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工事監理の大切さ

東京都八王子市で4月に個人が所有するアパートの外階段の防腐処理されていない木製の踊り場が崩落して住民の58歳の女性が亡くなられた痛ましい事故がありました。この事故のニュースを受けて建築士の責任について考えてみました。

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アパートは横浜の建築事務所が設計、2012年民間の指定確認検査機関で建築確認済証を発行して現在破産手続き中の工務店が施工。警視庁は業務上過失致死容疑で捜査しているそうだ。

当初の設計では、外階段は鉄製の直線階段で踊り場はなかったが、直線だと傾斜がきつかったためかその後、踊り場のある折り返し階段に変更され、踊り場に木材が使用されたようだ。

通常建築確認申請が出された後には設計の変更があった場合には検査機関への設計変更届の提出が義務付けられているが、それが出されておらず、仕様書には、外階段に木材を使う場合は同法施行令で義務づけられている防腐処理を行うよう明記されていたが、実際には防腐処理は行われず、木材が雨水で腐食した。

これ以上の詳しい情報は無いのであくまで想像だが、事故ので原因はいわゆる手抜き工事。防腐処理の費用なんて全体の工事費用から見るとしれているし、防腐処理しなければ腐朽指摘事故を起こす可能性があったことは業界ので人間なら誰でもわかっていたはず。木の種類は情報が無いから不明ですが、水には強いヒノキなどを使ったとも思え無いので確信犯では無いのかと疑ってしまう。

そして、建築士の視点から見ると構造的なシステムの欠陥が見えてくる気がする。つまり建築士は工務店の下請けであり、建築主との打ち合わせや建築確認を取るための代書屋さん。工事が始まれば係ることが無くなるのだ。

係われ無くなる原因としては、お金の問題も大きいと思う。下請けの場合工事監理の費用はほとんど出ない。

また発注者は建築主ではなく工務店なので、設計士がうるさく設計図書の通りに施工しているか確認することを嫌がる傾向がある気がする。見積もりは設計図書の内容では出しているが、施工時に品質を落とせばそのまま利益は増えるし、あるいはもっと悪質なのは設計図書の仕様で見積もりすると建築主の予算をオーバーするので、最初から手を抜くつもりで考えている場合も残念ながら無いとは言えない。何故なら建築主は素人だからわからないだろうという気持ちなのかもしれない。

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安全に関する部分は特に品質が守られていなければ手直しが必要だが、下請けの設計士の場合は現場に行かない(いけない)、あるいは指摘そのものが弱かったり、指摘しても無視されることもでてくる気がする。 煙たがられても現場でちゃんと監理すればと批判されそうだが、煙たがられたら仕事が無くなるし、そもそもそれだけの収入が無いのだから現場に行けば行くほど赤字になってしまう。時間的拘束のみならず、ガソリン代、駐車料金など1回行けばいくらぐらい…とも考えてしまうぐらい微々たるもののようで、それでもお付き合いを続ける建築士が多いのは金額は安いが続けて仕事があるという、大手の戦略に組み込まれてしまうと抜け出すのは困難なのだと思う。

設計変更は通常、建築士が行い、建築主が検査機関に届け出るが、今回の事故の設計変更について設計した建築士は設計変更届が提出されなかった理由は分からないと答えているようなので、工事監理には携わっていなかったよう。無論設計者は工事監理までするよう法律でも求められてはいるが、見えてこないお金の問題もあったりする。

そもそも外部に使う木材では、しかも階段の踊り場で防腐処理していない木材を使うという行為に工務店も大工さんにも呆れるが、現場に建築主の代わりに目を光らせる建築士が不在だったのも致命的、また最後の砦とも言うべき確認検査機関も完了検査では手抜きを見抜けなかったのかと思うと腹立たしい。

解決策は中々難しいけれど、下請け(この場合、工務店が仕事を持って来る)場合でも工事と設計を分けて、設計料は直接建築主から頂くようにして、建築主も工事監理の重要性を理解して、設計料と工事監理とは別物だと知って頂き工事監理の費用も予算を確保して頂きたいと思う。

人はミスをする。建築士もミスをするし、大工さんもミスをする。お互いのミスを事前に避けるために、どちらが上とか、どちらが偉いとかでは無く、フラットでも信頼できる関係を作らないと建築主からの信頼を得ることはできないと思う。

朝日新聞ニュース https://www.asahi.com/articles/DA3S14885534.html?iref=pc_photo_gallery_breadcrumb

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主宰 川上幸生

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1967年大阪生まれ。阪神淡路大震災を経験、復興活動後バイクのツーリングで立寄った愛媛県松山市へ移住。資産価値の落ちない街並みガーデンビレッジ北川原を始め南欧風住宅ヴィンテージホームブランドの住宅建設、伝統的な日本の住まい古民家の保存活動のための資格制度創設や修復のための基準作りや建物コンディションの調査と再生などを全国で活動している。また消費者が自分に必要とする住まいを選択できる知識の習得を目指して住教育の推進。また最近は茶室の設計なども手がける。

一般社団法人住まい教育推進協会 会長
愛媛インテリアコーディネーター協会 相談役

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