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三島由紀夫『天人五衰』の風景(0)


はじめに

 三島由紀夫、最後の長編小説『豊饒の海』、最終第四巻『天人五衰』の前半部は、当時の清水市、現在の静岡市清水区を主要な舞台にしている。天人伝説との関係から三保松原は連想しやすいが、実際に読んでみると三保はあまり登場しないし、かなりネガティブな描かれ方をしている。そして、この小説前半部の大半は、三保より数キロ南にあった駒越の信号所が舞台となっている。現在信号所の跡地には文学碑が建っている(言うまでも無いが、三保には関連の文学碑はない)が、知名度は三保とは比べものにならないし、『天人五衰』の読者たちが、この土地に特に注意を払ってきたようにも思われない。個人的にはよく通る場所でもあり、そのことを、単純に不思議に思い続けてきた。
 そうした中、2020年11月、三島由紀夫歿後50年にあたり、静岡市三保松原文化創造センター「みほしるべ」で企画された企画展「三島由紀夫と『天人五衰』展」トークショーに登壇する機会を頂いたので、準備のために、改めて、少し細かく読み、且つ、地の利を活かして歩き回ってみることにした。若い人たちがアニメの現場を巡って詳細に記録する“聖地巡礼”のようなものだ。
 このトーク企画の様子は30分ほどに編集されたダイジェスト版がyoutubeで公開されているが、そもそも一人あたりの報告時間が20分と短かったため、駆け足になっていることは否めない。

 本稿は、改めて、この企画のために準備してあった材料を整理したうえで、あえて三島由紀夫から踏み外し、脱線しながら、三保・駒越だけでなく、『天人五衰』に登場する静岡の地理と風景について、やや広く検討・紹介してみようという企てでもある。そこから、『天人五衰』や『豊饒の海』の解釈を更新するような発見があるのか、あるいは、三島の創作のキモに触れることが出来るのか、と言われれば心許ないが、少なくとも、地域研究として、従来の文学散歩的な読みを一歩進めることにはなろうかと考えている。

 職場の紀要を含め、どこかに投稿することも考えないではないが、もとより三島は専門外でもあり、学術論文と言うほどの精密さは目指さず、むしろかなり自由(好き勝手)に想像をふくらませつつ、またインターネット上にある情報や現場の写真を活用することも多いと予想されるので、noteでの「連載」という形を取ることにした。本務の間に、不定期で書くため、だらだらと長くなる見通しであるが、お付き合い頂きたい。

 現時点での章立ては、以下のように考えているが、最終的にどうなるかは未定。
 予告なく随時変更し、出来たところから目次にリンクをつけていく予定。
1 『天人五衰』における三保松原 
 *地理ガイド(1)
2 駒越の視界
 
2(信号灯の「発見」)
 2.1(信号所)
 2.2(信号所から読む「天人五衰」)
3 「暁の寺」の富士
4 駒越という場所

5 有度山
6 日本平、その他
7 『豊饒の海』の富士山
8 眺める富士山・眺める三保~景観と表現
9 『天人五衰』にとって三保松原とは何か
10 文学散歩を越えて

なお、トーク当日に会場で配布した資料の訂正版を以下に置いておくので、適宜参照されたい。


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