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円谷英二が望んだ本当のウルトラセブンとは?~ウルトラセブンが面白くなかった?

令和の時代になってもなお、多くのファンに愛されるウルトラセブンはウルトラシリーズ最高傑作とも評されています。
個人的にはちょっと大げさにも思えますが、シリーズトップクラスの名作であるというのは同意できます。

ですが、その名作ウルトラセブンに対して苦言を漏らしている特撮界の巨匠がいらっしゃいました。


ウルトラセブンの欠点と当時の評価

その人物の名は『円谷英二』
そうです。ウルトラシリーズを制作する円谷プロの初代社長にして特撮の神様とされる映画監督です。

ウルトラQからずっと監修を行っていた円谷英二監督はウルトラセブンの出来栄えに関してはかなり苦言を漏らしていたようで、「ウルトラセブンの帰還」という本では英二監督の日記が引用されてセブンに関する直球なコメントが多く載っています。

ウルトラセブンは大人向けのシリアスな作風で現在でもマニアやファンから人気が高いのですが、実は放送当時の人気はウルトラマンやウルトラQほどではありませんでした。
ウルトラマンは平均視聴率36%を余裕で超え、最高視聴率は42%にも達するほど凄い人気を博していたのですが、セブンの最高視聴率は放送最初期に33%強まで、しかも番組後半からは20%を下回るようにもなってしまい、最低視聴率は16%台と急下降しています。

何故こうなったのか、その理由は全エピソードを見てみると分かりますが……

ウルトラセブンの活躍が地味過ぎる

これが一番の原因となります。その理由も明白で

  • 巨大化して戦わない(1話・6話・9話・17話)

  • 敵と直接戦わない(7話・37話)

  • 円盤や宇宙船が相手で格闘をしない(21話・22話・33話・36話・40話・43話)

  • 巨大化しても内容が地味だったりとても短い(第1クール全般・25話・31話・44話)

といったエピソードが多いためです。確かにウルトラセブンはウルトラマンに比べると、派手に戦うシーンが少なく感じるんですね。
特に第1クールはすぐにセブンが敵を倒してしまう展開で占められ、実際にセブンが戦っている時間もほとんど1分足らずであることも分かります。

第1クールはウルトラセブンが出てくるまでの時間も遅め

こうしたエンターテインメント性の薄い展開が、子供達には受け入れられずに敬遠されてしまったのです。

円谷英二の手厳しい評価

視聴者=子供達を楽しませることを第一に考えていた円谷英二監督にしてみれば、ウルトラセブンは大人の視点から見てもつまらないと感じる要素が多々あると見抜いていたようです。

もちろん、その全てが駄目だったのではないようですが、私個人も感じている「ウルトラセブンはウルトラマンに比べると娯楽性が弱い」という思いが伝わる作品に対するコメントが日記には記されています。
さすがに元本は確認できないので、「ウルトラセブンの帰還」に載ってる円谷英二の各エピソードに対するコメントを引用してみましょう。

  • 10月5日 満田のオールラッシュを見る。派手なところ、山場なし。いや、あるにはあるが感銘薄し。
    これは第4話「マックス号応答せよ」と第6話「ダーク・ゾーン」です。

  • 10月11日 的場君担当の特撮二本出来悪し。
    第7話「宇宙囚人303」と第10話「怪しい隣人」のラッシュ試写のコメント。

  • 10月23日 的場君のトリックシーンなってなし。注意しておく。
    第11話「魔の山へ飛べ」のコメント。操演怪獣ナースの動きや演出が悪かったのは、確かに納得です。

  • 10月25日 一日遅れて第○話のウルトラセブンを今朝試写を見る。期待してみたが意外に面白くなかった。
    このコメントについては、完成試写の話数が表記されていませんが11月1日の日記に第6話「ダーク・ゾーン」の完成試写で「またしても不満足」とコメントしていることや、日付からも計算すると10月29日放送の第5話「消された時間」であることが分かります。

  • 10月25日(↑と同日) 午後は第10話のオールラッシュを見たがこれも面白くない。結局は両方の作品とも見せ場が弱く物足りないの一語につきる。(中略)第4話の視聴率が発表されたが(中略)一度に1%強落ちたのだから大きい。(中略)その弱点が、この物足らない作品の内容にあることは疑いない。ウルトラQ、マンのイメージを追っている子供には不満なことがこの視聴率になっているのではないかと、反省せざるを得ない。
    午後に見ているラッシュ試写については、イカルス回の第10話は上記の10月11日時点でラッシュ試写をしているコメントや18日に完成していること、第8話「狙われた街」のメトロン回が21日にクランクアップしていることから、メトロン回に対するコメントだと分かります。
    英二監督は視聴者目線でしっかり作品の欠点を分析していました。

