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漫画原作シナリオ『あなたの恐怖、解決します』第1話

【あらすじ】
栗山日奈子(16)は電車内で痴漢されたところを白石恵理(16)に助けられる。恵理はウルバッハ・ビーテ病という恐怖を感じない病気を抱えており、痴漢が怖いという感情がわからないという。
翌日、日奈子はストーカー被害に悩んでいる笹川玲子のことを恵理に話すと、恵理は日奈子を連れて問題を解決しようと動き始める。

【本編】
◯電車・車内(朝)
満員の車内。
手が伸びて栗山日奈子(16)の臀部をさわる。日奈子は硬直する。手は日
奈子の臀部をまさぐる。
スマホを見ていた白石恵理(16)が電車の揺れでスマホを床に落とす。恵理はスマホを拾う際、日奈子が痴漢されているのを見ると、猛然と日奈子に触る手を掴みにかかる。

◯駅のホーム(朝)
電車の扉が開くと犯人は逃げようとするが恵理は犯人の手を離さず、腹に蹴
りを入れる。駆けつけてくる駅員。
日奈子も電車から降りて呆然とその光景を見る。

◯駅員室(朝)
並んで座る恵理と日奈子。恵理は制服を見て
恵理「同じ学校だよね」
日奈子「あ、そうですね」
恵理「何年?」
日奈子「1年です」
恵理「同じ同じ、じゃあ1組?」
日奈子「はい、2組ですか?」
恵理「うん、じゃあ敬語なしで」
日奈子「うん。あ、ありがとう。強いんだね」
恵理「キックボクシングやってるから」
日奈子「そうなんだ」
恵理「怖かった?」
日奈子「うん」
恵理「やっぱ痴漢されると怖いんだね」
日奈子「……勇気あるんだね」
恵理「いや私、怖いって感情がないんだよね」
日奈子「え?」
恵理「ほんとにほんとに。ウルバッハ・ビーテ病という脳の疾患で。怖いという感情がないの」
2人が目を合わせ恵理が笑う。

◯タイトル「あなたの恐怖、解決します」

◯カフェ・外観(朝)

◯同・店内(朝)
ケーキを前にする恵理。
恵理「いただきます(食べる)」
日奈子がウルバッハ・ビーテ病をスマホで検索して確認している。
日奈子「ほんとにあるんだね、そういう病気」
恵理「疑ってた?」
日奈子「いやいや、念のためっていうか」
恵理「ねー信じられないよね、母親もそうだから遺伝なんだろうけど」
日奈子「へー……」
恵理「で、訴えないでよかったの? 犯人」
日奈子「え、ああ、やっぱり逆恨みが怖いっていうか」
恵理「逆恨みなら私じゃない?」
日奈子「ああ。でもわたし、すごい恐がりで、嫌なんだけど」
恵理「(フォークを置き)参考のため聞きたいんだけど。恐怖をわたし研究してて」
日奈子「恐怖を研究」
恵理「痴漢されるってどういう怖さ?」
日奈子「え?」
恵理「急に触られたら、わたしは怒りしかわかないの、恐怖ってどういう感じ?」
×   ×   ×
電車で日奈子が犯人に触られる。
×   ×   ×
日奈子「……気持ち悪い」
恵理「気持ち悪いってその感触が? 触られていることが?」
日奈子「無理」
恵理「え?」
日奈子「思い出したくない」
恵理「あ、ごめん、ごめん。わたしよくこういうことやっちゃって(半泣きになる)。嫌なこと聞いて、ごめんね」
日奈子は恵理から悪意を感じず、珍しい生き物のように見る。
日奈子「大丈夫。でも、今日はこのまま家帰ろうかな」
恵理「電車、平気?」
日奈子「この時間なら空いてるし」
恵理「明日の朝は? 電車、一緒に乗る?」
日奈子「……いいの?」
恵理「もちろん」
2人がスマホを近づける。

◯学校・外観

◯同・教室
教師が授業をやる中、恵理は斜め前の小山勇紀(16)がノートをとる姿を
楽し気に見る。
×   ×   ×
机の上に弁当箱を出す恵理。
美咲(16)と女子数名が近づき、
美咲「今日なんで遅刻したの?」
恵理「痴漢されてる子がいたから助けたの」
美咲「え、すごい」
恵理「ぜんぜん。犯人弱かったし」
美咲「でも恨まれるかもよ」
恵理「そんなの馬鹿げてるでしょ」
美咲「そっかー、怖くないんだもんね」
美咲と数名の女子は教室を出て行く。
恵理は1人で弁当を開けて食べる。

◯キックボクシングのジム・外観
ミットを打つ音や声が聞こえる。

◯同・中
恵理が一心不乱にサンドバッグを殴り、蹴り上げる。

◯恵理が住むマンション・外観(夜)

