ただ作品に身を浸す贅沢| Away

バルト三国の1つ、ラトビア出身のアニメーション作家にギンツ・ジルバロディスさんという方がいます。
彼は8歳の頃からアニメを作り始め、弱冠25歳にして1人で長編アニメーション作品を作り上げました。繰り返します。1人で、です。たった1人で75分のアニメ作品を作り上げたというのです。かかった年月は3年半らしく、そんな短い期間でこの完成度?と驚いてしまいます。
前置きが長くなりましたが何が言いたいかって、とにかく『Away』という作品が面白かったよという話。

まずはどんなアニメーションなのか是非観てください。

何度観ても美しい…。
作品紹介PVということもあって説明が加えられているのですが、本編は説明が全く出てきません。説明が、というより台詞がないのです。ナレーションもありません。4つのチャプターに分かれていて、それぞれのタイトルがスッと表示されるくらい。そのため細部まで内容を理解出来ないとモヤモヤする、という人には向かない映画かもしれません。

この頃、情報の多さに疲れていました。
見なきゃ良いじゃんっていう話ではあるんですが、Twitterに新設された「おすすめ」タブは暗い気持ちになるツイートが多いし(何故わたしにおすすめしてくるんだろう…と思うものが多い。)エンタメ作品にしたって伏線がどうとかその解釈は違うんじゃないかとか、それが楽しい時もあればお腹いっぱいになってしまう時もあります。誰かの話に限らず自分自身もそうで。考えながら観る、という行為が億劫な時があります。考えるって無意識のうちにやっていることも多いので、そこが厄介なんですよね。

そんな時に『Away』を観たんです。
美しい背景。バイクのエンジン音。かわいい動物たち。目に映る映像、聴こえる音を感じて、ただその世界に浸る。この時間がとても贅沢で、同時にものすごく癒しを感じました。ただ受け止める。それがこんなに気持ちの良い時間だなんて。

ストーリーはとても単純。
飛行機事故で1人だけ生き延びた青年が主人公で、森で見つけた地図をたよりにオートバイで島を駆け抜けるロードムービーです。相棒はキュートな黄色い小鳥ちゃん。そして何故か追いかけてくる「黒い影」。
この「黒い影」は何なのか。抽象的に何かを表しているのか。それを考えながら観ても良いですし、考えずに「黒い影」としてそのままを受け入れても良いんです。そこが観ていて楽というか。理解しようとしなくて良いっていうのが心地良いんですよね。主線の無い絵というのがまた魅力的で、あらゆるものの境界を曖昧にしてくれている気がします。リアルとファンタジーとか。地球上の話なのかそれとも別の世界なのかとか。

少し話が逸れますが、主線の無い絵というところで『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん』を思い出しました。こちらはフランス、デンマークの共同製作作品。『Away』同様に色彩の美しい映画で、特に電車に乗った時の目の表現が好きでした。日本のアニメーションではあまり観ない画角も多かった記憶があります。料理シーンが面白かったなあ。話としては、北極に行ったまま帰ってこない最愛のおじいちゃんを孫娘のサーシャが探しに行くというもの。

『Away』に話を戻しましょう。台詞無しで75分ってよっぽど面白くないと最後まで観られないんじゃないかなんて思うんですが、むしろ魅入ってしまうんです。ストーリー展開もドキドキする要素が含まれていますし、アニメーションがとにかく美しいというのも理由として挙げられます。
あと映像への没入感が見事なんですよね。おそらくカメラワークの影響かなと思います。アニメーション作品なのに実写のドキュメンタリーのような長回しカットが多いように感じました。実際にカメラで撮影しているみたいな動きなんですよ。これが格好良くてたまりません。この部分が没入感に繋がって、より作品世界に浸らせてくれたのだと思います。

さて、これだけ書いておいてあれなんですが、観られる配信サイトが少ないんです。。もし興味を持ってくださった方がいましたら『Away』の世界にただただ身を浸す時間を味わってみてください。きっと贅沢な時間になるはずです。
(公式サイトも作りが素敵…!)


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