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映画「天外者」~時代を駆け抜けた男

江戸末期、ペリー来航に震撼した日本の片隅で、新しい時代の到来を敏感に察知した若き二人の青年武士が全速力で駆け抜ける ——
五代才助(後の友厚、三浦春馬)と坂本龍馬(三浦翔平)。二人はなぜか、大勢の侍に命を狙われている。日本の未来を遠くまで見据える二人の人生が、この瞬間、重なり始める。攘夷か、開国かー。五代は激しい内輪揉めには目もくれず、世界に目を向けていた。そんな折、遊女のはる(森川葵)と出会い「自由な夢を見たい」という想いに駆られ、誰もが夢見ることのできる国をつくるため坂本龍馬、岩崎弥太郎(西川貴教)、伊藤博文(森永悠希)らと志を共にするのであった ——(公式HPより)

三浦春馬主演“天外者”
これはスクリーンできちんと観たいと思った。

幕末から明治にかけて活躍した五代友厚の物語。
武家に生まれ実業家として生き抜いた男。
朝ドラでディーン藤岡が演じて話題になったことは知っていたけど、
どういう人物なのかはほとんど知らなかった。

物語は長崎から始まる。
幕末を彩る人物との出会い。
坂本龍馬、伊藤博文、岩崎弥太郎…
史実とは異なるだろうが、この面々が集まって、すきやきをつつく姿に日本の未来が見える。

日本の転換期を支え、社会を変えた男たち。
武力ではなくこれからは経済で社会が動くと見抜いた男たち。

五代は貧しい農家に生まれ、女郎として売られた“はる”に出会う。
過酷な環境で生き抜かなければならない運命。
その中でもはるは本が読みたいと字を覚える。
その姿に五代は惹かれる。
“誰もが自由に生きられる社会を作りたい”と切に願うようになった。

だが現実は厳しい。
イギリス軍の捕虜となり日本と世界の力の差を知る。
今の日本の武力では列強の足元にも及ばない。
このままでは日本は意のままに操られてしまうと危機感を抱いた。

五代は人の見えないものが見える人。
彼の行動は常人には理解できないものも多い。
先を行き過ぎるのだ。

だからこそ鎖国を解き、突然世界と戦わなければならなくなった日本にとっては必要不可欠な人だった。
もし彼がいなければ…日本はどうなっていたのだろう。
あらゆる利権を奪われ、植民地状態となっていたかもしれない。

だが彼はさまざまな批判に晒される。
私利私欲のためだけに生きているようにも誤解される。
彼は言い訳をしない。
彼にとっては人からどう見られるかなど取るに足らない些細なことだった。

幕末から明治への混乱した社会。
傷ついた人たちもいた。
誰もが自由に生きられる社会を作るためには必要な痛み。
その痛みをもすべて背負ったのが五代。
彼はあらゆるものを一身に背負い、日本経済を導きこの世を去った。
その葬儀には何千人もの人たちが訪れたという。

彼の行動、真意はきちんと伝わっていた。
だからこそ彼の生きた時代から100年以上の時を経ても彼に惹かれる人たちがいる。


一人の人間の生涯をわずか2時間の映画にいかにまとめるか。
魅力をどう伝えるか。
ここまで波乱万丈の人生なだけにかなり厳しかったように思うが、みごとに集約されていた。

日本の外を学び、これからの社会に必要なものは経済力であると商売人として生きることを決意した先見の明。
その一方で商人である前に「正義」「大儀」を重んじる一人の武士としての生きかたは捨てない五代の姿を感じることができた。

大阪経済の基礎を築いた人物。
それだけ大きなことを成し遂げるためには人脈が必要。
頑固で融通の利かない、嫌われ者ではそれは手に入らない。
嫌われている描写が少し多すぎるようにも感じたが、自らをさらけ出し熱意で語った演説のワンシーンだけでその求心力を示したのは見事だった。

演じたのは俳優三浦春馬。
自分に過剰なほどの自信を持ち、夢をみていた青年の姿。
現実を知り、悩み苦しみ成長していく姿。
日本のため社会のためにと自らのことは省みずに
目的のためだけに強気の姿勢で邁進する姿。

変化していく五代の姿を見事に表現していた。
三浦春馬は天真爛漫な笑顔と陰りのある表情のどちらもが素晴らしい。
同じ人物には見えないほどのギャップがたまらない。
そして目。
あの目はすべてを見透かしているようにしか見えない。
ありきたりな表現しかできないけれど
五代の生き方への強さがすべてあの目にあった。
自らの信念のために行動するその目は強く美しかった

圧倒的な存在感を感じさせる俳優。
舞台“Kinky Boots”でも感じたこと。
他の俳優さん目当てに行ったのにも関わらず、
三浦春馬から目が離せなかった。
理由はよくわからない。
ただそこに目が行く。オーラなのか何なのか。
存在が気になる俳優。
春馬沼にはハマらなかったけど、
今まで見た舞台の中では一番だったと断言できる。

彼の旅立ちのことを聞いたとき言葉が出なかった。
ただショック。
もう彼が誰かの人生を演じることはないのだと。
もうローラに会えないのだと。
喪失感しかなかった。
本当にもったいないんだよ。
あの存在感は努力だけで得られるものではなかったと思う。
天賦の才能。

彼の中に何があったのかは誰にもわからない。
旅立ちはとても悲しく寂しいけれど、
彼の選んだ道。

誰もが自由に生きられる社会を目指した五代。
今の日本はどうなのだろう。
幕末、明治の時代よりはきっと格差などは小さくなっているはず。
取りこぼしがあるとはいえ、生きる権利、教育を受ける権利、いろいろなものが保障されている現代社会。

その一方で何かがおかしい。
見えない場所から歪んだ正義を振りかざし、自分を正当化するかのように他の誰かを無責任に叩く。
誰かの人生をエンタメとして消費する。
いいねの数、再生回数、誰かにかまっていてほしくてただの数字にこだわる。
もっと自由に生きられるはずなのに、何か見えないもので他人を縛り、自らを縛っているように感じる。
他の誰かのことを気にしなければもっと自由になれるのに、それがなかなかできない。
人は弱いです。

自分の目と耳と心を信じ、自らの目的のために強く生き抜いた五代の生き方にあこがれる。
五代の姿を見ていると、三浦春馬にも命が自然と尽きるまで生き抜いてほしかったと思う。
旅立ちによって真実の自由を手に入れたのかもしれないけれど、遺されたものはつらい。
もっと他の誰かを生きる俳優三浦春馬の姿が見たかった。
でも過ぎた時間は戻らないから、彼が彼方の空で穏やかに過ごしていることを祈る。
上映後、各地の映画館で拍手が起こる。
彼に届いていますように。

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