20 梅すだれ 肥後の国
六一郎がいなくなったことをまるで息子を失ったように悲しんだ男が、六郎太のほかにもう一人いた。それは隣の村の与兵衛である。齢五十であるが、その風貌は七十に見えるほどに老け込んでいる。この数年の出来事が与兵衛をそうさせたのだ。何を隠そう、与兵衛は切支丹で島原の乱では原城にたてこもった一人だ。原城は乱の最後に切支丹たちが籠城した城で、有明海を挟んで天草の向こう側にある。なぜ与兵衛が有明海を渡ってまで籠城することになったのか。
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