歩道の銅像
往来で両足が同時に突然攣って歩けなくなるという、人生初の経験をした。
先月、タスマニア島のホバートに滞在した時のこと。
交差点を渡ってすぐの歩道で、私はまるで銅像のよう。
この時手ぶらやった。なのでいとも簡単に一人で銅像になれた。
日曜日の昼下がり、町のど真ん中やのに人通りがほとんどない。
この週、タスマニア島は記録的な猛暑。
その影響で山火事があちこちで発生して、エライことになってた。
私達が滞在したホバートも、周囲の山火事の煙の臭いが立ち込めてね。
消防車と救急車が頻繁に行ったり来たり。
そんな大変な時に、とても親切な救急車の隊員に私は胸を打たれた。
救急車が交差点で信号待ちの時、歩道で突っ立ったまま動けなくなっている私に車から声かけてくれはったんです。
「大丈夫ですか?」って。
私、よっぽど様子がおかしかったんやと思う。
「両足が攣って今ちょっと歩けないんです。」とは恥ずかしくて言えなかった。
なので「大丈夫です。ありがとうございます。」と答えたが、実は大丈夫じゃない。
信号が変わって、救急車が去った後
何分くらいそのまま歩道で銅像を演じたのか、よく覚えてないなあ。
まだちょっと攣ったまんまの両足で歩き始めた。
しかし・・・
ホテルまでほんの200メートルそこらの距離が、この時は2キロくらいに思えた。
亀のようにゆっくりどころか、ナメクジより遅かったやろう、私。
ホバートはシドニーに次いで古い町で、沢山の歴史的な美しい建物があちこちに残る素敵な場所。
普段は空気が澄んで、ホバートのシンボル的存在のウエリントン山も今回は山火事の煙に包まれて見えたり見えなかったり。
タスマニア島を初めて訪れたのは、もう20年近く前。
父と妹の家族と一緒に車で1週間ほどかけて旅行した。
美しい自然が最大の魅力であることは言うまでもないが、タスマニアで会う人はとにかく親切で優しい。
そこに父は大いに惹かれて、その後再度父の希望により父と私はタスマニアを旅した。
今年で父は90歳になる。
もう父がオーストラリアに来ることはない。
しかし、タスマニアには父との楽しい旅行の思い出が沢山ある。
今回の親切な救急車の隊員のことも、私は忘れないやろう。
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