だから、神様なんていないから④
若者の活字離れが進んでいるというニュースを聞くと少し不安になる。本を売ることを職業としている者としては一大事なのだ。作家が物語を描き、出版社が形にして、私たちが読者に届ける。この流れに関わる全ての者が、この問題に対し、真摯に向き合っていかねばならないのである。
個人的には年寄りの相手ばかりだと疲れるというのもあるんですけど・・・
朝のニュースを思い出しながそんなことを考えていると、早速お客様から声をかけられた。
「検索機はどこですか」
70代くらいのおじいちゃんは、どうやら自分で本を探したいようである。いい心がけじゃないか。
「階段のすぐ横にございます。ご案内いたしますね」
「はいはい」
ぶっきらぼうに本を探せというお年寄りが多い中、自分で本を探そうとする人には自然と優しくなってしまう。頑張れ。私、山下佳奈美はあなたを応援しています。なんて考えている間に、検索機に前に着いてしまった。
「それではこちらになります。また何かあればお声がけください」
そういってすぐに立ち去ろうとしたが、ダメだった
「あの、どうやって使うんですか?」
なんと、使うのが初めてでしたか。
「こちらにお探しの本のタイトルか作者を入力してください。そうするといくつか候補が出てくるので、その中からお選びください」
大丈夫。誰でも簡単にできるから
「すみませんがよくわからないので、探してもらってもいいですか?」
・・・そのパターンだったか〜。てっきり自分で頑張る系の客だと思ったのに、実際はすぐ諦める系の客だった。騙された。さっきした応援を返してほしい。いや私がかってに応援したんだけどさ。
「かしこまりました。それではお探しの本を教えてください」
「やっぱり、若者の活字離れって進んでいるんですかね」
カウンターで作業していた相沢さんに話しかけると、少し驚いた顔をされた。
「どうしたの急に。山下はそういうの全然興味ないと思ってたのに」
「今朝、若者の○○離れについて、ニュースで取り上げていたんですよ。そしたら、その中に活字離れがあったんです」
「そっか。まあ随分と前から言われてる気もするけどね」
「でもそれって、私的にも困るんですよ」
「なんで?」
「だって、年寄りの相手ばっかりしてたら、精神的にやられちゃいますよ。たまには若者を挟んでリフレッシュしないと」
いやほんとまじで。
「あはは、サンドウィッチみたいにいわないでよ」
よくわからないが相沢さん的にはツボだったようだ。
「やっぱり、作家と出版社、そして本屋が頑張らないとですね」
「そうだね〜。私的には出版社に頑張ってもらいたいかな」
「え、どうしてですか?」
相沢さんのこの返しは意外だった。てっきり作、家か本屋に頑張ってもらいたいと言うと思ったからだ。作家にもっと面白い本を書いてもらう。それか本屋がたくさん売れるように頑張る。私はこの2つのどちらかだと考えていた。
「普通、作家か本屋が頑張るんじゃないんですか?」
「私的には出版社にちゃんと営業してもらいたいかな。やっぱり、新刊の案内だけ書かれた紙を送られても、それがどのくらい面白いのかわからないし。詳しい内容がわからないと、どれだけ注文すればいいのかもわからないしね」
なるほど。言われてみれば確かにそうだ。既に名のある作家の新刊ならば、これまでのデータからどれだけ売れるかわかるため、その分注文する。しかし、ほぼ無名の作家の新刊となれば、どれくらい売れるかがわからないため、どれだけ注文すればいいのかで迷ってしまう。本の神様じゃないんだから、わからんのだよ。
そもそも新刊の案内は、基本的には注文書と呼ばれる紙で送られてくる。おそらくその出版社の営業担当が手作りしたであろう注文書には、ざっくりと新刊の内容が書かれているが、それを見て面白そうと思ったことはほとんどない。意外かもしれないがこれが現実である。わかったか出版社どもめ。
「確かに、ちゃんと営業してもらいたいですね」
営業の仕方は出版社によって違ってくる。電話で案内するところもあれば、直接本屋まで来て案内するところもある。個人的にはこれが一番ありがたい。なにより、せっかく来てくれたのだから、少しでも多く売れるよう、頑張ろうと思えるのだ。しかし出版社の中には、注文の紙を送ってくるだけのところもある。基本的に大手の出版社にありがちだが、少し思うところもある。いやまじで、1回くらい来いよ。必死さが伝わってこないから、頑張って売ろうと思えないんだよ。いつか痛い目みるからな。まあ、売れないとこっちも困るんだけど。
仕事の帰り道、コンビニでおにぎりを買った。家に着くまで我慢しようと思ったが、お腹が空いたので帰りながら食べることにした。いや、帰ったらちゃんと夕飯つくりますよ。こう見えて自炊するんで。
改めて思うが、このおにぎりを考えた人は天才だな。フィルムを取るだけで海苔が巻かれるなんて。おかげでツナマヨおにぎりが堪能できます。
「んふふっ」
自然と足取りが軽くなる。私という人間はなんて単純なのだろうか。自分でもそう思ってしまう。先ほどまで、自由すぎる出版社たちに対して、良いことや悪いことを考えていたが、どうでもよくなった。みんな違って、みんないい。そうですよね、相田みつをさん。自分の考えが全てではないのです。
ようするに、それぞれが頑張りましょ。これからも、いろんな人に本が届くといいですね。
「うわぁ、またたくさん送られてきてるわ」
相沢さんはため息と共にそう呟いた。どうやら新刊の案内が大量に送られてきたようだ。お気の毒です。
今日も本を届けることに専念しますかな。
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