ビューティフル_ボーイ

「すべてをこえて愛してる」

観終えてからいつまでも内容を引きずる映画は久しぶり。


ビューティフル・ボーイ

美しいタイトルとポスターに惹かれて再生ボタンを押してしまわないようにご注意を。これ爽やかなストーリーじゃないですよ、覚悟してから観たほうが良いですよ。わたしは覚悟したにも関わらず観終えてから今でもずっと引きずっています。



さて突然ですがティモシー・シャラメは好きですか?
わたしは好きです。


最初に知ったのは『インターステラー』でした。主人公クーパーの息子、トムの幼少期。この時はちょっと気になる存在って感じだったなあ。


君の名前で僕を呼んで』では主人公のエリオ役でアカデミー賞主演男優賞にノミネート。
ポスター通り、青々しい。青々しくて綺麗で切なくて美しくて。一瞬の夢のような映画。
特にエンドロールのティモシー・シャラメがあまりにも素晴らしすぎてわたしはたまらなく好きになってしまったのでした。台詞が無い場面の彼の演技が好きなんですよね。


現在公開中の『ホット・サマー・ナイツ』もティモシー・シャラメが主演を務めています。『君の名前で僕を呼んで』もそうですが”一夏の恋”が似合いすぎる。まだ観に行けていなくって…映画館で観たいなあ。



さて、そんな彼がスティーヴ・カレルと共に主演を務めた映画が『ビューティフル・ボーイ』です。

成績優秀でスポーツ万能、将来を期待されていた学生ニックは、ふとしたきっかけで手を出したドラッグに次第にのめり込んでいく。
更生施設を抜け出したり、再発を繰り返すニックを、大きな愛と献身で見守り包み込む父親デヴィッド。
何度裏切られても、息子を信じ続けることができたのは、すべてをこえて愛している存在だから。
父デヴィッドと、息子ニックがそれぞれの視点で書いた2冊のベストセラーノンフィクションを原作とした実話に基づく愛と再生の物語。
( Filmarksより )


「ごめんね」「もうしない」「もう大丈夫」

そんな言葉を言いながらもいつまでもドラッグから逃れられない息子と、そんな息子を救おうとする父親の話。文章で読むより、予告動画を観るより、何十倍も重たくて苦しくて辛い映画でした。
観ながら自分が過呼吸を起こしそうなほど苦しかった。


なぜいつまでも諦めないのか。
なぜいつまでも支え続けるのか。

その答えは「家族だから」という言葉に尽きる。


この映画を観ながら、妹が精神的な病気で変わってしまった時のことを思い出してしまい胸が痛かった。今はだいぶ落ち着いているけれど、昔は大変だった。
わたしは変わってしまった妹に対して少しでも「こわい」と思ってしまった自分が大嫌いになった。妹が悪いわけじゃないのに。姉としてわたしに出来ることは他に何かあったんじゃないのかなって。

中学生の妹が泣きながら「わたし、入院したい。入院しないとダメだと思う」と自分から言いだした日のことはきっと一生忘れられない。妹の口から出たその言葉にショックを受けた時のこと。そしてその言葉に少しだけ安心してしまった自分自身への嫌悪感。絶対に忘れられる訳が無い。

たとえどんなに痛く叩かれようが、夜中に家を飛び出されてしまおうが、酷い態度を取られ酷い言葉を投げ掛けられようが、それでもわたしは妹のことが好きだった。たとえお医者さんに治ることのない病気だと言われたって、治ることを望んだし良くなることを願った。
いまは不安定な日だってもちろんあるけれど冗談言い合って笑い合ったり出来る。本当に良かった。生きていてくれるんだからそれで良い。


自分自身が精神的に参ってしまったとき、母にその事実を話すのがとても怖かった。怖くて恥ずかしくて情けなかった。
だけどやっぱりわたしが助けを求めたのは母だった。
母に電話して、電話を切った後で堰を切ったように涙が溢れてきてわんわん泣いた。

家族だから言いにくいこともあるけれど、
家族だから解ってくれることもあるんだと思う。

とはいえ、わたしの場合は母限定でもあるのだけれど。


そういう昔のあれこれを思い出してしまってずっと苦しかったし、いまでもこの映画のことを考えると心が重たくなってしまう。それでも観て良かったとは思うんです。美しい映画だったとか面白かったとかは言えないけれど。

親になってから観たらまた違うダメージをくらいそうです。



映画の中で父と息子が抱き合いながら確認するように「すべて」「すべて」と言い合う場面が何度も出てくるんです。「すべて」とはどういう意味なんだろうと気になっていたのですが、これが終盤で明かされるんですよね。

まだ幼いニックが飛行機に乗って離婚した母親の元へひとりで遊びに行くシーン。その場面での父親のこの台詞。このシーンがあったからこそ観て良かった映画になったんだなあと思います。


「パパの愛が分かる?
世界中の言葉をすべて集めても
この愛を伝えきれない
それらの言葉ではこの想いを表せない
おまえを想う気持ちこそすべて
すべてをこえて愛してる」

「すべて?」

「そう すべてだ」


「どうして」ばかり生まれるのはきっとお互い様で。

どうしてドラッグをやめられないんだ
どうして、やめると言っていたのに
どうしてこうなってしまったんだ

どうして、どうして、どうして…

ニックがドラッグに手を出したきっかけが描かれていなかったのだけれどおそらく本当に軽い気持ち、なんだろうな。軽い気持ちで始めたものが何年間も何十年間も自分と家族を苦しめ続ける。いつまで続くのか分からない恐怖。これが現実なんだよなあと思うと遣る瀬無い気持ちになります。

戻るのはあまりにも遠い旅だ

ドラッグについてのこの表現があまりにも的を得ていると思います。戻るのはあまりにも遠いから、って進んでしまうものなのかしら。どこまでも、いつまでも。

そしてそんなニックを演じるティモシー・シャラメが…観ていて苦しくなるんですよね。魅力的な息子とドラッグに溺れて抜け出せない息子の演じ分けにクラクラしてしまう。これからますます活躍してくれるんじゃないでしょうか。今後が楽しみな俳優さんです。


あまりにも重たい内容ばかり書いてしまったので最後だけはちょっと軽めに。

学内でスケボーに乗るティモシー・シャラメの服装がものすごくタイプでした。白Tシャツにオレンジのチェックシャツ、ジーパン、ベージュのスニーカー、そしてスケボー。


わたしはティモシー・シャラメから抜け出せない。
ドラッグよりもイケメンに溺れていたいですね。

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