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イベント参加記: #在野研究ビギナーズ が出版するには

「在野研究ビギナーズが出版するには」というイベントに参加してきたのでその感想です。

参加するきっかけ

『在野研究ビギナーズ』は、自分が現役学生の頃には研究がちゃんとできなかったな……という反省の反動から、研究に対するうっすらとしたワナビー的な憧れがあったので買っていたのでした(まだ読めてない)。

本業に関わる路線の研究と、全然関係ない個人の研究との大きく2つの軸でやりたいことがあり、前者は大学院への所属も検討、後者は完全に在野でやるしかない、ということで、ひとつは在野研究ワナビーズ視点でのモチベーション。

もうひとつは、自分も(本はほぼ作らないものの)編集者の端くれとして、作り手・流通視点、出版という形態の意義、技術以外での他分野の動向が知りたい、といった理由で参加しました。技術書について、ビジネス書と学術書の両方の性質があると思い、よりよい技術コンテンツの流通を考えたときに学術書のアプローチが参考になるかなと思っています。

イベント形式

『在野研究ビギナーズ』編著者の荒木優太氏と、一人出版社としてエッジーな内容の書籍を出されている小林えみ氏の対談形式。堀之内出版は不勉強ながら初耳だったのですが、POSSEを発行している出版社ということで、タバブックスさんで書かせてもらっていた7〜8年くらい前のことが急に蘇ってきました。

荒木氏が「在野研究と出版」というテーマで検討したいトピックを用意され、小林氏に共有。そしてトピックに対して両者ともA4 2枚くらいのレジュメをご用意され、来場者に配布されました。

イベントは、以下の流れで2時間ノンストップで展開されました。

・荒木氏(在野研究当事者)の見解
・小林氏(編集・出版側)の見解
・両者の対話
・質疑応答

正直、この内容をノンストップで聴き続けるのは頭の処理能力的にしんどいのですが(40分くらい経過した頃から「休憩ないかな…」と思っていた。なかった)、シナリオを用意しなくても連綿とディスカッションが続いていて本当にすごい。発言の即時性(言いたいことがすぐに出てくること)やさまざまな引用から教養を感じました。自分はこういうトークができるかな…今はできないだろうなあと思うなど。

議論されたトピック

ざっくり以下のトピックが話されました(他にも話題がありましたが印象に残ったところのみ)。

・在野研究の人が出版するにはどうしたらいいか?
・そもそも出版を目指すべきか?
・共著で書くか、単著で書くか
・女性と出版

そもそも出版は論文のように査読があるわけではない、著者は不安な状態でアウトプットする。そのため、学術的にどれだけ価値があるのかという疑問も残る。とはいえ、著書を出してスター性を獲得すること、スターになることが目的じゃないにしても、そのことによって研究上で広がるチャンスがある。そのあたりは学術書ならではのトピックかなと思いました。そういえば印税による収入の話題は全然なかった(期待できない、もしくは印税0%の場合が多いんだろうなぁ)。

ほか、単著か共著かという話や、共著におけるよい編著者のあり方なども学術書らしいなあと。学術書で単著か共著でいうと単著の方が売れる傾向にある、でも『在野研究ビギナーズ』に関しては共著だけどだいぶ売れている(SNSで部数を拝見しましたが確かに売れていると感じました)。近しい内容を扱った荒木氏の単著『これからのエリック・ホッファーのために 在野研究者の生と心得』よりも売れているということで、タイトル付けの妙なんじゃないかという話題がありましたが、そりゃあ入門書(に見える本)のほうが売れるだろうと思いました。「すでに在野研究者であり、勇気づけられたい」という人のほか、「在野研究者という道に興味がある」という私のようなワナビー層の興味を引けているのだから。

また、紙か電子かという話で、電子書籍はページの概念がなく、引用元として信頼性がないという意見があることにかなりの衝撃を覚えるなど。でも、紙版を底本とした電子書籍ならともかく、電子書籍ファーストの本だと、印刷するコストがかけられない程度の質の本なのかな…と現況のラインナップから思わざるをえないこともあり。。。

最後に、今回のトークだと、女性やジェンダーに関する議論が、私が普段触れている業界よりもかなり解像度高くされていて、人文や左派だからなのか、どこか懐かしさと、自分の浅さを感じずにいられませんでした。分かりやすいトピックで言うと、女性著者があまり発掘できていない背景には、著者獲得のためにインターネットを活用する機会がある一方、女性は名前を出して活動するのが相対的に難しいという現状があり(絵師や作家ならともかく研究者は実名で活動するのがベースだと思うので)、そうすると編集者がキャッチする情報や出てくる出版物も、ジェンダーバランスが出てくるという状況があるとのこと。自分がいる業界はこれらの問題にあまりにも無自覚で、自分も普段からここまで考えられているか(考えたり敏感でいたりすることが必要であるなあ)と思ったのでした。

所感

今回のイベントに参加して、自分がいかに、ソフトウェア技術者界隈という、狭く特殊で恵まれたコミュニティや出版事情にいることを強く実感しました。イベントが終わった後、荒木氏に「こういうイベントに参加している人を集めてコミュニティ作ったらいいじゃないですか」とぽろっと言ってしまったのですが、IT業界だと学びの手段としてコミュニティを作ることはよくある話で、それにはセミナー室を無料で貸してくれる企業がいて、集客のためのWebサービスもあり、リテラシーも大体そろっているので、容易に運営できる。盛り上がって金も動いている業界のため、エコシステムができあがっているのです。一方、在野研究者のためのコミュニティ、確かに誰がなんのためにやるのか……人はみな、やりたいことが無限にできるわけではないとすると、まあリソースは足りないよなあ。ある意味、知り合いが夏と冬にやっている自由研究発表会と、私がやっている雑学サミットは、素人が研究する面白みという点で在野研究的ではあるのですが、「在野研究者」の学びあい的な意味では少し性質が違うかなと。

良かった点として、このイベントは人を誘って行ったり現地でも知り合いに会ったりしたのですが、こういう内容について、コンテキストを理解している人と継続的に議論しうる状態にできたことが挙げられます。それくらい継続的に考えて行きたいトピックだと思いました。

お読みいただきありがとうございました! よかったらブログものぞいてみてください😊 https://kondoyuko.hatenablog.com/