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古文書『豆腐百珍』凡例とメニュー一覧が面白い。

今回から、古文書におけるレシピ本の王様、『豆腐百珍』をお届けします。
天明2年(1782)発行ですから、今から240年前。
そのころの豆腐料理とはいったいどのようなものなのでしょうか。

まず本編の前に凡例があります。ふつうはこういったものは訳さないのですが、今回はカットするのが惜しいほどの情報量でしたので、これをそのままご紹介します。

さらに、レシピに入る前に眺めておきたいメニュー一覧。これだけでも十分満足できるものとなっていますので、併せて初回はこの異例の二つを取り上げてみたいと思います。

序目1
序目2
序目3
序目4
序目5
序目6

凡例

①すべての豆腐料理100種類を
 6つの部類に分けて記載します。
 「尋常品」「通品」「佳品」「奇品」
 「妙品」「絶品」です。

②「尋常品」は各家庭で普段から馴染みの
 ある料理を記載し、さらにその道の料理人
 の家の秘訣をもれなく記載します。

③「通品」は調理方法の秘訣はありません。
世間の人はみなよく知っているものですから、
作り方を記すには及びません。
名前だけ列記します。

④「佳品」は風味が「尋常品」よりやや優れ、
見た目もきれいなものなどを記します。

⑤「奇品」はひときわ珍しく、人々の
気づかない方法で調理したものを記します。

⑥「妙品」はやや「奇品」に勝ります。
「奇品」は見た目や模様が奇抜ですが、
美味しさはもう一歩至らないものもあります。
しかし「妙品」は、見た目も美味しさも
両方備わるものを記します。

⑦「絶品」は「妙品」より勝ります。
「奇品」「妙品」は大変美味とはいえ、
美味過ぎるがゆえに嫌いだという人が
いないわけではありません。しかし、
「絶品」はその特異さに関わらず、
ひたすら豆腐の真味を追求し、
絶妙に調和したものを記します。
豆腐好きの人はこれを味わいましょう。

⑧田楽の切り方や串の刺し方の秘訣は、
木の芽田楽のところに記します。
すべて田楽と名のついたものは、
みなこの秘訣を使用しています。

⑨すべて、豆腐の細切りの仕方は、
うどん豆腐のところに記します。

⑩ケンチン酢・白酢、または、わさび味噌・
南蛮味噌などの豆腐調味料は、一か所に
記して、その他は省略します。
例えば、引きずり豆腐のところで、
わさび味噌を使うとありますが、
82番の「茶豆腐」のところにあると
触れているようにです。
あちらこちら照らし合わせてみてください。

⑪調理方法がほぼ同じものは、一か所に
まとめて記しています。その名前は品名を
分けるためにそれぞれの科には別に現して
いますが、これは品名の紛らわしいものを
分けるためです。もっとも、それぞれの
ところに記載してあります。

⑫生醤油とあるのは、水増し加減をしない
そのままの醤油です。

⑬百品は、形の作り方、料理の仕方、煮加減
などです。味噌仕立て、醤油仕立て、
油で揚げたものなどまちまちで、各々それを
分けるのは難しいため、見る方はそのあたりを
咎めることはご容赦ください。

⑭⛰このマークは肉のない精進料理です。

⑮作り方が一家の秘伝のため、
世に伝えないものは名前だけを続編に記します。
百珍の数を超え、かつ、
博物・好事のひとつとなるでしょう。
紅豆腐・御膳物の角おぼろなどが一例です。


豆腐百珍目録

尋常品

1.木の芽田楽
2.雉子焼き田楽
3.あらかね豆腐
4.むすび豆腐
5.ハンペン豆腐
6.高津湯豆腐
7.草の八杯豆腐
8.草のケンチン
9.あられ豆腐
10.雷豆腐
11.再炙ふたたび田楽
12.こごり豆腐
13.はやこごり豆腐
14.すり流し豆腐
15.おし豆腐
16.金沙すなご豆腐
17.ぷっかけうどん
18.しき味噌豆腐
19.ヒリヤウヅ
20.こくしょう
21.ふわふわ豆腐
22.まつ重ね
23.梨子なし豆腐
24.墨染すみぞめ豆腐
25.よせ豆腐
26.鶏卵たまご豆腐

通品

27.やき豆腐
28.油煤あげ豆腐
29.おぼろ豆腐
30.絹ごし豆腐
31.油煤あげ田楽
32.ちくわ豆腐
33.青菽あおまめ豆腐
34.やっこ豆腐
35.葛田楽
36.赤みそのしき味噌豆腐

佳品

37.なじみ豆腐
38.つと豆腐
39.今出川
40.一種の黄檗おうばく豆腐
41.青海せいかい豆腐
42.浅茅あさじ田楽
43.海胆うに田楽
44.雲かけ豆腐
45.線麺豆腐
46.しべ豆腐
47.いもかけ
48.くだき豆腐
49.備後びんご豆腐
50.小竹おささ葉豆腐
51.引ずり豆腐
52.うづみ豆腐
53.釈迦豆腐
54.なでしこ豆腐
55.沙金しゃきん豆腐
56.たたき豆腐

奇品

57.しじみもどき
58.玲瓏こおり豆腐
59.浄饌しょうじん海胆うに田楽
60.繭田楽
61.蓑田楽
62.六方焦着やきめ豆腐
63.れい豆腐
64.かすいり豆腐
65.あゆ香魚もどき
66.小倉豆腐
67.縐紗ちりめん豆腐
68.かくヒレウス
69.ほいろ豆腐
70.鹿子かのこ豆腐
71.うつし豆腐
72.冬至夜とうや豆腐
73.味噌漬
74.豆腐麺
75.藕根はね豆腐

妙品

76.光悦豆腐
77.真のケンチン
78.交趾こうち田楽
79.阿漕あこぎ田楽
80.鶏卵たまご田楽
81.真の八杯豆腐
82.茶豆腐
83.石焼豆腐
84.からすきやき
85.炒豆腐
86.煮ぬき豆腐
87.噄素しょうじんの煮ぬき豆腐
88.ごもく豆腐
89.空蝉うつせみ豆腐
90.苗鰕えび豆腐
91.加須底羅乳かすていらとうふ
92.別山焼べつさんやき
93.包油煠つつみあげ豆腐

絶品

94.油煠あげながし
95.辣料からみ豆腐
96.つぶて田楽
97.湯やっこ
98.雪消飯ゆきげめし
99.鞍馬豆腐
100.真のうどん豆腐


【たまむしのあとがき】

100種類の豆腐料理の名前を列記しましたが、難解な字が多いですね。

その中でもズバリ「とうふ」と読む字は、くずし字の様々な組み合わせも含めて15通りもありました。

「豆腐」「登う婦」「菽乳」「荳腐」「とう婦」「と宇不」「登うふ」「登宇不」「と宇婦」「と宇ふ」「とう不」「斗宇布」「董乳」「と卯不」「淮南」

一番最後の「淮南」ですが、豆腐の発祥が中国の前漢の淮南王劉安の創作にあるという説から、この字を充てているようです。

さらに「でんがく」は6通りです。

「田楽」「でん加゛く」「でん可゛く」「天゛ん加゛具」「でん可具」「天゛む加゛具」

目録含め本文ではシンプルに「豆腐」「田楽」に統一させていただこうと思います。

もしご興味とお時間があれば、画像をチェックしていただくと面白いかもしれません。

次回からはいよいよレシピの訳に突入します。


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