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肩痛イタタ

中年になると、ある日突然肩が痛み出し、どんどん痛くなって、遂には腕を挙げられない、後ろも振り向けない状態に陥ることがよくあります。40歳代で発症すれば、四十肩、50歳代なら五十肩と称され、医学的には肩関節周囲炎と呼ばれます。

医学生は、基礎医学を学ぶ際に肉眼解剖をみっちり叩きこまれます。成人の御遺体を筋骨の一片までバラバラに解剖するのですが、その際に肩関節がいとも簡単に外れるのに驚かされるとのこと。実は肩関節には上腕骨から肩甲骨へ伸びる三角筋や上腕筋等の大きな筋が腱となって骨表面にガッチリ付着しています。それをメスでバッサリ切断すれば、上肢はボロンと容易に外れてしまいます。生下時から毎日腕を上げ下げしていると、これらの腱は徐々に炎症を起こし、遂には激しい痛みを伴なうのです。整形外科の先生から「太いゴムが経年劣化してボロボロになるイメージだね」と説明を受けたことがあります。

肩関節周囲炎がひどくなると、もうインキャパ状態です。ツインオッターを飛ばしていたエアマンは、操縦席の上方にあるスロットルを動かせなくて、地上勤務になりました。ロビンソンのヘリパイロットは、後方を振り向こうとすると痛みで操縦桿を握っていられないので、乗務停止告げられました。「今後ずっと飛べなくなるのでは?」と泣きそうな顔で、相談を受けたことが今まで度々ありました。

今日の医学をもってしても、肩関節周囲炎の痛みを即刻抑えることは困難だそうです。強めのステロイド注射剤を肩関節腔内に直接注入すると、劇的に痛みが軽減することがあるようですが、今までそれを試したエアマンで、すっかり治った人を見たことがありません。多くは数日間痛みが和らいだものの、また同じくらい、時には従前以上に痛くなったとガッカリされる方が殆どでした。鍼灸治療を受けて痛みがかなり軽減したエアマンを見たことがありますが、それでも痛みの程度はピーク時の半分ほどで、週3-4回も施術に行かねばならないと、今度は懐が痛くなると嘆いていました。

この病気、ひどい時には寝返りしても激痛で目が覚める程のため、予後に悲観的となるものなのですが、いずれ必ず軽快するようです。「一寸先も見えない薄暗い雲の中から、サーッと眩いon-topに出た時のような感じで」痛みが消失します。問題は、どのくらい直ぐに治るかで、数週間で軽減する場合もあれば、一年近く強い痛みに苛まれるエアマンもいます。

人間、日常生活の中で上肢を使わない事はまずありません。ですから、炎症を起こしている大きな筋群をなるべく使わないのが、自助努力で早く治す唯一の方策とのこと。具体的には肩甲骨に付着している小さな筋(これを整形外科ではinner musclesといいます)を暫く代用するのが良い様です。ひじ掛けのある椅子に座って、肘をアームレストに乗せながら前腕を水平に動かすと、肩甲骨の中央部で小さな筋肉がモコモコ動いているのが感じられる筈です。これが肩甲骨棘の上下に付着する筋inner musclesです。上肢を内外へ動かさねばならない動作では、肘を曲げながら水平にそっと動かし、高所低所へ上肢を伸ばさねばならない動作は、なるべく足腰を使って腕だけ伸ばして済ませようとしないことで、上肢の大きな筋群をかなり休ませることが出来るそうです。

「そんな面倒なこと、やってられないよ!」と云うならそれも一案。但し、肩関節周囲炎は何歳になっても再燃しますから、五十肩、六十肩...と乗務を退くまで、肩は悲鳴を上げ続けるでしょう。利き腕でない肩へも発症しますから、今後どうなるかお楽しみに。

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