見出し画像

お口の健康と認知症予防

オーラルフレイル

フレイルとは主に「身体的な虚弱状態」などを指します。
「フレイル予防」なんて言葉が最近よく聞かれるようになりましたが、ご存知でしょうか?

そんな中、オーラルフレイルに注目が集まっています。
オーラルとは「口」のことで、オーラルフレイルとは「お口が弱っている」という意味になりますね。

注目されている理由は、オーラルフレイルの予防対策が、認知症予防にもつながると言われているからです。

オーラルフレイルは老化の始まり

  • 食べこぼしが増えた

  • むせやすくなった

  • 硬いものが食べづらくなった

  • 滑舌が悪くなった

これらは全てオーラルフレイルであると判断される要因です。

先にお話しした通り、オーラルは「口」 フレイルは「虚弱」を意味しています。

ざっくり言うと、オーラルフレイルの症状が「老化の始まり」のサインとして捉えられるようになってきました。

オーラルフレイルで認知症になる?

フレイルは、健康と要介護の中間にあると言われています。

中間というのはつまり、
「放っておくと介護が必要になるかもだけど、早めに対策すれば健康な状態に返り咲きできますよ」
ということを指しており、これを可逆性と言います。

オーラルフレイルは、フレイルの中でも比較的早い段階で起こりやすい傾向にあることから、この症状が見られた時点(=初期)なら早期回復が可能ということが言えます。

「誰かと一緒に食事をする」という行為は、社会的行動の一種です。

そういう社会性を維持することと、健康維持は結びついているということが明らかになっており、口腔機能の健康も例外ではありません。

先に触れた

  • 食べこぼしが増えた

  • むせやすくなった

  • 硬いものが食べづらくなった

  • 滑舌が悪くなった

という症状があると、家族はともかく、「知人友人と食事をするのが恥ずかしい」など、社会的行動から離れてしまう人が少なくないんです。

ということは、オーラルフレイル対策によって健康維持が期待でき、それが社会性の維持につながっていくということになりますよね。

健康と社会性を維持することは、それイコール認知症予防になります。
もちろん、悪化予防や改善にも。

8020運動とは?

8020運動(はちまるにいまるうんどう)って聞いたことありますか?

80歳になっても20本の歯を残そう」という意識を高めるための取り組みのことを言います。
歯が20本もあれば、食生活にはほぼ困らないんだそう。

ちなみに成人の歯(永久歯)の数は、親知らず4本を除いて28本です。
正常なら最低でも28本ですが、8本は抜けても大丈夫ということですね。
抜ける場所にもよりそうですが。

実は8020運動は、1989年から当時の厚生省と日本歯科医師会が推奨している運動。

歯が抜け落ちることもまた、オーラルフレイルです。
硬いものが噛みにくくなるし、滑舌も悪くなりますからね。

オーラルフレイルの概念が生まれたのは比較的最近ですが、国の狙いとしては、オーラルフレイルという新たな概念を普及させることで、8020運動を促進しようという感じですかね。

身体機能を左右する「咬合力」とは?

オーラルフレイルの可逆性について先述した通り、初期からの対策によって回復できるということは、オーラルフレイルの改善によって身体機能全般の機能を維持できるという風にも考えられます。

もちろんオーラルフレイルだけが身体機能低下のきっかけではないんですが、きっかけのひとつであることには間違いありません。

詳しいことは 【オーラルフレイル 認知症】 で検索すればいろいろ出てくるので参考にしてくださいね。

噛む力の低下は〇〇も低下させる

「硬いものが食べられなくなった」原因に、咬合力の低下が挙げられます。
咬合力(こうごうりょく)とは、噛む力のことです。

咬合力と身体機能の関係でこんな話があります。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

デイケアを利用する高齢者55名を対象に、咬合力の測定、残歯本数、片足立位時間や握力など身体機能測定を行った。
結果、咬合力は身体機能との関連が認められ、特に片足立位時間に影響していることが示された。
これは、咬合力が高齢者の立位バランスに影響を与える因子であることを示唆している。

