コスパで考える青春18きっぷ旅
こんにちは。こもくです。
夏も本番を迎え、連日30度を超える暑さにヒーヒー言っております。
しかし、他方で夏といえばの楽しみもあります。海、お祭り、花火…そして青春18きっぷです。
青春18きっぷとは、ざっくり言うと1日あたり2,410円でJR全線の普通列車が乗り放題になる特別な乗車券です。
その年ごとに細かい日程の違いはあるものの、おおよそ春季(3月) · 夏季 (8月)· 冬季(12月)という具合に、学生の長期休暇のタイミングに合わせて販売されています。
そのような販売時期と「青春」「18」というワードから学生しか購入できないと勘違いされることも少なくないですが、青春18きっぷは年齢に関わらず誰でも使うことができます。
私は大学生の頃に青春18きっぷと出会い、北は青森、南は鹿児島まで旅してきました。
青春18きっぷの一番の特徴は何と言ってもその安さです。前述した通りどこまで行っても1日あたり2,410円で済みます。東京駅を出発地点とした場合、本気を出せば山口県に2,410円で行くことができるのです。
旅行をすると決めた場合、交通費の存在はなかなか無視できません。旅行先での食事やイベントを満喫するために、交通費をできる限り安く抑えたいと思う方も少なくないでしょう。
そこで青春18きっぷという選択肢が生まれます。例えば、「東京 → 大阪」は新幹線を使うと片道13,870円かかりますので、青春18きっぷ(1日あたり2,410円)を使うと単純計算で片道11,460円の節約となります。
私もこの安さ、すなわちコスパの良さに惹かれて青春18きっぷに興味を持った1人です。「2,410円でどこにでも行ける!これは革命だ!」と思って青春18きっぷを嬉々として利用していました。
しかし、青春18きっぷ旅の経験を重ねてきた今では次のように思っています。
本記事ではその理由と、コスパの良い青春18きっぷ旅の組み方をお伝えしていきます。最後までお読みいただければ嬉しいです。
■本記事におけるコスパの指標「青春18時給」
青春18きっぷの利用を考えている方の多くは交通費の節約を目標にされているはず、すなわち「移動時間が延びてもいいから交通費を安く抑えたい」と思われているはずです。
青春18きっぷを使うことで「交通費を安く抑える」という目標はほぼ間違いなく達成することができます。例えば、青春18きっぷを使った結果、新幹線を使う場合に比べて交通費が1万円浮いたといったことは簡単に起こります。
しかし、同じ「交通費が1万円浮いた」でも、新幹線を使う場合に比べて移動時間が「1時間増えた」のか「10時間増えた」のかで印象がだいぶ変わってきませんか?
コスパを考える上で、交通費の差ただそれだけに注目するのはナンセンスだと私は思うのです。余計に生じることになる移動時間も考慮に入れるべきです。
さらに、このあと具体例を通して細かく見ていきますが、移動時間が増えていくごとに「宿泊費」や「食費」が嵩んでいきます。
普通列車の1日の運行時間をざっくり5時〜0時(19時間)とすると、片道9時間30分以上かかる旅は自動的に宿泊を伴うことになります。新幹線であれば日帰りで済ませることもできた旅が、青春18きっぷを選択すると宿泊旅になってしまうことがあるのです。
何も考えないでいると、「旅費を抑える」ことを目標に青春18きっぷを使ったはずが「新幹線を使った方がコスパが良かった」という結果になりかねません。
以上のように考えて、コスパを語る上での指標として本記事では以下のように「青春18時給」というものを定義します。
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}
$$
分子の値は、青春18きっぷを使うことで浮くことになる総額です。つまり、「青春18時給」とは、青春18きっぷを使うことで余計にかかる移動1時間あたりいくら得をするかを表す指標です。
普通列車に乗っている間に発生する時給と言うこともできると思うので、「青春18時給」と名付けました。
■「青春18きっぷ」と「新幹線」とで比較
それではいよいよ具体的な旅を考えて行きます。以下の3つの条件のもとで、青春18きっぷを使う場合と新幹線を利用する場合とを比較していきます。
なお、ここから登場するほぼすべての数字は四捨五入などを適用したおおよその値ですが、いちいち「約」とつけると煩わしいと思うので「約」はすべて割愛します。
また、普通列車と新幹線の時刻表は平日のもの、新幹線の運賃は自由席のものを採用していきます。
