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これが住みたいということか

家について、最近よく考えている。
昔はダンゼン一戸建てに住むのが夢だったが、
今の私は賃貸で満足している。
近所付き合いが上手くいかなかった時のリスクとか、
ローンのこととか、挙げればつまらない現実的な問題である。

私の人生に糸づく家は、どれも贅沢とは言えないちっぽけな家だ。
実家は何度か話したように、四人家族なのに定員が三人の計算式が合わない小さな団地で、防音なんて無縁だった。
部屋数も少ないのにいつもテレビが付いていて、静かな部屋で過ごしたい私にはストレスの大きな家である。
最近はあまり帰っても居ない。今の距離感が丁度良い。

満を辞して始めた一人暮らしの家は、これまた小さなマンションであった。
母の意向に沿ってセキュリティを重視しているので住みづらいというわけではないが、ハムスター小屋という愛称で呼ぶくらいには小さい。
それなのに少し家賃が高い。
でも実際頑丈なオートロックに助けられたことがあるので、今の家は気に入っている。壁が白いし、可愛い。

以上である。

自分の家遍歴が薄っぺらい。
いかんせん社会人になるまで引っ越したことのない私にとって語れる家など、せいぜい見開き2ページと言ったところだ。

ところが、である。
そんなペラペラで原始人のような凝り固まった私の元へ飛び込んできたのが彼氏の住むマンションだった。
彼氏のマンションは古いけど広い。
そして大きなテレビがあった。
私が両手を広げても届かないくらいのテレビに、おったまげた。
そんな大きなテレビは電気屋さん以外で見たことが無かったからだ。
私の小さなマンションには、とてもじゃないが置けないテレビだ。
その部屋の余白にワクワクした。
私もこんな家に住んでみたい。

鼻息を荒くしながら
『次住む家は大きな家が良いな、住んだこと無いしな』
と、ぼんやり夢を抱いていた。
そんな時である。
彼氏のマンションが今年で契約が切れるらしく、彼氏は私に
「もっと遊びに来やすい場所に越すから、将来一緒に住める家を探そうか」と誘ってくれた。
じゃあ一緒に住めよと思うかもしれないが、
これはあらゆる事情で同棲を頑なに断った私の為の、
私たちの折衷案である。

石橋を叩いて叩きまくる私にとって、この提案は最高だった。
私は約5年ぶりに【物件探し】というイベントに踏み込むことになったのだ。
物件探しというのは「100億当たったら住む」とか「東京のタワマンに住むならこんなとこがええのぉ」とか、フィクションの状態であれば楽しいが
いざ探すのは少々面倒でもある。
探しすぎると訳が分からなくなってくるし、
条件を絞りすぎると「お前に住ませるマンションはネェ!」とネットからも放り出されることになる。
ましてや、二人暮らしとなると条件絞りが大変なのだ。

私の絶対条件は「水に沈まないところ」と「地震で崩れないところ」なので
築年数が古すぎる家は弾かれた。

この条件、冷静に考えるとあと1回で死ぬマリオと同じだ。

条件がマニアックなのは承知している。
しかし私はいかなる時も絶対に溺れたく無いのだ。

彼は騒音がダメだというので家の造りにこだわっていた。
ほお、考えたことも無かった。
何故なら実家の壁が板チョコくらい薄かったからだ。
騒音、という言葉すら忘れかけていた。

マニアックな私たちの条件をくぐり抜けた家は、
立地的にも4部屋に絞られた。

古いけど部屋は大きな団地×2
駅近だけど狭めなマンション
新しいけど小さめなマンション

古いといえど私よりは年下のマンションだったので、
和室もあるし大きな団地が良いなと思っていた。

ところでこれは余談だが物件探し中、私の頭にはこの歌が流れていた。

大好きな歌なので是非聴いてほしい。
「疲れて帰るのだから少しくらいついても良い家に住みなさい」
この歌もそう言っているし広い家に住もうと思っていた。

それなのに、結局私が良いと思った家は
1番小さなマンションだったのだ。

その物件は3つめに回った家で、
何故だかその部屋を見て回った時だけ自分が住む想像がついたので驚いた。
どんな物件か思い出せるように動画を回していた私だが、
その動画を見返した時「住みやすそう」と呟いていた。

そうか、住みやすい家と広い家は違うのだ。
その家は諦めかけていたカウンターキッチンが付いていて、台所に立っている時リビングを見ることが出来た。
寝室が少し離れた場所に付いている縦長のマンションである。
部屋は狭いけど、小柄な私たちにぴったりだなと思った。

同じく広いマンションが良いと思っていた彼氏もそのマンションを気に入っていて、狭さに悩んでいた私たちは色んな人に住んでいる家の広さを聞いたり調べたりして、それでも揉めることなく物件を決めることが出来た。

建物とフィーリングが合ったのだ。
なんとなく広い家に住みたいと思っていたけれど、本当は私の感じる魅力に大きさなんて関係無かった。
小さくても居心地の良い家を探していたのだ。

人生で初めて合鍵を貰った。
私は今、その小さなおうちに住める未来を想像してワクワクしている。
今のマンションを決めた時もときめいたけれど、
それ以上に楽しみだ。
あの時は慣れない地へ引っ越す不安や混沌があったけれど、
今回の家は一緒に住む為の家なのだ。
ということは明るい未来の為なのだ。

まだ私たちの未来は足場のない吊り橋のように不安定である。
足場の無い吊り橋って、殆ど空だ。踏み出せないってことだ。
年月も深くない私たちには歩くことも出来ない吊り橋だけど、一緒の家に住むという目標が足場になれば良いなと思う。
未来への足場を築くっていうのはこういうことかもしれない。

未来はまだ不安定だけれど、今が楽しい。
楽しいことを惜しみなくくれて、ありがとう。

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