他人のパンツを履いたって、悪気があるわけじゃないー『認知症世界の歩き方』を読んで気づいたこと
認知症の祖父
私には認知症の祖父がいます。
23歳で実家を出るまでの間は生まれてからほとんど同じ屋根の下暮らしてきました。
祖父が認知症だと発覚したのは私が20歳、祖父は82歳の時でした。
ある朝私の母が祖父の異変に気付き、すぐに病院へ。
脳梗塞でした。その前から少し症状は出ていたものの、脳梗塞をきっかけに認知症の症状が進み、手帳をもらうこととなったのです。
祖父は現在91歳。はたからみると、とても元気で認知症を患っていることはわかりません。
普段は穏やかなものの、家ではついカッとなって怒ってしまったり、ほぼ全ての世話をしてくれている私の母に「出て行ってください!」と怒鳴ってしまったりしたこともありました。
認知症については、ネットで調べたり、テレビを見たり、ワーカーさんにお話を聞いてなんとなくはわかっているつもりでしたが、本人の口から「どんな感じ」「どんな状況」というのを聞いたことはありません。
今回、 #読書の秋2021 の中でも社内企画で読書感想文を書く機会をもらって、課題図書の中に「認知症世界の歩き方」を見つけました。
「あの時の祖父の行動、どんなことが祖父の中で起きていたのだろう?」そんな疑問が解決できたり、祖母や母、父に私の口から説明できるようになれたらと思い、読書感想文として書き記します。
不動産屋さんが大嫌いな祖父
元々とても堅実、優しいけどお堅い心配性なおじいちゃんでした。
私の実家の土地を購入し、初めに家を建てたのはおじいちゃんでした。それは私の生まれるずっと前。土地を購入し、家も建て、暮らし始めてやっと落ち着いてきて1週間…。
「誰の土地に家建ててんだ!!」と突然怒鳴り込んできた人が。
その頃の土地の売買などは結構ふんわりしていたらしく、なんとおじいちゃんは不動産会社(詐欺師)に騙されてしまったようなのです。
その後、その土地を所有すると主張する人と裁判となり、結局土地・家ともに死守できたものの、莫大なお金もかかり苦労もして、とても大変だった…という話は以前から耳タコのできるくらい聞いていました。
認知症になってからの祖父は少し違います。たまたま読んでいる新聞に不動産会社の広告が載っているのを見かけると突然怒り顔になり「不動産会社はだめだ!」「信用したら危ない!!」と怒鳴り始めます。
また、「引越し」などのワードにも過剰に反応し、ある種の拒否反応のようなものを示します。
少し内容は異なるかもしれませんが、「祖父の不動産の話」は祖父の記憶の中できっと正しいと思うことを言っています。
ある種トラウマのような形で怒ってはいるものの、それはきっと私たち家族に同じような苦労をしてほしくない!という本来の優しいおじいちゃんの気持ちが表れているのかも。
結構色々な心身機能障害が複合しているよう。
「そんなに怒らなくてもいいのに…。」「この不動産会社は別におじいちゃんを騙した不動産会社とは違うよ」私や家族は、おじいちゃんにこんな言葉をかけていましたが、お門違いだったようです。
本人は意図せず、「不動産」についての否定的な解釈、怒りっぽくなってしまうといった状況のようで、「怒ってしまうのも仕方ないね」が正解…なのかな?
学ぶことはできたものの、正解はやはりわからない。むずかしい。。
でもやっぱり、おじいちゃんの優しい気持ちもきっと込められているんだと考えると、なんだか少しほっこりします。
パンツを履き違える祖父
去年、父母と祖父母4人で温泉旅行に行った時のこと。
おじいちゃんはお風呂が好きで、かなりの長風呂です。父と一緒に温泉に入っていたものの、父は早めにあがり、部屋に戻っていました。
以前同じ旅館で、父が先に部屋に戻ってしまったことでおじいちゃんは戻るべき部屋がわからなくなり、「誰かいませんか〜!」と大声を出して旅館が大騒ぎになってしまった事件がありました。
そのため、父も一応気にかけており、自分が出てから30分後に一度様子を見に大浴場へ…。するとおじいちゃんはちょうどあがったところのようで、父の顔を見て少し安心した表情。
しかし…履いているパンツが明らかにサイズ違いの、小さーーーなブリーフ。。。(笑)
なんと、違うカゴにあった、違うお客さん(小学生の男の子)のパンツを履いてしまっていたのです!!!