◯同・リビング(夜)
風呂上がり姿の白石香織(45)の肩をもむ恵理。
香織「あんま恐がりの子助けるのやめなさい」
恵理「なんでよ」
香織「そういう子は恵理をどんどん利用するようになるし」
恵理「そんなことないでしょ」
香織「脅されるとすぐ裏切るし。また見捨てられたくないでしょ」
恵理「まあ、うん」
香織「(静かな口調で)ああ、ゴキブリ」
香織が手で無慈悲に叩く。

◯駅・ホーム(翌日朝)
電車の扉が開き、大勢の足が降り立つ。
恵理がホームにいる日奈子の手を優しく引き電車に戻る。

◯電車・車内
満員の中、くっついている恵理と日奈子。
日奈子「ごめん、友だちになんで休んだか聞かれちゃって。昨日のこと話したんだけど」
恵理「うん」
日奈子「その子の友だちの笹川さんって子がうちのクラスにいるんだけど、相談したいって。なんか怖いことあって悩んでるらしいんだけど」
恵理「(興味深そうに)怖くて悩んでること?」

◯同・食堂
日奈子の隣に笹川玲子(16)がいる。
玲子「(小声で)ストーカーされていて」
恵理「ストーカーが怖いの?」
日奈子「ストーカーは、すっごい怖いよ」
恵理「そう。誰に?」
玲子「2組の、小山くんです」
×   ×   ×
教室でノートをとっている小山の顔。
×   ×   ×
恵理「(大声で)え?」
周りの皆に注目され日奈子はかがむ。
恵理「ないないない、だって小山くんだよ。あんなにかわいくてそんなことするわけないし」
玲子「でも、本当につけられてるし待ち伏せされてて」
恵理「(立ち上がり)じゃあ聞きに行こう」
日奈子「え? どうやって」
恵理「ストーカーしてる? って」
日奈子「怖い怖い怖い」
恵理「なになになに」
日奈子「みんなの前で聞いたらなにするかわかんない」
恵理「なにもないでしょ」
玲子「認めないかもしれないし」
恵理「めんどくさー」
日奈子「そもそもつきあってたの?」
玲子「2カ月だけ。でも別れたいって伝えたら、ストーカーされるようなって」
恵理「えー」
玲子「先生に言っても様子見ようってとりあってくれなくて」
恵理「なんで」
玲子「小山くん、成績もいいしみんなに好かれてて、本当かって」
恵理「そう思うなあ」
玲子「外面がいいけど本当は……」
玲子が気落ちしてるのを日奈子は見て、
日奈子「だからその現行犯で捕まえてさ」
恵理「捕まえて?」
日奈子「止めさせてくれないかって」
×   ×   ×
香織「そういう子はどんどん恵理を利用するようなるし」
×   ×   ×
恵理「そうねー」
玲子「お礼はちゃんとするから」
恵理「お礼ねえ」
玲子が小声で恵理にささやく。
恵理「1万円?」
皆が見て日奈子がかがむ。

◯同・校門の脇の茂み(夕)
帰宅する生徒を観察している恵理と日奈子。
恵理「ひなも帰宅部なんだね」
日奈子「うん」
恵理「ひなは何が好きなの?趣味とか」
日奈子「……ひかない?」
恵理「ひかないよ、だってひなが」
日奈子「あの、ひなって呼ぶことにしたんだ」
恵理「うん」
日奈子「そういうときも怖くない? 呼び方変えるとき」
恵理「ぜんぜん。嫌?」
日奈子「いいけど……(小声で)恵理がいいなら」
恵理「おーー、緊張した?」
日奈子「した、すごく」
恵理「かわいいなあ。怖がるとかわいいよね」
日奈子「……わたしはその、宝塚が好きで」
恵理「へー、そうなんだ。見にいってるの?」
日奈子「無理無理、そんなお金ないし」
恵理「(話に割って入り)あ、きたきた」
玲子と友だちが校門を通ると、小山が少し後ろをつける。

◯道
玲子と友だちのあとをつける小山。
その後をつける恵理と日奈子。

◯駅前
玲子の友だちは駅に向かう。玲子は商店街の方に歩く。そのあとをつける小
山。
恵理「やだやだやだ」
日奈子「なになになに」
恵理「え、もしかしてストーカーじゃない?」
日奈子「だからそう言ってるし」
恵理「え~」
日奈子「(スマホを見て)本屋に入るって」
恵理と日奈子は小山のあとをつける。

