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ここでなら、素直に生きていけるかもしれないって。

きっと誰もが一度は考える、仕事と暮らしのバランス。それぞれの人生において「どこで働き、生きるのか」は、その後の出会いを変える大きな決断です。

今回お話を伺った保育士の真璃子さんは「自分はなにを大切にしたいのか」を考えた結果、東京から長野への転職・移住を決意。もうすぐ、2年目に入ります。

そんな真璃子さんにとっての大切な日——現在の職場である『森のようちえん ちいろば』(以下『ちいろば』)と出会った日のことを聞かせてもらいました。

(聞き手・執筆/染谷楓 編集/佐々木将史

目の前の仕事を7年。保育と暮らしの両立を求めて

もともと、「誰かのきっかけをつくれる人になりたい」と思って教育の世界に入ったの。

大学でお世話になった先生が、色々なきっかけをくれる人でね。そんな人に私もなりたいなって思って、教育と福祉の事業をしている法人に就職したんだ。

新卒から7年、東京で働いたよ。まず介護職を3年と、そのあとに保育職を4年。初めての仕事だから大変なことはあったけど、楽しかった。保育職のときには園の隣に高齢者施設があって、そこのイベントに園児と一緒に参加したりしてね。経験が繋がっている手応えもあって、やりがいがあった。

ただ、働く年数が増えてくると、「私はちゃんと子どものための保育ができているかな?」って考える機会が増えていった。例えば、お散歩コースは車通りが多いから、安全のために行動を制限しなきゃいけない。トイレやご飯も限られた時間の中で済ませられるよう、子どもへの声がけが強くなっていた気がして。

本当は環境が許すのであれば、トイレやご飯は子どものタイミングでいけばいいと思うし、思いっきり走ったり遊んだりさせたいよ。でも、自由にさせてあげることが難しかった。

そんな違和感を感じているうちに、大人が「自分の求めている環境の中で保育できてるか」っていうのも大切なんじゃないかって思うようになって。子どももそれを直接感じるからね。私自身もともと自然が好きなのもあって、のびのびとすごせる場所を求めはじめてたのかもしれない。

それから、もっと日常を大切にしたいと思って。保育も自分の暮らしも見直そうと考えて、2年くらいかけて自分が気になる園の見学をしていったんだ。

『森のようちえん ちいろば』に出会った2日間

長野県佐久穂町に着いたのは、初めて『ちいろば』を見学する前の日だった。

事前にホームページに書いてあったアドレスにメールをしたら、「部屋があるから、泊まっていいよ」って園長が返信をくれて。職員さんが駅まで迎えにきてくれて、夜は園長ご夫婦も一緒に、お酒を交えながら色々話した。今何歳児を担当してるのかとか、園の話とか。園長も千葉から移住してきた人で、「ここで挑戦してまだ8年なんだ」って言ってた。

そうそう、その夜にもう「人募集してるからおいでよ〜」って園長に言われたんだった。まだなにもしてないのに(笑)。でも、このときから居心地がよくて。みんなフランクで、しっかりと話を聞いてくれて、おもしろい人たちだなあと思ったんだ。

翌日からは丸々2日間、子どもたちと一緒にすごしたよ。

初日は有機農家さんの農園で遊ぶ日だった。秋で、きのこがよく採れてさ。子どもたちが長い板にきのこを一つずつ並べて、図鑑を見ながら「これ、なんだろう?」って探究してたの。その姿を見たときに、私は嬉しくて。子どもたちのそういう、自然への興味から始まる姿をずっと見たかったから。

純粋な「なんでだろう」をとことん深めていける、いい環境だなあって思った。

子どもたちの遊んでいる様子を見ていると、人間関係も体の使い方も、暮らしの中で学んでるんだなって思う。長野で出会う子たちは体力があって、元気な子どもかなって予想してたけど、実際に会ってみると感性の繊細さや純粋さに衝撃を受けた。

例えば、木の周りをぐるぐるまわっている子がいて「これは月の満ち欠けを表してるんだよ!」って言ってたり。いや、なかなか出てこないよね(笑)。朝の会を見ていても、今日の天気から話を深堀していたりして、この子たちは自然と一体なんだな、と思った。