  • 10月28日 「V3から来た男」の構成について色々協議する。新番組になってどうも構成がまずい。どの作品を見ても物足りない作品ばかり。(中略)今朝、ウルトラマンのアメリカ版を見ても今度のもののまずさが目について残念に思った。
    番組を充実させるため、英二監督直々のテコ入れが行われ始めています。さらに、直前に試写した第5話や前週に放送されたばかりの第4話が暗に駄目出しされていますね。

  • 11月15日 3日前、塩原で見たウルトラセブンが面白くないので心配していたことだが、今日発表を聞くと29%とダウン。20%台に落ちたことがなんといっても残念でならない。すっかり頭に来てしまう。
    第7話「宇宙囚人303」に対するコメント。かなり率直に不評を漏らしてますね。

  • 11月16日 鈴木君の前作「怪しい隣人」には散々注意したが、その甲斐あって今日の完成試写を見て、少々見るに耐える出来に仕上がったので安心した。
    このコメントは、1週間前にクランクアップしたばかりの第13話「V3から来た男」と第16話「闇に光る目」のラッシュ試写のようです。11月14日にもタイトル名付きで「まず良好の出来」とのコメントがあります。ちなみに両作品が完成するのは、もう1~2週間先。

  • 11月16日(↑と同日) だらしのないシナリオだと思って筆を加えていたら、宮崎の作だと聞いてさもありなんと思う。
    このコメントにある『宮崎』という人物は第21話「海底基地を追え」の脚本を書いた赤井鬼介のことです。シナリオ編集の段階から滅茶苦茶酷評されています。ただ、編集をしても無駄だったようで、本編は面白くありませんでした。

  • 11月19日 急ぎ帰宅してウルトラセブンの放送を見る。先週は視聴率が落ちたので心配でたまらないのだ。今週のは少々安心だ。これで視聴率がどれくらい盛り返せるかな。
    ラッシュ試写の時点では満足しなかった第8話「狙われた街」ですが、編集が良かったようで完全でこそなかったものの、それなりに満足したようです。次回の「アンドロイド0指令」放送直後の11月26日の日記には「視聴率が30%に上がってホッとした」と微笑ましいコメントもしています。

  • 1月11日 検定に出かける。1作は鈴木のもの。他の二作は一の作品。三作ともまずまず良好であった。プロジェクトブルーのオールラッシュを見る。
    鈴木監督の作品、というのは第16話「闇に光る目」のこと。円谷一監督の作品は第17話「地底GO!GO!GO!」と第18話「空間X脱出」です。第19話「プロジェクトブルー」の感想については残念ながら書いていませんでした。

  • 2月19日 夕刻「人間牧場」の完成試写を見る。二度試写して見たが鈴木もどうやら演出に安定感が感じられる。
    エピソードの内容自体は地味で、個人的には物足りませんでしたが映像がセピアになったりする演出がウケたようです。

  • 4月14日 今夕はウルトラセブン「ひとりぼっちの地球人」満田演出一寸面白い。先週は26%まで下がった。持ち直したいものだと祈る気持ち。
    このコメントの日付は第28話「700キロを突っ走れ!」が放送されていますので、次回の完成試写です。ファンにも好評なプロテ星人の回は英二監督にも好評だったようですが、この頃は視聴率が低下気味だったので残念な結果になってしまいました。

  • 5月8日 「さまよう惑星」の試写をする。面白くできているのでOK。
    ウルトラセブンも前週より良かったので、これも安心。
    第32話「散歩する惑星」のコメント。カプセル怪獣の登場や、怪獣メインのエピソードのためかウケた様子。個人的にはもう少し手直しをして欲しかった回でした。ちなみにこの日付の3日前には第31話「悪魔の住む花」が放送されており、ちょっとだけ視聴率が上がっています。

  • 9月5日 満田の演出、最終回らしい哀愁もあって、頗る上出来なり。満足して帰る。
    伝説となった最終話「史上最大の侵略 後編」はやはり、英二監督も絶賛するほど認められた傑作であることがはっきり分かります。

また、「ウルトラセブンの帰還」と同じ著者の「怪奇大作戦の挑戦」という本にも日記が載っていますが、円谷英二は上記のセブン最終話に対する日記の直後の日付で「戦え!マイティジャック」に対するコメントで、「ウルトラセブンのようになっている」と不満げに書いています。
このことから、やはり全体で見ても英二監督にはウルトラセブンは面白くなかったのだということが見て取れることになります。

結論:円谷英二が求めていたウルトラセブン

以上のように、円谷英二監督はウルトラセブンに関してはウルトラマンのように心から満足できた作品では無かったということがはっきり分かります。

実の所、私個人としても英二監督と同じ意見でウルトラセブンは全体で見るとウルトラマンよりも不満に感じる点が多く感じられました。

では、英二監督はどんなウルトラセブンなら満足できたのでしょうか?
第一前提としては、やはり視聴率アップに繋がる完成度の高い作品でしょうが、現代のファンから評価の高いエピソードでも英二監督には面白くないと言われてしまっています。
反面、「闇に光る目」や「散歩する惑星」など、特別傑作とは言えないエピソードが逆に英二監督には評価されていたりします。

