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鍼灸・耳ツボダイエット、効果が高いのはどっち?

 春めいてくると装いも軽やかになり、ダイエットに関する話題が増え始めます。様々なダイエット方法がありますが、中医学を用いたダイエットに興味のある方も少なくありません。日本では鍼を刺さないタイプの耳ツボダイエットの広告もよく見かけます。はたして効果はあるのでしょうか。

さいしょに

 「運動も併用しないと十分に効果がないよ」。んなこたぁわかってるんですよ。なるべく楽にダイエットしたいじゃない・・・。「運動や食事制限をせずに純粋に中医学の処方のみ」の論文があったので読み解いてみます。僕の住む街の沿線には「これが脂肪一キロ分です」って模型を持って宣伝する漢方薬局の広告があるんですよ。「これくらい痩せるよ」とは一言も書いてないんだけど。漢方の実験論文については、また今度探してご紹介します。

論文紹介

 今回ご紹介するのは3パターンの鍼灸ダイエットを比較した論文です。身体に鍼を刺す方法、耳ツボ(実際に鍼を刺す)、そしてその両方を組み合わせた方法、です。『弁証に基づき処方する』は中医学の特徴のひとつですが、この実験でも4つの弁証パターンについて検証されています。

P:195名(男性8名、女性187名)。年齢は14~60歳(平均35.5歳)。病歴は2~25年。脂肪程度は中国の『実用臨床肥満学』の分類に基づき(*1)軽度90名、中度99名、重度6名。
I:身体上に鍼を刺す処方64例。耳ツボに鍼を刺す処方55例。それぞれに弁証に基づく処方を施す。留鍼30分、隔日1度、12回を1治療ターンとする。
C:身体上と耳ツボの両方に鍼を刺す処方76例。
O:「症状、兆候の改善(*2)」、体重、体脂肪率。

(*1)『実用臨床肥満学』の資料を確認することはできなかったけれど、中国における肥満分類は標準体重(BMI)を比較して超える程度について、軽度(20~29%)、中度(30~50%)、重度(50%~)としているよう。
(*2)本文では明言されていませんが、証の判断に用いる諸症状のことを指していると思われる。

実験の結果

 今回の実験では治療効果について下記の通り定義しています。

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まずは3つのグループの評価については下図のとおり。

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 表右端の%は「総有効率」です。前述のOutcomeの「消失」~「改善」までを含めています。
 「総有効率」はそれぞれ耳ツボで49.9%、身体ツボで81.2%、両方で93.4%としています。論文本文では、両方にアプローチしたほうが耳ツボ組よりも優れた結果を出していること、それは(それだけでも十分に高い効果だった)身体組よりもさらに優れていた、と述べています。

 続いて身体組、耳ツボ組それぞれについて、弁証ごとの治療成績の表が掲載されていました。これらはサブグループ解析として掲載されているものと思われます。

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 身体組についてはいずれの証についても、明らかな治療効果の差はないとしています。一方で耳ツボ組については、「胃腸実熱型は他の3つと比べて」明らかな差異が見られたと、独特の比較の仕方で治療効果の高さを述べています。

結果の考察

 まずグループ分けについて確認してみます。前回の論文読解『鍼治療のビリビリ感は強いほど効くの?』もそうでしたが、グループ分けの内訳が不明なため、十分な均等化が行われていたかが疑問です。明確に示されているのは、弁証分布がそれぞれのグループで均等に分かれている(表2、3)ことだけでした。性別、年齢、病歴についてはどのように分布されていたのか・・・。これらも治療効果に影響を及ぼす大きな要因と思うのですが。また鍼治療による試験なので、非盲検化試験となります。

 今回の実験では「治療方法(鍼をどこに刺すか)」、「弁証」についてどのような治療効果だったのかが比較されています。前者についてはサンプルがそれぞれの群に(前述のとおり不透明ながらも数値的には)均等に割り当てられているため、一定の信頼の元に見ることができます。一方で後者についてはサブグループ解析のため、注意してみる必要があります。なぜサブグループ解析を注意してみる必要があるかについては詳細についてここで避けますが、シンプルにいうと「サンプルの割り当ての偶然性が高いために、参考にできない」ということです(参考サイト)。さらに表2、3は下の行に行くほどサンプル数が激減し、肝憂気滞にいたってはサンプル数5、3という有様です。実験において重要なのはサンプルが盲目的に・均一に配分されることです。それが計画的に果たされていないサブグループ解析の結果は、そのまま鵜呑みにするわけにはいきません

まとめ

 いろいろと文句をいいましたが・・・。弁証論治ベースの鍼灸ダイエットは日本ではあまりないのではないでしょうか。とくに耳ツボの場合はどんな患者にも同じツボを使っているのでは(偏見だったらすみません)。論文の質はさておき、参考になる点は多いのではないかと思います。

 臨床で応用するときのことを考えてみます。たとえば今回のPは胃腸実熱型の多さ、またその効果の高さが目立ちます。低いと評価される耳ツボにおいても50%を超えています。下手な鉄砲数打ちゃ当たるてきにいえば、胃腸実熱型の治療方法をマスターすれば、多くの患者に適用できるといえます。
 また、今回の実験は中国式なので、処方頻度が日本のそれより多いことが特徴です。「留鍼30分、隔日1度、12回を1治療ターンとする」は日本ではなかなかハードルが高そうです。まぁ面倒くさがられますよね。日本で応用するなら、身体に鍼を刺す処方は週に一度、耳ツボは仁丹的なものをテープで貼りなおす短時間処方を3、4日一度来院してもらう・・・とか・・・?もちろん論文で採用している治療条件と異なるので、治療効果にも影響があるでしょう。

 本論文では中医理論的な期待治療効果について触れているほか、西洋医学的な治療効果についても証ごとに触れています。またツボの選定についてもまとめられています。

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『耳针 、体针 、耳体针结合治疗单纯性肥胖病临床疗效 比较』
https://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTotal-NJZY200201018.htm

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