フローズンタイム

もしも時間を止められるとしたら

時間操作は科学ではなく
個人の意識で起こる

失恋直後の時間経過がいつもよりも遅かったり
好きなバンドのライブがあっという間に終わったり
仕事中に時計を見てもなかなか針は進まなかったり
映画を観ているといつの間にか2時間が経っていたり

全員が毎日同じ単位で過ごしている時間。
いつもより仕事が終わるのが早く感じただとか、いつもより時間が進むのが遅く感じただとか、そういう誰しもが時間に対して感じたことのある気持ちを映像化した、そんな映画が『フローズン・タイム』でした。


美大生のベン(ショーン・ビガースタッフ)は初めての恋人スージー(ミシェル・ライアン)と別れた日から眠れなくなってしまう。1日8時間を持て余すようになったベンはスーパーマーケットの夜勤として働くようになり、いつしか時間を止められるようになる。


こう書いてしまうとSFチックなんですけど、SFではなく恋愛映画です。いや、失恋映画になるのかな。
ちなみにR15作品。女性のヌードが沢山出てきます。

最初はスージーに新しく彼氏が出来たと知ったベンが「もう寝たのか」「僕より良かったのか」なんて聞く様に、ベンよ…そういうところなんじゃないの、しかも自分から別れようなんて言っておいて何よ、なんて思っていたけれど、ベンは本当に普通の男の子なんですよね。普通よりやや真面目かな。


女性のヌードを初めて見た子供時代にベンはなんて美しいんだろうと感じ、この一瞬が止まればいいのに、と思ったんだとか。

時間を止めたい
この瞬間を味わいたい
この瞬間を生きたい

わたしは画家に限らずアーティストと名前がつく人たち(画家、作家、ミュージシャン、フォトグラファーなどなど)は一瞬一瞬の切り取り方が上手い人たちだなあと思っている。写真家さんは特にこの表現が使われている気がする。一瞬の切り取り。世界のトリミング。

上に引用した「時間を止めたい この瞬間を味わいたい この瞬間を生きたい」を表現できるひとたちこそがまさにアーティストなんだろうな、と思う。



もしも時間を止められるとしたら。

考えたけれど、わたしはきっと怖くなる。自分ひとりしか動かない世界なんて望まない。大好きなひとたちとのお喋りとか、好きなバンドのライブとか、この瞬間が続けばいいのにって思うことは良くある。続けばいいのによりも、終わって欲しくない、の方が近いかもしれない。けれど、終わって欲しくない=時間が止まってほしいという訳ではない。

「この瞬間を生きたい」と感じられる一瞬に出会うこと、そういう生き方が出来るようになれたら良いよね。ベンのように。世界を観る視点に愛を持って。

あとこの映画の良いところは、結局のところ出来るのは時間を止められるということだけ、という点。そう、時間を巻き戻すことはできない。美しい瞬間を止めることはできても、過去に戻ることは出来ない。この部分が妙にリアリティがあって良かったなあと思う。


「不眠症」と「時間を止める」が共存している点も面白い。
眠りたいのに何故だか眠れない夜ってとても辛いし、ぜんぜん時間は進んでくれないし、そんな夜は時間が止まったように感じる。だからそういう気持ちまでも映画としてストーリーありきで表現されているのが素晴らしいなあって。


ラストシーンがとても美しいので観終わった後も気持ちが良い。

とてもアートな作品。そう、作品って言いたくなる映画でした。

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