オリジン オブ ミュージック&ダンス

日の出とともに世界が始まり、日の入りとともに世界が終わる。そのように考えられていた太古の昔。

東の空から太陽が顔を覗かせ、闇に包まれていた世界が少しずつ、その姿を顕にしていくとともに、人々はその活動を始める。

力の強いものは手製の弓矢や、槍を持って狩りに出かけ、力の弱いものは森に木の実や山菜などの採集に出かけ、その中でも手先の器用なものは石を打ち、鏃(やじり)を作ったり、木を削って弓をつくる。土を捏ねて器を作ったり、蔓で籠なども作ったかもしれない。

朝、力の強いものが狩りへ出かけようと洞穴から外へ出ると、力の弱いものはもう起きていて、あるものはコンコンと石を打ち、あるものはシュッ、シュッ、と木を削っていた。

それを横目に力の強いものは使い慣れた弓矢と槍を持ってノシノシと森へと向かい歩く。

言葉のない時代、それは一日の始まりのコミュニケーションだった。

コンコン (行ってらっしゃ〜い)

シュッ、シュッ (がんばってね〜)

ノシノシ (まかせろぃ!)

力の弱いものたちは熟練度を増していくごとにコンコン、シュッ、シュッ、と規則正しく迷いのないリズムを刻みだす。

力の強いものたちは、そのものたちを横目に、でもその規則正しい音はしっかり耳で受け止めながら、力強く大地を踏み締め、ノシノシと歩く。

力の弱いものたちは体が弱く、病にかかるものも多かった。薬や医療がない時代、そのまま死ぬものも少なくない。

力の強いものたちは、力の弱いものたちを少し下に見ていたが、力の弱いものたちが作る武器は必要だったので、獲物は均等にみんなで分けた。

ある日、体の弱いものたちがみんな、病に倒れた。

それでも体の強いものたちは狩りに出かける。

獲物は全くとれなかった。

次の日も、また次の日も獲物はとれない。

やがて矢が尽き、弓は張を失い、槍は壊れてしまった。

それを知った力の弱いものたちは、体を引きずるように洞穴から這い出て、血を吐きながらも、充血した目をカッと見開き、震える体を必死に動かして、わずかな弓矢を作った。

あまり出来の良くないその弓矢を受け取った力の強いものたちはその日、なんとか僅かな獲物をとることができた。

力の強いものたちは、何日も何も食べていなかったが、その獲物を全て力の弱いものたちに食べさせた。

やがて力の弱いものたちは体力を回復させ、再び弓矢や槍を作り始めた。

コンコン、シュッ、シュッ、コンコン、シュッ、シュッ

力の強いものたちは、その規則正しく一定のリズムで刻まれる音に合わせて、ステップを踏むように歩きだす。森に向かって歩きだす。顔は少し、笑っているようにも見える。

コンコンシュッシュッノッシノシ、コンコンシュッシュッノッシノシ

その日はたくさんの獲物がとれた。

力の弱いものたちの営みが、やがてミュージックへと昇華し、力の強いものたちの営みが、やがてダンスへと昇華していくのはもう少し(数万年)先の話…


休日にやる事のないおじさんの妄想ストーリー。

夕方、溜まった洗濯物を片付けにきたコインランドリーにて。





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