父がびっくりして「なにやってるの!」と大声を出してしまったので、おじいちゃんもびっくりして怒りはじめます。
「誰がこんなところにおいたんだ!」
「おいてあるものを履いただけだ!!」
私は翌日母からの電話で笑い話として聞いた話でしたが、おじいちゃんは正しいと思ったことを怒られて納得がいかなかったんだろうなあ。
「認知症世界の歩き方」story2ホワイトアウト渓谷は、上記のように始まります。認知症の症状がない私でも「たしかに〜」と思える話ばかり。
どのstoryも、認知症ではない私たちの目線でも症状がわかるように、「あの経験」が少し重くなっている状態なんだなと想像がしやすいように書かれています。
おじいちゃんも、棚に閉まってしまった自分の服や下着はないものとなっていて、目の前にある棚=自分の服があるに違いないと考えてしまったのかな。
たしかに、見えないものはわからない。それに、認知症の症状には「形や大きさを正しく認識できない」というものもあるみたいだから、小さくてもまさか小学生のパンツを履いているだなんて考えもしなかったのでは…!
「認知症世界の歩き方」によると、こちらも色々な心身機能障害が起きての現象でした。
祖父や認知症の方も生きやすい世の中になっていくために
祖父の認知症は進行が遅く、発症した頃も今もそこまで症状の内容が変わっていません。
実家には「ドアを閉める」「ここを押す」などたくさんの張り紙がありますが、それも「周りの環境」を変えることで困りごとを解決するアプローチの一つだなと感じます。
「認知症世界の歩き方」には、一般の私たちでもわかりやすい、誰もが「あ〜それならある、わかる」と思える日常の出来事から認知症が想起できるように書かれています。
私のように家族に認知症のいる方はもちろん、家族に認知症の方がいなくとも、自分自身何か違和感をもった時の予防の意味でも読んでいてためになると感じました。
私にも、誰にでも起こり得る「認知症」。症状も人それぞれですが、少しでも理解することで生きやすい環境は作っていくことができるということが実感できる本でした。
さっそく家族にも読んでもらいます。
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冒頭にも書きましたが、今回「 #読書の秋2021 」をきっかけにこちらの本を読ませていただきました。この企画をnote社内でも盛り上げようと、有志のメンバーで参加者を募り、2人組になって、感想文を読み合い、公開。
私は、ディレクターの平野さんとペアでした!
ディレクターさんとペアだなんて、わたし、なんて贅沢なのかしら!と興奮しながら下書きをして、さすがプロならではの視点でアドバイスをいただき、温かな感想もいただいた上で、公開に至りました。
(アドバイスをいただく前にはこのnoteのタイトルは「認知症のおじいちゃん〜『認知症世界の歩き方』を読んで〜」という稚拙なものでした…平野さんの力すごい…ありがたや…)
平野さんは、身近に認知症の方はいらっしゃらないものの元々こちらの本に興味があって、今回をきっかけに読破されたそう。
平野さんが書かれているように、たしかに身近に認知症の方がいない方でも『認知症世界の歩き方』は楽しみながら理解を深めることのできる作品です。
平野さんの感想文はこちらから。
小学生の頃以来の読書感想文でしたが、書いたものに対して丁寧にフィードバックをいただけたことがすごく嬉しく、フィードバックタイムはとても楽しく、あまり好きではなかった読書感想文への想いが「楽しいもの」に変わりました。
いい機会をいただき、企画してくださったディレクターの並木さんに大感謝です!平野さんも改めてありがとうございました!!
「読書の秋」企画は、11月30日(火) まで開催中。
ビジネス書から絵本まで、出版社さんが幅広い書籍をご紹介してくれているので、この機会に読書感想文を書いてみてはいかがでしょうか?
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