45歳からのヒルクライムー振り返り編(3)
2021年に2回目の挑戦で1:12:36でシルバーとなった富士ヒルでした。ここで高強度インターバルの効果を目の当たりにした僕は、迷いなくその後も同じようなトレーニングを毎日繰り返していました。
しかし今から考えれば、自分の年齢&自転車歴・筋肉の特性・心肺機能・性格といった個別性を考えずに、高強度のインターバルに注力したことには問題があったと感じています。もちろんメリットもありましたが、デメリットも大きかった。その結果が22年の富士ヒルの結果(1:15:32)に現れてしまったと思います。
この年の富士ヒルではタイムを落とす方が多かったように思いますが、僕の場合、環境的要因だけでは説明できないキツさがありました。
FTPの変遷から見る高強度インターバルのメリット
まず2021年5月までにFTP225~230W(4.2PWR前後)という目標を立てた僕は、ローラーを利用したパワートレーニングを中心に行いました。FTPのプロフィールは以下の通り。
215W (2020.12.31)
225W(2021.4.15)
229W(2021.5.25)
一気に伸びていったのが分かります。ここで21年の富士ヒルを迎えて1:12:36の記録でした。ここからも同じようなトレーニングを続けたわけですが、その後のFTPは以下の通り。
234W(2023.2.28)
244W(2022.3.18)
やはり向上しています。こうして自信を持って迎えた2022年の富士ヒルは1:15:32…… 残念な結果となったわけです。
僕のような初心者にとって高強度インターバルがFTPの向上に効果的なのは確かだと思いますが、このタイムを目の当たりにして問題点についても考える必要がありました。
高強度インターバル中心のデメリット
高強度インターバルが効果的なのは間違いないと思います。特に初心者が時間効率良く強くなるために高強度のパワートレーニングは非常に優れた効果を持っていると思います。
しかし、20分程度のパワーから推測されるFTPは必ずしも実力を反映していないだけでなく、実際のヒルクライムは微妙な勾配の変化に対応しながら1時間以上にわたって一定出力を維持する必要があります。
短時間高強度中心だとVO2maxは向上し、20分の出力から推測するFTPは高くなるのですが、実際に長時間出力を維持できるだけの「器」(いわゆるベース?)を作れなかったというのが反省点として浮上しました。
やはり自分が出たいレースの特性を考慮してトレーニングすべきだったと思います。特に自分に足りないのは、勾配の変化が多い実走で一定出力を維持するだけの筋持久力だと感じました。
トレーニングプランの見直し(2022-23)
そこで、もう一度トレーニングの仕方を全面的に見直しました。トレーニングはできるだけシンプルに、軸は4つです。高強度インターバルは重視しつつも優先度は下げました。
① 1時間以上にわたって一定強度の出力を維持できるだけの「器」を作ること。
② 勾配の変化に対応しながら出力する実走力を鍛えること。
③ ゆるく楽しむサイクリングの割合を増やすこと。
④ 高強度インターバルでVO2maxに刺激を入れること。
この時期からランニングのトレーニング理論も参考にしました。リディアードは最高安定状態を維持した有酸素ランニング(「マラソン・コンディショニング・トレーニング」)でスタミナを築いた後に、より高強度の刺激を入れる必要性を強調しており、参考になりました。
ここでいう有酸素運動は決して「楽々」ではなく、無理はないけど楽でもない「最高安定状態」を保ったものです。僕はそれをSSTのレベルと読み替えて、SSTの強度で1時間踏み続けるトレーニングを取り入れてみました。
リディアードのいう「最高安定」はアスリートの主観的運動強度を尊重したものであるのも自分にはあっていました。つまり、体調が悪い時は普段よりも低いパワーが「最高安定状態」なので、その日その日のコンディションに応じて変化させられます。つまり決まったパワーに拘束されず、むしろ自分のコンディション・主観的運動強度がパワーを決めるので、気分的にも楽に取り組めて継続することができました。
今から見れば、この有酸素レベルのパワートレーニングはかなりの効果を発揮したと思います。あまり伸びていなかったFTPも234W(2022.2.28)、244W(2022.3.18)と向上しました。
同時に早朝のローラーに替えて、檜原村役場まで往復するヒル・クルーズや、いくつかの異なる勾配のヒルクライムを織り交ぜたコースを周回するアップヒル・トレーニングを導入して実走への適応を重視しました。
それとゆるくみんなで楽しむサイクリングの割合を増やし、トレーニングのボリュームも小さくしました。追い込む時は集中してやり、そのほかは思い切って強度を下げてメリハリを大事にしました。
難しいのはこれまで重視してきた高強度の扱いですが、ここは思い切ってリディアードの考え方を受け入れました。リディアードは有酸素に対して無酸素トレーニングは「重要ではないトレーニング」と強調しています。これはやらなくて良いという意味ではありません。ピリオダイゼーションによってレース前の1ヶ月くらいをそれに当てれば十分で、やりすぎはむしろそれまで築いた有酸素能力の土台を崩してしまう可能性があると指摘しています。
僕の場合、実走でのパワー強化を意識して、それまでやっていたローラーでの高強度トレーニングを、近所の激坂でヒル・リピーツに代えてやることでVO2maxへの刺激入れをし、2023年の富士ヒルに臨みました。
2023年の富士ヒルーPR更新
こうして48歳で迎えた2023年の富士ヒルでは1:11:27でPRを更新し、一歳刻みランキングで17位(254人)でした(ちなみにその後の乗鞍ヒルクライムでも1:10:21でPRを更新)。できれば1時間10分を切りたいと考えていたのですが、それはあまり重要度の高い目標ではなかったです。
そもそも50代も目前の僕は、それほどコンペティティブな人間でないので、「絶対にゴールド獲るぜ!」とか「あいつには負けられないぜ!」という感覚はあまりないです。
あえて言えば、最大の関心事は「過去の自分との競争」でしょうか。年齢を重ねるなかで、色々とトレーニング理論を実験的に試しながら、過去の自分と競い合うことが楽しくでしょうがない。
かつてはすごく速かった人が、歳をとって遅くなった途端、スポーツをやめてしまうケースをよく目にしますが、本当にもったいないと思います。機能的には老いていくなかで、自分の身体内に隠されている可能性を掘り出していく作業は、かなりスリリングで最高のエンターテイメントです。
ちなみにこのトレーニング・プログラムの変化は、予定外の効果をランニングにもたらしたのですが、初めて走ったつくばマラソンについてはまた別の機会に書きたいと思います。