまた別でnoteに書きたいなとは思ってるけど、思ってるだけかもしれない。。。)

 それから、文学フリマの運営スタッフの方々がとても素晴らしくて感動した。開場前の行列の整理からのスムーズな入場、第一会場への案内の声掛けなど本当に慣れていないわたしにとってはありがたく、縁の下の力持ちさんたちに感謝します。



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