私が思うに円谷英二の評価ポイントは『ドラマ』と『特撮』の両立なのではないかと考えています。

例えばストーリーが素晴らしい初期の名作・第6話「ダーク・ゾーン」は完全にドラマ特化で、派手な見せ場やアクションもありません。
セブンも巨大化しない上に戦闘時間は20秒にも満たず。ウルトラホークが出撃しても戦闘シーンも無いので、英二監督はそれが不満だったのでしょう。

そして、それは視聴率にも反映されて次回の「宇宙囚人303」では32%から29%と一気にダウンしてしまっています。
ちなみにこの回もセブンが戦うシーンすら全くないため、英二監督は「面白くない」とコメントしたに違いありません。
この点に関しては、私も同意してしまいます。

英二監督による初めてのテコ入れが入った第13話「V3から来た男」はそれまでのエピソードからは見違えるほどセブンの戦闘シーンが見応えのあるものに進化しています。
この回は適度なドラマと特撮シーンが両立されており、大変見所のあるエピソードでした。
脚本の段階ではドラマ部分がもっと強かったそうですが、ドラマばかりに気を取られていると肝心のセブンの活躍も描けなくなってしまうんでしょうね。

では特撮が良ければ良いのか? と言うと、そうでも無いというのも分かります。
第5話「消された時間」は、ウルトラマンでは第1話や最終話など、数々の名作を生みだした英二監督の長男・円谷一監督が担当したエピソードで、操演宇宙人とウルトラセブンの戦いを初めて作った意欲的なものでした。

英二監督も実績がある息子の作品だからこそ、期待をしていたのでしょうが評価はそこまで良くありません。
これは恐らく、ドラマ部分が色々と突っ込み所が多かったりするのがいけなかったのだと思います。
私自身も特撮以外に関してはこのエピソードが全49話の中で最も完成度が低く感じられるものでした。

しかし、後のエピソードの「空間X脱出」「地底GO!GO!GO!」の方ではそこそこ評価を得ており、特に前者の方は円谷一監督作品のウルトラセブンの中では最もセブンの見せ場も多く、ウルトラ警備隊の活躍や冒険も適度に描かれたウルトラマンの「怪獣無法地帯」を彷彿とさせるエンタメに溢れていました。

  • ドラマ部分に矛盾や破綻、蛇足がないか? 特撮シーンと合っているか?

  • 特撮はちゃんと見せ場が良いか? 変な絵になっていないか?

  • ウルトラセブンや戦闘メカ、怪獣や宇宙人もしっかり活躍しているか?

  • 特撮はちゃんと見せ場が良いか? 変な絵になっていないか?

  • メイン視聴者の子供を満足させられるように作れているか?

この要素が円谷英二がウルトラセブンに求めていたものだったのではないでしょうか。
その全てが詰まっていたのが最終話であり、だからこそ英二監督はとても満足されたコメントを残したのではと思います。

要するに、ウルトラマンと同じ流れのものを求めていたんですね。
ウルトラマンの方もセブンより子供向けながら「謎の恐竜基地」「故郷は地球」「まぼろしの雪山」「撃つな!アラシ」「小さな英雄」といった大人が見てもドラマが面白く、それでいてエンターテインメントも両立したエピソードが数多くありました。

ちなみにウルトラマンに関してのコメントも「ウルトラセブンの帰還」には少しだけ載っており、第16話「科特隊宇宙へ」と第17話「無限へのパスポート」を「中々面白い」と好評されています。


あとがき

私個人としても、「ウルトラセブンはもう少し工夫すればウルトラマンのようにもっとエンタメを強くできたんじゃないかな?」とずっと疑問を抱き続けています。

ウルトラセブンは確かに名作と呼ぶに相応しいのですが、あくまで注目されているのは「ドラマ」の方だけで、「エンターテインメント」としてはあまり注目されていないことが見て取れるのです。

  • ダーク・ゾーン

  • 狙われた街

  • 超兵器R1号

  • 盗まれたウルトラ・アイ

  • ノンマルトの使者

  • 第四惑星の悪夢

  • 円盤が来た

最終話も含めると、ウルトラセブンで話題に挙がったりランキング上位に載りやすいエピソードと言うと大抵、以上のような重苦しいドラマ特化か異色回ばかりになってしまいがちです。

セブンが『名作』『最高傑作』と評価されているのは最終話や上記のエピソードばかりが一際目立って注目を浴び過ぎていて、他のエピソードの良し悪しをよく見ないで過大に評価をされているんじゃないか? と危惧を感じてもいます。

セブンは大人だけが見るには充分かもしれませんが、子供と一緒に見る作品としてはあまりオススメできないという印象が強いです。
なので、「どう工夫すればセブンはもっと面白くなったのだろう?」と、ずっと考えてしまうのでした。

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