「応援バント」
僕の名前はゆうや。
僕は野球が大好きだ。
野球チームに入ってみんなと練習している。
みんな僕よりもうまい。僕がなかなかできないことをみんな簡単にできてしまう。うらやましい。なかでも、かいと君は飛びぬけてうまい。ピッチャーもできるし、ホームランを何本も打っている。
みんなうまいから、僕は試合に出られない。試合で僕は、みんなを応援している。大きな声を出して応援している。
試合に出る友達は、お父さんやお母さんを呼んでいる。たくさん応援してもらっている。
僕は、お父さんもお母さんも呼んだことがない。お父さんは仕事でいそがしいみたいだし、試合に出られない自分を見てほしくないから。
僕はバントの練習をしている。みんながやりたがらないバント。バントなら僕だ。監督にそう思って欲しかった。
小学校、最後の試合。僕は試合に出られることになった。
野球がすごく上手なかいと君が、練習で捻挫した。かいと君の代わりに試合に出なさいと監督に言われた。
嬉しくてお父さんとお母さんに言ったら、お父さんが仕事を休んで応援に来てくれることになった。
大好きなお父さんとお母さんが来てくれる。僕は試合がとても楽しみだった。
試合の日はとても天気が良かった。
お父さんとお母さんに、かっこいいところを見せたくて、バットを思いきり振った。
2回打席に立ったけれど、どれも三振だった。
試合は1点差で負けていた。
最終回、ここで点を取らなければ負ける。ランナーが3塁にいた。ワンアウト。
僕の打席がまわってきた。僕はバントをしてランナーを帰そうと思った。
僕は緊張しながらバットを持ち、打席に向った。
監督が大きな声で言った。
バッター交代!
僕の代わりにかいと君がでた。
捻挫しているかいと君。
かいと君は思い切りバットを振った。ホームランだった。逆転勝ちだ。
かいと君は捻挫している足でゆっくりとベースを回り、ホームに帰ってきた。
みんなが笑顔でかいと君を出迎えた。
でも、僕は笑顔になれなかった。
今まで一生懸命練習してきたバント。結局、試合で使うことはなかった。
なんで、僕のバントじゃダメなの。
心の中で何度もつぶやいた。
目の前がくもり、何も見えなくなった。みんなの声だけが聞こえた。
「ゆうや。試合、良かったぞ」
お父さんが帰り道に言った。
「僕、何もできなかった」
うつむきながら小さな声で返事をした。
「ゆうやがベンチで誰よりも大きな声でみんなを応援していただろう。お父さん、嬉しかったよ」
「そんなの、誰だってできるよ」
「誰でもできることを、きちんとする。それは、誰でもできることじゃないんだよ」
僕はお父さんの顔を見た。
「かいと君も最後の試合だったんだろう。監督もかいと君に最後の試合に出て欲しかったんじゃないかな。
ゆうやが誰よりも大きな声で仲間を応援している。きっと監督も友達も分かってくれていると思うよ」
「僕、バントの練習をいっぱいしてきたんだよ。僕がランナーを帰したかった」
「よし。帰ったらお父さんと野球をやろう。」
お父さんもお母さんも笑ってくれた。僕も笑った。
僕は野球が大好きだ。
お父さんとお母さんも大好きだ。
今日、お父さんとお母さんに試合を見てもらえて良かった。