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意識領域イメージ化アジア図像研究杉浦康平さん【後編】


こんにちは!

デザインこねこの長嶺きわです。


先日、久しぶりにパンを焼きました!

フランスパンの生地の食パン(パンドミ)を作ったのですが、

ずっしりとしてしまい、少し失敗しました。

味や表面のカリカリ具合は美味しいのですが、

モチっとしすぎていて、気泡が足りなかったみたいです。

発酵後にパンチをして空気を抜くのですが、

強くパンチをして、空気を抜きすぎたのだと思います。

次回は優しく生地を扱い、理想に近づけたいです。


意識領域イメージ化

アジア図像研究

杉浦康平さん【後編】


本日は、前回に引き続き、日本を代表するグラフィックデザイナーであり、アジアの図像学研究者でもある杉浦康平さんをご紹介します。



「ただの紙を、ただならない紙に変える」

杉浦さんのデザインに対する姿勢は、「ただの紙を、ただならぬ紙へと変える」というものです。

グラフィックデザインとは、ポスターやパッケージ、シンボルマーク、イラスト、エディトリアルなど、二次元の表現を指します。

杉浦さんのエディトリアルデザインもまた、その枠に収まるものです。しかし、杉浦さんのデザインによって、印刷された用紙が折られ、束ねられ、裁断されできた、雑誌や書籍は、ページをめくるたびに、二次元の世界を超え、三次元、さらには時空を超えた四次元の世界へと読み手を誘います。



例えば、A全判の用紙を半分に折り、さらに何度も折りたたむと、5回で文庫判64ページの冊子が出来上がります。
本はページの集合体であり、そこに厚みが生まれ、連続した流れが生じます。また、カバーは表紙のみで完結するのではなく、背や裏表紙、袖にもつながっています。杉浦さんは、それらすべてがデザインのフィールドであると考えているのです。



実例としては、本の小口を傾けるとアンドロメダ星雲が現れ、反対側に傾けるとフラムスティードの銅版画の天球図が現れる『全宇宙誌』があります。
また、フランスの作家ルイ=フェルディナン・セリーヌの作品集では、全15巻を並べると背表紙にセリーヌの人生のフォトアルバムが浮かび上がります。
さらに、『ピカソ全集』は、背表紙に時代ごとの代表作が並び、書棚がまるでピカソ美術館のようになるのです。

このように、「本は立体的な存在である」という前提のもとで考えられたデザインコンセプトを説明するためには、三次元的な表現が必要となるのです。


印刷実験のような作品づくり

石本正の『裸婦デッサン集』において、杉浦さんは「画家の手を離れたままの作品の状態」を再現することを意図しました。

裁ち落としを一切せず、余白も設けないシート構成を採用し、複製技術の限界に挑みながら、鉛筆デッサンを多色刷りオフセット印刷で再現しました。その結果、あたかも手で擦ると鉛筆の跡が消えてしまうのではないかと思うほど、精巧な仕上がりを実現しました。



杉浦さんにとって、印刷会社の校正刷りは非常に重要な資料です。それは当時の最先端の印刷技術が詰まっているからです。
杉浦さんは、出版社の営業を介さず、印刷所の技術者と直接やり取りを行うことが多く、まるで印刷実験のような作品制作をしていました。そのため、校正刷りはその技術の軌跡を示す貴重な資料となったのです。



例えば、豪華装本の美術書プロジェクトでは、チベットマンダラやボッティチェリの復刻版の再現に尽力し、数十ページにわたるテキストを箔押しで印刷したり、コロタイプ印刷の精密な再現に取り組んだりと、さまざまな挑戦を行ってきました。

大日本印刷凸版印刷の製版スタッフも頻繁に杉浦さんに相談を持ちかけ、杉浦さん自身も通常は立ち入りが難しい印刷現場に、夜中でも足を運びながら本を作り上げていたそうです。

杉浦さんは、当時を次のように振り返っています。




出版業界が最盛期を迎えていた時期が、ちょうど私がブックデザインを手がけていた時期と重なっていたことは、幸運でした。

普通なら抵抗が強くて実現できないことも、面白そうだからやってみようという雰囲気があり、出版社や技術者とともに、苦労を厭わず挑戦することができた時代でもあったのでしょうね。


雑誌や書籍が大きな影響力を持っていた時代

「表紙は顔である」という独自のコンセプトに基づき、杉浦さんは目次や記事内容と響き合う表紙デザインを、以下のさまざまな雑誌で試みました。



建築雑誌『SD(スペースデザイン)』平良敬一さん

日本文化の伝統や美を紹介 趣味の雑誌『銀花』今井田勲さんと細井冨貴子さん

建築雑誌『都市住宅』植田実さんと磯崎新さん

伝説的雑誌『遊』 松岡正剛さん

哲学誌『エピステーメー』中野幹隆さん

月刊誌『噂の真相』岡留安則さん



情熱的な編集者・出版者たちとの真剣勝負の仕事が、杉浦さんのエネルギーと発想の源泉となりました。





杉浦さんは、一時期、非常に多くの本を制作していました。

古代から中世、現代に至るまで、さまざまなテーマが杉浦さんの元に集まりました。

百科事典の装丁や科学本、現代哲学や心霊に関する書籍など、多岐にわたる分野の本が制作され、そのデザインにおいては著者に近い視点で深く向き合うことが求められました。


たとえば「影」ひとつをテーマにする際も、地面に落ちる影がどのような形をしているのかを詳しく探るなど、それぞれの本の内容に深く踏み込むデザインを行っていたため、常に資料となる本を探し求めていたそうです。
必要に応じて、それぞれのテーマに対応するための裏付けとして、関連する本や資料を集めることも積極的に行っていました。



杉浦さんのデザインは非常に深い追求を必要とし、そのため通常の10倍ほどの労力を要しました。仕事量が多い中で、本当に死にものぐるいで取り組んできたと杉浦さんは振り返っています。
夜の7時頃になってようやく朝食を取ることも少なくなく、また、3日間眠らずに仕事をし、電車の吊革につかまりながら寝ていたこともあったそうです。



先日亡くなられた松岡正剛さんは、杉浦さんを師と仰ぎ、雑誌『遊』をはじめ、『ヴィジュアルコミュニケーション』(『世界のグラフィックデザイン』(全7巻シリーズ)の第1巻)を杉浦さんと共に制作しました。
松岡正剛さんは、杉浦さんの本『かたち誕生』について、自身のサイトで、普段の杉浦さんの様子やその凄さとともに紹介しています。
そのページが非常に面白かったので、ぜひご覧ください!

松岡正剛の千夜千冊『かたち誕生』


いかがでしたでしょうか?

2回にわたって、グラフィックデザイナーの杉浦康平さんをご紹介しました。

杉浦さんのブックデザインは、以下のホームページでご覧いただけます。手法ごとにカテゴライズされ、わかりやすく紹介されています。

https://collections.musabi.ac.jp/sugiura_kohei/


杉浦さんは、メディアが次の段階に移行するタイミングや、

出版社が新しいアプローチを模索する時期に立ち会うことが多かったそうです。

今回、杉浦さんについて調べていく中で、時代が流れ、新しい価値観が次々と生まれる時代において、杉浦さんがその都度懸命に考え、発想したことが時代の革新につながっていく様子を、学ぶことができました!

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