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ZIMAを見ると思い出す人

今日は冷え込みましたね。
雪っぽいようなみぞれっぽいようなものがチラつく中、
妻と息子と一緒に近所のドラッグストアに買い物に行きました。
お酒コーナーに立ち寄った時に「ZIMA」の文字が見えました。
あ、そういえば…。と
一気に回想モードになり、その場に棒立ちになりました。

27歳頃の事です。
当時私は、フリーで映像制作部の仕事をしていました。
フリーといえば聞こえはいいかもしれませんが、来月の現場も確定しない日々ですので、普通のフリーターよりも稼ぎは少なく、
現場の無い日は繋ぎでフルキャストのバイトをしていました。
夢だけで踏ん張っていけた頃です。
制作部の仕事の一つに、私がかつて通っていた映画学校の卒業制作実習の仕事がありまして、そこで受付事務をしていたのがN君でした。
色々と話す機会も多くなり、そのうち飲みにいこうよ、という流れになりました。
高田馬場の「鳥やす」に行きました。
彼は映画監督を目指していました。
私は映画プロデューサーを目指してました。
焼き鳥を食べながら映画談義に華が咲きます。
私はビール、焼酎、ウイスキーと飲んでいましたが、
彼は初めの乾杯から最後までZIMAを飲んでいました。
他のお酒に目もくれず、ひたすらZIMAです。
「ZIMA好きなんすよねー」とN君。
ぶっちゃけ飽きないのかな、と思って見ておりました。

しばらくして、彼から電話がかかってきました。
私に制作部をお願いしたい、という依頼でした。
どうやら彼の企画、脚本がプレゼンを通り、予算が出て関西でロケをすることになった、と説明されました。

その時の私は、あまりの金の無さに家賃の払い込みが遅れ、毎月、毎月、大家さんに詫びを入れる日々で、食べるものを買うお金も無くて冷蔵庫にあった唯一のカロリー、マヨネーズを啜っていました。
マヨネーズの先端の星印にやけに腹が立ったのを覚えています。
割のいい清掃のバイト(日給1万円)にありついたばかりでしたので、
どうしてもお金を優先したくてN君の依頼を断ってしまったのです。
本末転倒とはこのことです。
身をもって知りました。
「どうしても、お願いしたいのです」と何度も電話口で懇願してきた彼の一途な思いを踏みにじってしまいました・・・。
私は生活の方が少し安定しましたが、同時に大切な物を失いました。

それでも律儀な彼は頑張って仕上げた作品のDVDを私に郵送してくれました。
彼らしい丁寧な作品でした。
家族愛が綺麗に描かれていました。
思いのベクトルが違ってくると、自然と会う機会は無くなりました。

今の仕事に就いて数年経過した時、板橋の小さな商店街で車の中から
偶然、彼を見かけました。
出会った頃と何も変わっていませんでした。
180センチぐらいはある大きな体躯に穏やかな表情をしていました。
今も監督業をしているのかは、知りませんが
私には話しかける資格はありません。

そんなことがありまして、お酒コーナーのZIMAを眺めていたところ
「そういや、今まで一度も飲んだことないお酒だ」と気づきました。
一本、購入してみました。
自宅に戻り、妻は昼食にパスタを作ります。
子供たちはカルボナーラだ、と騒ぎます。
いただきます、と子供たちが手を合わせます。
私は初めてZIMAを飲んでみました。
リンゴ風味でアルコール4%。
優しいお酒でした。
ジュースみたいで私にはちょっと物足りない感じでした。
私は、今も彼がこのZIMAを好んで飲んでいるのか気になりました。
妻の作ったカルボナーラは美味しかった。
酔いを醒ますほど、食べまくりました。
子供たちはぽかん、と口を開けていました。












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