◆「東京→大阪」日帰り(始発出発、終電帰宅)
(1)青春18きっぷ
(2)新幹線
●まとめ
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}=\frac{25330}{12.5}≒2000
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基準がないのでこの値が高いのか低いのかはまだわかりませんが、現地滞在時間が1時間ではとてもじゃないですが旅行とは呼べません。
「大阪に行ったという実績が欲しい」「大阪にしか売っていないお土産がどうしても欲しい」「大阪のたこ焼きを食べたくて仕方がない」などの場合はよいかもしれませんが、旅として楽しみたいのであれば別の計画を練る必要があります。
そこで、次は「大阪での散策時間を12時間確保する」という条件のもとで比較していきます。
◆「東京→大阪」大阪での散策時間を12時間確保
(1)青春18きっぷ
宿泊費や食費はクオリティ次第でもちろん大きく変動しますが、本記事では1泊5,000円、1食1,500円で考えていきます。
(2)新幹線
厳密には「大阪を散策」する際に使ったJR普通列車の分だけ青春18きっぷ旅に比べて余計に費用が発生しますが、話がややこしくなりすぎるのでその費用は無視できるものとします。
●まとめ
この比較を見てあなた様はどう考えるでしょうか。
どちらも筋の通っている考え方です。青春18時給を算出すると、
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}=\frac{13420}{12.5}≒1100
$$
となりますから、要は1時間と1,100円のどちらに重きを置くかという価値観の問題に帰着します。
あくまでコスパという観点からですが、例えばあなた様が現在学生でアルバイトの時給が1,000円(<1,100円)ということであれば青春18きっぷを使った方が"得"という判断ができます。
他方、アルバイトの時給が1,200円(>1,100円)で、いくらでも自由にシフトを入れられてかつ働くのも特段苦ではないというのであれば新幹線の方が"得"という考えに至るかもしれません。
さて、ここまで「日帰り」「大阪での散策時間を12時間確保」という条件のもとで青春18きっぷのコスパを考えてきました。
大阪での散策時間を12時間から例えば24時間に変えてもコスパ的には上と同じ考え方になります。
青春18時給の定義を再掲すると、
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}
$$
となっていますが、散策時間を増やしたところで「交通費の差」と「移動時間の差」はもちろん変化しません。残るパラメータの「宿泊費」と「食費」についても、増やした散策時間の分、青春18きっぷプランと新幹線プランで同じように宿泊費と食費が増えるだけなので結局差額は変わらないです。
つまり、残る議論は、目的地までの距離を変えた場合にどうなるかということです。東京を出発地点として大阪よりもっと西の方まで足を伸ばす場合を考えてみます。
◆「東京 → 広島」広島での散策時間を12時間確保
(1)青春18きっぷ
(2)新幹線
広島での散策時間を12時間確保するためにはどうしても宿泊を伴うので一例として上のような行程にしていますが、1日目の時点でほぼ12時間観光できるので2日目のもっと早い時間に帰ることもできます。
●まとめ
青春18きっぷを使う立場から考えると「移動をプラス23時間頑張ることで22,440円が浮くから青春18きっぷを使う」ということになります。
すなわち、
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}=\frac{22440}{23}≒950
$$
ということです。
「東京→大阪」の旅行の場合は青春18時給が1,100円でしたから、より長い距離を移動する「東京→広島」への青春18きっぷ旅は相対的にコスパが悪くなったということができます。
「東京→大阪」と「東京→広島」との比較から、現地での散策時間を同じように確保するという条件下において
といえそうです。
この推察に関しての補足です。数字や細かい話が苦手な方は次章まで飛んでいただいて全く問題ありません。
青春18時給の定義式からも実は上の推察は一般化できます。
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}
$$
