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不安を一つ蹴飛ばして (詩)

月刊詩誌「ココア共和国」2021年8月 傑作 書籍掲載

不安を一つ蹴飛ばして
もっと大きな不安にぶつかって
共に転がった先にあった
さらなる不安と合体して
膨らんだ巨大な不安に呑み込まれる 

自分より愚かな誰かを笑って
自分より不幸な誰かを憐れんで
太刀打ちできない力の前で卑屈な笑みを浮かべ
どうせを口癖に
私なんてと嘯いて

それでも生きてここまで来たのも
死ねなかったからなんて消極的な理由で
それでもここまで生きてきて
よく頑張ったねとかおかしなことを言うあんたを
睨みつけた目から水が出る
ドラマのヒーローにでもなったつもりか 一話で退場のくせに
中途半端に私の人生に登場するな

何も変わらない 変われない
どんな時も前向きなこと言わなきゃいけないこの世界で
誰に頼まれたわけでもないのに
不特定多数の誰かに向けて面白おかしくメッセージを飛ばす
そうでなければ居場所もない

それが当たり前ですよ みんなそうですよ 
おかしくなんてないですよ むしろみんなおかしいんですから
そう言って菩薩のように微笑んだ女を
蹴り飛ばして殴りつけてメタメタにボコボコにしてから抱きしめたい


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