あり得ない話。

もし魔法が使えるなら。もしタイムスリップできるのなら。1つだけなんでも願いが叶うのなら。そんな、あり得ないけど誰もが想像したことのあるような、ありがちな話。

もしもタイムスリップできるのなら、あの時に戻りたいだろうか。戻ったとして、何をするだろう。

私は、3年前に戻り、あの幸せに満ちた1年半を過ごし、別れを告げられた時にはあっけなく死んでいこうと思う。最期が辛い記憶になるけれど。

別れを実感してしまう前に。宙に浮いた感覚のままに。夢の中にいると思い込めるうちにサヨナラしよう。

幸せな記憶が薄れないうちに。何ひとつ損なわない幸福に思いを馳せられるうちに。全ての記憶が鮮明なうちに。残酷な現実が襲いかかってくる前に。

その死によって、私の幸せは無欠なものとなり。時の流れでさえも侵すことのできないものとなる。

きっと、あなたの中にも私の存在が強く焼き付けられるだろう。苦しむかもしれないが、私の最後のわがままだと思って許して欲しい。いえ、許してもらえずとも私はやり遂げるけれど。

そうだ、あなた宛の手紙も書いておこう。決して嫌がらせのつもりではない。私の記憶や想いをそのままに書き残す。読みたくないと思うけれど、最期の手紙くらいは読んでほしい。

あなたへの手紙を書き、そして私は私の幸せのために死んでゆくのだ。あなたへの想いは現世に置いてゆく。届くかどうかはわからないが、ほんのささやかな復讐になればいいとも思う。幸せだった分、別れを告げられた時の痛みは大きかった。

あなたは何も悪くはない。けれど、私にとってその事は許し難いことで全く容認できない悪だった。

あなたへの愛とあなたへの復讐は同時に為される。同時だからこそ、私のあなたへの愛は完成される。

私の命の最期の輝きで、あなたへの愛を。

一際輝く、最期の瞬間さえもあなたのもの。

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