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解像度が上げられる感覚【 #ままならないから私とあなた 】

無意識のうちに、それでも確実に自分の中でコントロールしていた世の中の解像度。それが意図せずグググっと上げられてしまう感覚。

見たくなかった、知りたくなかったことをはっきりと突きつけられてしまい、それ以上は進みたくないよというところまで連れていかれる感覚。

だけど、本当は知っていたし、分かっていたこと。


指摘されて、恥ずかしくてヘラヘラ笑って誤魔化して、そのヘラヘラの仮面がいつしか顔に張り付いてしまう…。
そんな経験をしたことがあるひとに、朝井リョウさんの『ままならないから私とあなた』はよく刺さります。

70ページほどの短編『レンタル世界』と表題作『ままならないから私とあなた』の2篇に共通していることは、グググっと世の中の解像度を上げてくる点です。

見たくなくても、知りたくなくても。


レンタル世界

主人公の雄太は、他人に見られたくないもの、知られたくないことを、敢えて曝け出します。何も隠すものなんて無いと相手に見せることによって信頼関係を築き、それが最強の絆になると信じているからです。

俺は、結婚式が好きだ。昔の仲間に会えるとか、酒飲んで騒げるとか単純にめでたいとかそういう理由ももちろん大きいが、なによりも、ものすごくきちんとした人間のふりをしている新郎新婦を見るのが好きなのだ。列席者には、本当はこんなにもきちんとした人間ではないことを知っている間柄の人間しかいないのに、みんなで着飾って共犯関係を築き、きれいなものしかない世界を作り上げているところがおもしろくってたまらない。(p15-16)

列席者同士が「きれいなものしかない世界を作り上げている」のが結婚式の面白さだと思っている雄太は、その結婚式で新婦友人として列席していたある女性に一目惚れします。

その彼女と別の場所で偶然再会した時、彼女が「レンタル友達」として列席していたことを知ってしまうのです。

結婚式の「きれいなものしかない世界を作り上げている」部分が面白かったのは気心の知れた人同士だったからこそ。そんな人たちが「ものすごくきちんとしたふり」だからこそ面白かった。

それなのに、本当に作り上げられた世界だったとしたら…?

人に知られたく無い部分を隠すためのレンタル業。
レンタルした世界で守りたい人間関係とは何か。雄太の信じる、人に知られたくないことを曝け出すことで実現してきた人間関係は本当に「最強の絆」なのか。

雄太が「レンタル彼女」を通して知る世界に目の前がぐらりと揺れます。


ままならないから私とあなた

利便性を追求し、無駄なものを排除していく薫。
無駄なものにこそ人の温かみが宿ると考える雪子。
幼い時から仲良しだった薫と雪子は成長するにつれて徐々に価値観のすれ違いが起きるようになっていきます。

…辛かった。辛かったけど、好きな作品。
「やるせない」とか「ままならない」を描いている作品をわたしはどうやら好むらしい。たぶん、そこに人間らしさを見出しているからなんでしょう。
朝井リョウの描く人間関係がとても好き。


小学生の薫ちゃんの胸が大きくなったこと。
渡邊くんの声が低くなったこと。
タイミングが分からない妊娠。

全ての「ままならない」はコントロールすることができない。これはきっと薫ちゃんの得意なプログラミングでもダメなこと。人間の身体のままならない部分。

好き。
私は、当たり前のようにそう思った。百円で買ったおみくじを開くように、お母さんが作ってくれたお弁当の蓋を開けるように、ほどけた靴ひもを結び、また歩き出すように、とても自然にそう思った。A判定とかC判定とか、降水確率八十パーセントとか、どれくらい、なんてわからないくらい、とにかく好きだと思った。決して数値化できない感情の渦の中に飲みこまれていく心地よさが、制服と体の隙間に入り込んで、私のまんなかにある心から順番に、内臓や四肢の先の先までを満たしていく。(p145)

薫ちゃんに言わせれば恋愛こそコントロールの出来ない無駄な感情。
だけど、コントロール出来ないからこそ愛おしいものもあるんだよ。プログラミング出来ない部分を愛してしまうんだよ。

わたしの考えは雪子に近いから、薫ちゃんの言葉や行動にも同じように傷ついてしまう。でも、なんて伝えたら良いのか分からない。
理解しあえるんだろうか。いや、きっと理解しなくてもよくて。ただ、こういう考えもあるんだよって知ってもらえればそれで良くて。みんな一人一人違うんだよ、って。でも薫ちゃんはみんなが同じことができるように、という利便的な仕組みを作っていて…。

ああ、この感情も、ままならない。



レンタル彼女に、そして薫ちゃんに、グググっと上げられてしまう世の中の解像度。見たくなかった、知りたくなかった現実を突きつけられてしまうあの感覚。

でも不思議とそれが嫌な感覚ではないんです。
自分という「世界」に入り込んでくる別の「世界」を味わう体験。


解像度を上げられたい人は、是非。

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