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『ひらやすみ』で自分を客観視

あの時は小さいことで悩んでいたなあと思うことがたまにあります。
それはもちろん今だからこそそう思えるのであって、当時の自分にとっては大きな問題でした。たとえば小学校なんて小学生の世界のほとんどを占めているのだから、学校で何かあれば「もう終わりだ」と思ってしまうのも仕方ありません。
そうやって過去の自分を客観視できたときに大人になったなあと感じます。

真造圭伍先生の『ひらやすみ』はまさにその視点が詰まっていました。

はじめての経験

『ひらやすみ』は、29歳のフリーター・ヒロトと、その従姉妹で美大生の18歳・なつみが、阿佐ヶ谷駅から徒歩20分の平屋で暮らす漫画です。

まずは、なつみの話から。
なつみはたくさんの「はじめて」に出会います。

ずっと住んでいた山形から出て、はじめての東京。はじめての二人暮らし。はじめての美大入学。はじめて知る家事の辛さ。

最初が肝心とはよく言いますが、なつみは本来の自分以上を見せようとして最初に失敗してしまいます。そしてそこからなかなか抜け出せないのです。

そんななつみを見て「気持ち分かるな」と「今のわたしならこう思うな」のふたつの感情が生まれました。なつみの心情になって読むことも、なつみを見守るヒロトの目線になって読むことも、どちらも自然に出来たのです。
ヒロトを通してわたしはなつみの中の「過去のわたし」と向き合います。あの時のわたしにこう接してあげたかったな、とそう思うのです。

なつみはヒロトの言葉を受け、自分で突破口を見出します。
ヒロトに連れられて行った眺めの良い歩道橋は、悩んでいる時に見ても何も感じませんでした。現状を打破したなつみが再度その歩道橋を訪れるシーンは1巻の中でもすきなシーンのひとつです。


「縛られてない」って何から?

次はヒロトの話。
「東京」に抱くイメージからかけ離れたタイプで、とにかくマイペース、のんき、そして人当たりが良い男性。人当たりが良すぎるあまり、2LDKの平屋を親戚でもないおばあちゃんから譲ってもらったほどです。

ヒロトの高校の頃からの友人・ヒデキ(フッて笑うタイプ)は結婚1年目。まもなく子供も生まれます。「ちゃんとした仕事もしてすごいなあ」と言うヒロトに対し、ヒデキはこう返しました。

「オレはヒロトが少しうらやましいぜ。
なんも縛られてなくて自由じゃん?」

漫画を読んでいて、確かにヒロトは羨ましいです。でもその「なんも縛られてない」羨ましさって独身でフリーターだからっていうわけではないと思うんですよね。

わたしは自分自身に対する無意識の縛りが多いなと思っています。たとえば、ちゃんと働いて、ちゃんと暮らしていかないと、って。とはいえ正社員で働いていることを後悔しているわけではないですし、いまの仕事も当分は続けるつもりです。お金はやっぱり必要だしね。

だけどヒロトって自分自身に対する縛りが無い、あるいはそれがとても少ないのかなと思います。幸せについてあまり考えたことがないと彼は言いますが、それはいつだって自分が心地良くいられる選択を無意識のうちに選べているからなんだと思うんですよね。これは仕事に限った話ではなく。

1巻でいちばん好きだったのがヒロトのコマのナレーションです。

なつみちゃんは、きっとこの夜のことは忘れないだろうと思った。
ヒロト君も今度ヒデキに会った時のために覚えておこうと思った。

今だから難しいというのもありますが「今度会ったときにこの話をしよう」って思える出来事があること、そしてそれを話したい相手がいること、こういう日常のささやかな幸せが描かれているところがこの漫画のすきなところだし、こういうことを大事にしているところがヒロトのすきな部分だなあと思います。
あ、あとやさしい文体のナレーション(漫画でもそう言いますかね?)もとってもすき。

自分の中の縛りを無くすことなんてすぐには出来ないけれど、自分がどういう縛りを無意識のうちに設けているかを考えることは出来そうです。まずはそこから始めてみたいと思います。大人の自分も客観視できるように。

家賃から解放されて平屋を持ってるのは素直に羨ましいけどね!


上記サイトから1話試し読みが出来ます。
忙しない毎日に『ひらやすみ』でふっと一息、いかがでしょうか。


後日談

真造先生がnote読んでくださいました…!作者さんから「素敵」と言って貰えて光栄です。書いて良かったなあ。


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