移動距離が増えると、「交通費の差」「宿泊費の差」「食費の差」「移動時間の差」がすべて大きくなっていきます。定義式から、「交通費の差」が大きくなると青春18時給は上がりますが、「宿泊費の差」「食費の差」「移動時間の差」が大きくなると青春18時給は下がります。
つまり、青春18時給が上がるか下がるかというのは、「交通費の差の増加率」と「宿泊費の差・食費の差・移動時間の差の増加率」のどちらが強いかという話に帰着しますが、これは後者の方が強いのです。
具体例をいくつか列挙するとわかります。簡単のため、「交通費の差の増加率」と「移動時間の差の増加率」とで検討します。どちらの影響の方が大きいのかを決定するために「交通費の差÷移動時間の差」を考えます。
以下、すべて東京駅発としています。
移動距離が長くなるほど「交通費の差÷移動時間の差」が減少していくことが確認できます。すなわち、移動距離が長くなるほど、移動時間の差の増加率の方が交通費の差のそれよりも強くなっていきます。
$$
青春18時給=\frac{交通費の差ー宿泊費の差ー食費の差}{移動時間の差}
$$
つまり、上の定義式において分母が大きくなっていくので、青春18時給は下がっていきます。
実際にはここからさらに宿泊費と食費の差も発生するので、移動距離が長くなるほど「青春18時給」が下がっていくと言い切ってよいでしょう。
■青春18きっぷを使う場合に押さえておきたい大事なポイント
ここまでの議論から導かれる、コスパという観点で青春18きっぷを考えるときに押さえておきたい大事なポイントは次の2点です。
もちろん、旅先での宿泊や食事の回数を多めにして楽しみたいのであれば特に(1)の事実はむしろメリットになり得ますが、青春18きっぷの「どこまで行っても1日2,410円」という性質を直ちに「じゃあなるべく遠くに行った方がコスパが良い」と解釈するのは早計であるということは押さえておいてください。
■コスパの良い青春18きっぷ旅
以上の議論を踏まえて、コスパの良い青春18きっぷ旅の組み方をご紹介していきます。
(1)日帰り
コスパという観点から考えたとき、青春18きっぷが新幹線に対して明確に勝るシチュエーションは、ずばり日帰り旅行です。
青春18きっぷを使う際、遠くを目指せば目指すほどコスパが悪くなっていくのはすでにお伝えした通りです。比較的近場を目指す宿泊旅も悪くはないですが、青春18きっぷの利点を活かし切るなら日帰り旅行に尽きます。
日帰りであれば交通費の節約が最大化されるからです。
新幹線を使う場合、日帰りだろうと宿泊旅だろうと行きと帰りで「片道料金×2」の交通費が発生しますが、青春18きっぷは1日あたり2,410円という設定なので日帰りであれば往復交通費が2,410円で済みます。
宿泊をする、すなわち行きと帰りで日が分かれると青春18きっぷ旅の交通費が嵩んでいくので、青春18きっぷを使うのであれば基本的には日帰りがコスパ最強です。
以下、東京駅出発としていくつか具体例を考えていきます。
移動距離を長くするにつれて「交通費の差÷移動時間の差」が小さくなっている、すなわちコスパが悪くなっていますので、近場への日帰り旅は実はコスパ良しです。
ただし、あまりに近すぎると今度は「青春18きっぷを使うのではなく普通運賃を払って移動すればよい」となってしまうのには注意です。
例えば、「東京→茅ヶ崎」は往復の普通運賃が1,980円ですから2,410円の青春18きっぷを使って行く意味は一切ありません。
「東京→小田原」の往復普通運賃が3,036円ですので、東京から西の方向に青春18きっぷ旅をするのであれば小田原あたりが1つの目安になります。
こういう話になってくると、青春18きっぷを使った日帰り旅行を考えるとき、最低どれくらいの距離を移動すればよいのかが気になってくるかもしれません。
しかし、JRの普通運賃の算出方法は少し複雑である上、地域によって変わってくることもあるので、「普通運賃2,410円に相当するのは〇〇km移動したとき!」というように明確な基準を示すことは難しいです。
そこで大雑把な基準だけお伝えしておくと、1日の移動距離が140km(移動時間にすると3時間)を超えると青春18きっぷの元は取れます。
つまり、日帰りの場合は片道70kmが1つの目安になります。下のようなサイトを使って、出発地点を中心に半径70kmの円を描いてみるとわかりやすいですね。
https://www.cloudremix.net/Map-Circle/