【参考】
咬合力と身体機能の関連:立位バランスの要因としての咬合力

山本裕氏・古後晴基氏

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

少し話が飛びますが、一流のアスリートは、奥歯がすり減っている人が多いです。
踏ん張る時などに奥歯に力を入れて噛み締めるそうなんですが、結果を残しているアスリートほど、その能力を発揮するために奥歯に力を入れているとか。

逆に、オーラルフレイルによって咬合力が低下すると、全身に力が入りにくくなるということ。
力が入りにくくなると、どんどん動くのがおっくうになります。

廃用症候群とサルコペニア

すると、その分筋力もどんどん低下していき、廃用症候群・サルコペニアを引き起こしていきます。

※廃用症候群とは
安静にしている状態が長く続くことで心身が衰えること。

※サルコペニアとは
筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態。

「動かなくなるとボケる」と言いますが、それは結構正しい。

一度動くのがおっくうになると日常的に活動しなくなり、廃用症候群やサルコペニアを誘発。

廃用症候群やサルコペニアでは筋力低下が起こるわけですが、筋力が低下することで、今度は全身の血流が悪くなる。

全身の血流が悪くなるということは、脳に充分な血液(酸素や栄養)が回らなくなります。

脳に酸素や栄養が十分に回らないと、脳の機能が低下していく。
それが認知症の始まりと言っていいですね。

認知症の本当の原因

「認知症の原因」と言うと、誰しも脳にばかり目を向けがち。

ですが先述の通り、身体機能低下が認知症を招くこともあります。

オーラルフレイルを予防する方法は、日常的な口腔ケア・歯磨き。

これだけで全身のフレイルを完全に予防できるわけではないですが、少なくともフレイルの要因を一つ解消することにつながります。
転じて、認知症になる要因も一つ解消できる…ということ。

8020運動の達成率が今後さらに増え、同時に認知症患者数にも変化があった場合、オーラルフレイル予防と認知症予防の関係は確実なものになるんです。
もちろん、摂食・嚥下障害(食べ物をうまく食べられないこと)の改善にもつながります。

事例:劇的な変化が起きた胃瘻の女性

寝たきり、胃瘻で3食経管栄養の70歳の女性がいました。

その方はたまにうなるような声を上げたり目線を合わせてくる程度で、声を掛けてもそれ以外の反応はない、あるいは稀に返事の様にうなり声をあげる程度。

せめてもの刺激にと、食事時間にフルリクライニング式車いす(ベッドに近いくらい横になれる車いす)に起こして、他の方と同じ食事時間を過ごしてもらっていたけど、目に見える改善はありませんでした。

そんなある日、この方に経口移行訓練を行うことになりました。
経口移行訓練とは、胃瘻などで口から食べていない人に、もう一度口から食べてもらうために行う訓練です。

誰でもできるわけではありませんが、評価の結果、この方は口から食べられる可能性があると判断されたんです。

訓練の内容はざっくり言うと、

  • 口・歯の健康状態の改善

  • 全身の緊張緩和・筋力増強

  • 集中して食べられる環境の設定

これだけではありませんが、主だったところはこんなところです。
これを何日、何か月とかけて実践していきます。

この方は70歳と若かったこともあり、訓練の経過は良好。
1ヶ月後にはお膳を提供し始められるほどでした。

2ヶ月後、お膳の7割は食べれるようになりました。

すると、以前に見られなかった大きな変化がおきました。

今までうなったりする程度の反応しかなかった方が、声掛けに対し、声を出した笑うようになったんです

あれは嬉しかったな。

経口移行に向けての準備期間では、入念な口腔ケアが欠かせません。
そのケアを適切に行えれば、口内環境は劇的に改善していく。

また、形あるものを「よく噛んで飲み込む」という動作が、口腔機能の更なる回復につながったと考えられます。

オーラルフレイル予防が認知症予防につながるというのも、どうやら間違いではない…

むしろ、認知症を改善する可能性すら秘めていることが、この事例でよくわかりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?