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「漁民憂」


勿謂鴆杯微則不有害。勿謂流言飛語其不大。朱門正餐海珍夥、不聞民訴何甚厲。問君一匙牛馬糞、試投清井深百千。匙糞已散水不濁、以水生者心何安。


人民虞毒是當然、更虞流言須尤察。飛語似火卒焚邨、假如不燒其大殺。使首須識漁民勞、年年躬汗誉在身。君寧患悶為民動、怠棄民生莫等閑。


勿謂鴆杯微則不有害。
勿謂流言飛語其不大。
朱門正餐海珍夥、
不聞民訴何甚厲。
問君一匙牛馬糞、
試投清井深百千。
匙糞已散水不濁、
以水生者心何安。
人民虞毒是當然、
更虞流言須尤察。
飛語似火卒焚邨、
假如不燒其大殺。
使首須識漁民勞、
年年躬汗誉在身。
君寧患悶為民動、
怠棄民生莫等閑。

謂う勿かれ鴆杯も微なれば則ち害有らざると。
謂う勿かれ流言飛語も其れ大ならざると。
朱門の正餐、海珍夥しきに、
民の訴えを聞かざること何ぞ甚だ厲しからん。
君に問う、一匙牛馬の糞、
試に投ぜよ清井の深さ百千に。
匙糞已に散じて水濁らざれども、
水を以て生くる者は心何ぞ安からん。
人民毒を虞れるは是れ當然、
更に流言を虞れるは須らく尤も察すべし。
飛語は火に似て卒に邨を焚かん、
假如し燒かざれども其れ大に殺さん。
首をして須らく識ら使しむべし、漁民の勞、
年年の躬汗、誉は身に在り。
君寧ろ患悶して民の為に動ずとも、
民生を怠棄して等閑にする莫かれ。

(訳)
言ってくれるな、毒杯もわずかであれば害はなし。
言ってくれるな、デマゴーグなんの恐るることもなし。
朱塗りの家に住むものも、海の馳走を食うという、
などて聞かざる民の声。

君に問う、ただひと匙の牛馬の糞を投げこむ
井戸のうち。ただひと匙の所以にて水の濁りは
なけれども、水にて生くる人はみな、
心の安き時やある。

民の恐れはげに然り。いわんや流言飛語のこと、
なんぞ考うべからざる。デマは火に似て村を焼く、
もし焼かずとも殺すなり。民の首とおわすなら、
海人の心を知れよかし。年々歳々汗しつつ
誉はまさる波頭。首は悶えて人のため世のため
はたらくことあれど、人の暮らしを捨て去りて、
怠ることは、など許す。

文責:康寧堂主人

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