◯本屋
本屋の中にいる玲子と小山。

◯本屋の外
恵理と日奈子が見張っている。
日奈子「(電話してる)本屋出たら走るって」
恵理「え?」
日奈子「小山くんも走って追いかけたら、その、確定ということで、捕まえてほしいんだけど」
恵理「ああ、まあそうねー」
玲子が本屋を出たあと走って逃げる。
小山はそれを見るとあわてて出るが、玲子を追いかけず後ろ姿を見送る。
日奈子「え、どうしよう」
突然恵理が走り出し、小山の前に立つ。
恵理「小山くん、ずっと見てたよ」
小山「え」
恵理「玲子のこと追いかけてるとこ。何してるの」
小山「関係ないだろ」
恵理「つけまわされて困ってるんだって。もしかしてストーカー?」
小山「話しがしたいだけだよ」
恵理「でも怖いらしいよ。つけ回すの」
小山「だって話し聞かないから... ... 」
恵理が小山の足を蹴ると、小山は膝から倒れる。日奈子が駆け寄る。
恵理「これでつけられないね」
日奈子「……怖い」

◯公園(夕)
小山がベンチに座っている前に恵理と日奈子が立つ。
恵理「ショックだー。幻滅だわー、小山くんがストーカーなんて」
小山「おれ、ストーカーなのか?」
恵理「ストーカーでしょ、つけまわしてんでしょ」
小山「彼女に頼まれたのか」
恵理「そう。やめてくれる? ストーカー」
小山「玲子が謝らないから」
恵理「謝るってなにを」
小山「だからその、ふられたとき、別れたいって言ったとき、見下した言い方したんだよ」
恵理「はあ?」
小山「なんであんな目にあわなきゃいけないんだよ。人が信じられなくなった」
恵理「大げさな」
小山「だからせめて、あのときの言い方とか目つきを謝罪してほしい」
恵理「謝罪するのはお前だろ」
日奈子「まあまあまあ」
恵理「こいつだめでしょ。見た目のかわいさにだまされてましたわ」
日奈子「傷つくよ、別れたいって急に言われたら。自分を否定された気がして」
恵理「そう?」
日奈子「わたしならひきこもっちゃうかも」
小山「……学校行くの嫌になった。みんなに笑われてる感じもして」
日奈子「それは怖いね」
恵理「そんなのが怖いの?」
小山「お前にはわかんないよ。ふつうじゃないんだから」
恵理「……じゃあ、玲子と話せたらストーカーやめるの?」
小山「……やめる」
×   ×   ×
日が落ちて暗い。
日奈子に連れられて玲子がくる。
距離をおいて恵理と小山が立つ。
恵理「最後言いたいことがあるって」
小山「あの、別れたいって言ったときさ、俺のこと見下したよね」
玲子「そんなことしてないよ」
小山「してたって。それをまず認めて」
玲子「だってしてないもん」
小山「じゃあじゃあ、なんで急に別れたいなんて言えるんだよ」
玲子「それはさんざん話したじゃない」
小山「ほら、馬鹿にしてる」
恵理「ねえ、怖がってるんじゃない? 彼女のこと」
小山「は?」
恵理「そう見えたけど」
小山「いや意味わかんないし」
日奈子「(手をあげ)あの! 私は急に別れようって言われたら、私は怖いです。別人に見えます」
恵理「怖いから見下してるように見えたとか」
玲子「……ただ、もう好きじゃなくなっただけだよ。ごめんね」
小山、咄嗟にしゃがんで砂をつかむ。
恵理、小山に接近し、
恵理「(恐ろしく冷たく)やめて」
小山、恵理の顔面に砂を浴びせる。
恵理、小山の頬をはたくと小山が倒れて泣き崩れる。一瞬、恵理は息を飲む。小山は泣き続け、手で周囲に砂を撒き散らす。
少し離れて小山がやがて恥ずかしそうに暴れるのを収まっていく様子を見る恵理と日向子と玲子。
恵理の声「もう、ストーカーしない?」
小山の声「しない、もうしない。ごめん」

◯電車・車内(夜)
恵理と日奈子が並んで座っている。
日奈子「もう、大丈夫かな」
恵理「あんなに泣くとはね」
日奈子「女の子3人の前だしね、きついよ」
恵理「まあストーカーした罰でしょ」
日奈子「うん... ... 小山くんのこと、好きだったの?」
恵理「まあペットを好きになるのに近い気がするけど」
日奈子「そっか」
恵理「さっきひな、手あげてがんばったよね」
日奈子「怖かったー。でも恵理がいっしょだと勇気がでるというか」
恵理「あ、報酬渡さないと(5千円出す)」
日奈子「え、わたしのじゃないし、こんなとこで」
恵理「(5千円握らせ)わたしたちコンビでしょ」
日奈子「え?」
恵理「ひなは恐がりだから怖い人の気持ちがわかる」
日奈子「でも」
恵理「わたし一人じゃできないよ、今後も」
日奈子「今後?」
恵理「みんなの怖いこと、わたしたちで解決しちゃおうよ」
日奈子「... ... 」
恵理「宝塚も見に行けるよ」
日奈子「生で見れるのか」
2人が見つめ合ってうなづき握手する。
                            (1話おわり)

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