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「孫子の兵法」に学ぶスピーチ 空気に色を付け「見える化」する技術(2.作戦篇)

 スピーチも内容や種類によっては、準備に時間がかかり、経費も多くかかる場合がある。人前で話をする人の多くは、経営者や組織のリーダーであり、複数の人をマネージメントしなければならない。したがって、経営者自身の人件費も決して馬鹿にならず、スピーチの準備に必要以上の時間をかけることは、避けなければならないであろう。
 仕事の優先順位を取り違え、貴重な時間と経費を浪費してしまえば、部下や仲間の士気が下がり、ライバルに隙を与えることになる。そのような状況になってしまえば、優秀な側近がいたとしても、対応するのが難しくなるだろう。
 完璧主義に陥って、グズグズ準備をしたスピーチが成功することはない。
 たとえ完璧でなくても、とりあえず仕上げてみて問題点をリサーチし、修正するサイクルを早くしたほうが、はるかにうまくいくであろう。
 掛けるコストと時間というリスクと、スピーチを成功させることによって得られるリターンをはかりにかけて考えることのできないリーダーが、成功を掴み取ることはできないのではないか。
 スピーチの準備を行うことの上手な人は、「 自分が伝えたいこと」は明確に持っていても、何もかも自分で考えようなどとは思わず、文章の表現力に長けた人の力をうまく使っている。
 それは、鳥が上空から下界の様子を眺めるような形で善し悪しを判断し、最終的には自分の見識に基づいて原稿の採用を決断するということである。したがって、「 考える時間がない」ということにはならないわけである。
 リーダーがスピーチの内容を考えるのに行き詰まってしまうのは、自分ですべて考えなければならないと思い込んでいるからであり、貴重な時間を決断以外の時間に割いてしまえば、周りにも良くない影響を与えてしまう。
 すぐれたリーダーは、最良の決断をするために時間を確保することが、結果的にライバルの力を奪うことをよく知っている。1時間自らの時間を確保することは、部下にとって20時間を確保することに相当し、一枚のすぐれた原稿を仕上げることは、20枚のお札に相当するのである。
 そこで、完成度の高いスピーチ原稿を仕上げることは、リーダーの仕事を勢いづかせることになるのだが、時間を確保することは利益に直結することになる。したがって、すぐれた文章を書く人間に対しては、その働きを十分に評価し、報酬を与えた上で、さらに自らの考えを深いレベルまで理解してもらい重用する。これがライバルに勝って、より強くなるということである。
 したがって、スピーチを成功させることは第一であるが、準備にグズグズ時間をかけるのは良くない。スピーチの成否をわきまえたリーダーは、多くの人の人生に影響をおよぼし、組織の盛衰を決する存在である。

【 解説】
「 1.始計篇」の中( 5つの要点「 内容と話し方」)でも触れられていましたが、スピーチの種類は大きくいえば二つになります。
 一つは書いた物などを「 読み上げるスピーチ」、もう一つは何も見ずに「 ( 語り掛ける)パブリックスピーチ」です。
 この二つは一長一短があり、「 どちらが上で、どちらが下」というものではありません。「 リスク( 信用の失墜や言質を取られる可能性/時間や金銭面のコストなど)の大きさ」と「 リターン( 売り上げや投票数など数値に表れやすいもの/イメージの向上など数値化が難しいもの)の伸びしろ」をはかりにかけて考え、「 適切に選択」するのが正しい運用だといえるでしょう。

 さて、スピーチを行うにあたっては、今述べたように「 話すスタイルを選択する」と同時に「 準備に人の力を借りるか、自分ですべて行うのか」という判断も必要になります。本編でも書かれているように、「 時間を失う」というリスクを回避するためには、場合によっては「 スピーチの専門家」の力を活用するのも方法の一つです。
 スピーチのプロは、「 ( 語り掛ける)パブリックスピーチ」の方法論を教える「 スピーチトレーナー」と原稿の内容を考える、「 スピーチライター」の二種類に大別されます。
「 スピーチトレーナー」の先生の中には、立派な見識を持っておられる方もいますが、「 インパクトのある話し方を行う」という「 戦術論」にこだわり、本編で述べられている「 リスクとリターンの両面から考える」という「 戦略論」を理解されていない方もおられます。
 そして、「 スピーチライター」ですが、「 あくまでも自分の見識を『 見える化』するために活用する」そして、「 原稿の採用は自らの責任において決断する」という意識がなければ、「 身の丈( 人格・見識)」とかみ合わない内容になる可能性もあります。
 例えば、以下のような失敗をする可能性もあるのではないでしょうか。

●場の空気にそぐわない、オーバーアクションな物言いをしてしまい、奇異な印象を与えてしまう。
※演劇系のスピーチトレーナーにレッスンを受けるも、自分の立場や状況を上手く伝えきれず、いわれるがままにひたすら練習に没頭。

●講演会において、いわゆる「 立派なスピーチ」「 ためになる話」を行うも、その後の聴衆とのディスカッションにおいて、「 かみ合わないやり取り」を行ってしまい、怪訝な顔をされてしまう。
※スピーチライターに原稿を考えてもらったが、取材をしてもらっているときも説明するのを面倒くさがり、原稿のチェックもおざなり、「 丸投げ」状態で本番に臨む。

 少し硬い言い回しになりますが、「 社会的分業」という言葉があります。
 無人島に取り残された人が、何もかも自給自足で生活するのとは違い、「 食べ物はスーパーマーケット」そして、「 ハロウィンの仮装グッズはネットショップ」といった具合に、「 その道のプロ」に力を借りることで、私たちは貴重な時間を大切に使うことができます。スピーチの分野においても、人類発展の原動力とも言うべき、「 社会的分業」の原則を応用することは有効です。ただし、運用を間違えれば上手くいきません。
 先に書いた、スピーチのプロに力を借りながらも上手くいかなかった人は、例えば糖尿病を患っているのに、スーパーで安売りしている脂身の多い豚の角煮を過食したり、コスプレ衣装のサイズをろくに見ずに、スマホの購入ボタンを押してしまう人と同じではないでしょうか。
 さらに糖尿病を悪化させてしまったり、無理やりに衣装を着たもののピチピチで身動きが取れず、ハロウィンパーティーの片隅でうずくまっている人とは違い、カロリー計算をした食事を取りながら適度な運動を行ったり、パーティーの会場で友達を楽しませる人の方が、「 身の丈( 人格・見識)」の高い人であるといえるでしょう。
 本編の内容を繰り返して読んでいただければ、リーダーとしての自己教育を行うことが、結果的にスピーチを成功させることにつながることが理解できると思います。
 すなわち、
1.スピード感のある対応
2.全体への目配り
3.決断力

 これらを兼ね備えた人の持つ求心力は、スピーチライターなどの「 一芸に秀でる」人たちの力をさらに引き出し、「 足し算」ではなく「 掛け算」の力となって、「 リスクを最低限に抑え、身の丈( 人格・見識)に合う形でリターンを最大化させる」スピーチの結果につながることでしょう。

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