2日目は、みんなで「長靴ラグビー」っていうのをしたよ。長靴をボール替わりに、子どもも大人もみんなで泥だらけになって走ってさ。印象的だったのは、先生たちの姿かな。子どもと一緒に本気になって駆け回る先生もいれば、子どもが主役になれるようにそっとサポートしている先生もいて、その姿がいいなあと思ったんだよね。

私も一緒に遊んだから完全に泥だらけ(笑)。楽しかったなあ。東京に帰る日だったから、靴はそのままで帰るしかなくて、泥んこのまま電車に乗ったの。『小梅線』ってローカル線なんだけど、学生さんからお年寄りまで、様々な年代の人がのんびりとした雰囲気で乗っていてね。「疲れたけど来て良かったなあ」って、2日間のことを思い返しながら東京に帰ったよ。

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自然と「自分ごと」になる環境

そのあと仕事を辞めることが決まっても、長野に行くかどうかしばらく迷ってた。でも、やっぱり惹かれていて。他の園を見ても、どうしてもちいろばのことが忘れられなかったんだよね。

みんなと実際に会って、ここでなら素直に生きていけるかもしれないって感じたから。仕事は、人生の中で沢山の時間を使う大切な部分だし、働くならやりがいを持てて必要とされている場所に行きたい。そう思って、採用募集の締切直前に「えーい!」って履歴書を送ったんだ。あのとき送って良かったよね。心底そう思う。

移住してからずっと、素敵な出会いに恵まれてるんだ。自分で学んで、それを日々生かそうとしているシェアメイトや、可能性を信じてくれる先生たち。元気がないときには肩を叩いてくれる保護者さん。他人のことを自分ごととして捉える、優しい人ばっかりなんだよね。

ああでも、子どもたちもそうなのかもしれないな。この間、素敵だなあと思ったことがあってさ。

私たちが「子どもミーティング」って呼んでいる、年少さんから年長さんまでみんなで話し合う場があってね。その日は、友達に手が出ちゃった子の話し合いをしていたの。

こういうときって「自分が叩かれていやだった」とか、相手をどうするかって発言が出てきがちだと思うんだ。でも、ちいろばでは「どういった声を相手にかけていけばいいか?」っていう目線で話ができていたんだよね。20〜30分くらい話してたかな。年少さんもしっかり自分の言葉で参加して。

話し合いが終わったあとがまたおもしろくて、空気ががらっと変わったんだよね。トラブルがおきても排除するんじゃなくて、どうしたら解決できるかをみんなで模索して提案できるんだなって。他人ごとが自分ごとに変わるのを、子どもたちの中にも見つけた瞬間だった。

「わからないから参加しない」じゃなくて、どんなことでもいいから自分の感じたまま発言する。みんなが「自分ごと」にできる。ここは、そんな環境なんだよね。大人も子どもも、それぞれの個性を大事にできる人たちが集まっていて、いいなあと思うんだ。

軽やかな挑戦にエールを

初めて来たとき、園長は「ちいろばは、誰もが主役になれる場所」って言ってた。私もそんな場所で挑戦してみたいと思えたから、ここにたどり着いたのかもね。

だから、今ある園はあくまでもその実現へのひとつで、私も保育に囚われてはいないんだ。実は最近、違うこともしたいなーって思ってる。周りも、新しいこと思いついたら「いいじゃん!やっちゃいなよー」って人たちだからさ(笑)。

例えば、いつか「0歳から100歳までのみんなの居場所」をつくれたらいいなって思ってる。これは団体の方針でもあるんだけどね。様々な年代の個性が混ざり合って、それぞれが得意なことを生かしあえる、そこにいていい居場所。

暮らしはその場で終わるものじゃなくて、地域で広がって、繋がっていくものだと私たちは考えてるから。自分としてもこっちでノウハウを積んだら、いつか東京に戻って同じようなことが実現できても素敵だなと思う。

正直今は「移住したぞ!やったー!」っていうより、新しいことへのチャレンジに毎日必死(笑)。でもさ、すごく楽しいんだ。しっかりと考えなきゃいけないことは勿論あるけど、可能性を楽しめるのは嬉しいことだからね。

自分自身、もっと軽やかに挑戦して。それがいつか、みんなの挑戦を応援するきっかけになれたらいいな。

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