例えば東京駅が出発地点であれば、東京駅からおおよそ70kmの距離に位置している都市の一例として神奈川県の小田原、埼玉県の秩父、茨城県の霞ヶ浦、千葉県の香取などが挙げられます。
「青春18きっぷを使った最も手軽な日帰り旅行」を考えるのであればこの辺が行き先の候補になるということです。
もちろん、「早起きを頑張れる」「移動時間が多くなっても全然平気」ということであればもっと遠いところまで行ってもよいですね。
しかし、青春18きっぷを使った旅行を検討されている方の中には、日帰りではなく宿泊旅をしたいという方もたくさんいらっしゃるでしょう。
青春18きっぷは5枚1セットの販売ですので、1人旅でしたら5日分満喫することができます。「そのすべてを日帰りで済ます」というのは何だか味気ないかもしれないので、宿泊旅をする際の考え方を伝授してまいります。
(2)目的地を複数設定する
青春18きっぷが新幹線に勝るシチュエーションとして、「交通費が日単位で発生すること」を理由に日帰り旅をご紹介しました。
この「交通費が日単位であること」のメリットは宿泊旅でも活かすことができます。同日内であれば途中下車をいくらしても交通費が変わらないという点に着目します。
例えば、「東京→名古屋→新大阪→浜松→東京」という旅を考えます。
新幹線を使う場合の交通費は合計32,980円となり、「東京→新大阪→東京」の場合の27,740円に比べて5,240円高くつきます。当たり前の話ですが、新幹線を使う場合は降りる駅が増えるごとに費用が上がっていきます。
しかし、青春18きっぷを使って旅する場合、「東京→名古屋→新大阪→浜松→東京」も「東京→新大阪→東京」も総移動時間としては18時間で同じですから、例えば1日の移動時間を9時間とするのであれば、交通費は2日分の4,820円で変わりません。
具体的には次のようなスケジュールが考えられます。
基本的に、目的地の数が多ければ多いほど青春18きっぷのコスパは良くなっていきます。たくさんの場所を巡る旅をしてみたいのであれば青春18きっぷの利用は圧倒的におすすめです。
本記事はただひたすらコスパという観点で綴ってきましたが、上の話を踏まえて「目的地の多い旅」をしてみたいと思った方に向けて、コスパから少し離れて「楽しい青春18きっぷ旅」の仕方をご提案します。
私の旅路の中で特に思い出深かったのは「千葉→名古屋→京都→大阪→香川→徳島→高知→愛媛→広島→福岡→千葉」という行程です。
「千葉→福岡」を5日間かけて、つまり青春18きっぷを5枚使って移動し、最後の「福岡→千葉」は飛行機で帰ってきました。
このように、同じ方向に5日間かけて青春18きっぷで突き進み、長距離移動を強いられる最後の帰り道だけ飛行機や新幹線を利用するプランも楽しいです。
上の旅ですが、実は出発前には具体的に行き先を決めておらず、「西の方に行ってみよう」とだけ考えて出発しています。ホテルの予約はすべて宿泊当日にしていました。
新幹線旅の場合、乗車前に目的地をしっかり決める必要がありますが、青春18きっぷ旅では必ずしもその必要はありません。青春18きっぷ旅はとにかく移動時間が長くなるので移動中にプランを組むことも十分に可能です。
「地名を聞いたことはなかったけど、街並みが綺麗で気になるから今日はここに泊まろう」なんてことができるのも青春18きっぷ旅の醍醐味です。ぜひお試しください。
(3)帰省
コスパという観点で青春18きっぷを考えるときに押さえておきたい大事なポイントは、ここまで見てきたように
ということです。
別の言い方をすると「宿泊費と食費の問題さえクリアできるのであれば長距離移動における青春18きっぷのコスパの良さは際立つ」ということですから、青春18きっぷの最も有効な使い道の1つは帰省です。帰省するならもはや青春18きっぷ一択といってもよいくらいです。
■旅先を決めるのに迷ったら…
「青春18きっぷ旅に興味はあるけど具体的な行き先の候補が見当たらない」という場合は旅雑誌を読んでみるのもよいですね。青春18きっぷ旅に特化している2冊をご紹介しておきます。
2024年8月6日時点で、上記書籍は初月無料のサブスクKindleUnlimitedで読むことができます。
KindleUnlimitedについて詳しくは次の記事にまとめています。
■まとめ
軽い気持ちで書き始めた記事ですが、気がつけば1万字を超える大ボリュームになっていました…楽しい執筆でした。
本記事をご参考に青春18きっぷ旅を楽しんでいただければ嬉しいです!それでは、良い旅を!
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