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「Copy〜私はあなたで、あなたは私」著・バジル 読書感想文

この小説は、一話分の長さ及び内容が生活のスキマに程よくはまるスマホで読むのに適した作品である。短い時間できちんとドキドキさせてくれる良作だと言えるだろう。また、間違った謙虚さで自らを縛り付けている人を解放してくれる小説でもあると思う。読んでみることで、自分を締めつけている鎖を砕いてみてはどうだろうか。

この小説の主人公である夏美は、家庭やパート先にて心がそがれる日々を送っている。ある日、自分によく似た美里という女性が夏美の前に現れる。夏美が出来なかったりやりたくなかったりすることを代わりにこなしていく美里。余裕の出来た夏美は、久しぶりに学生時代の友人たちと会う。そこでかつての恋人と再会し、彼と結婚していた場合の人生に想いを募らせてしまうのだった。

この小説に出てくる男性に共通するところがある。性の標的として扱うことが夏美にとっていいことだと思っている点だ。

夫は貪欲に絡み、パート先の上司は隙あらばその肩に触れ、元恋人は当たり前のように手を握る。

それがどれだけ夏美を疲弊させているのか、まったく想像が及ばない。

美里との出会いにより、夏美はそれまでの生き方を振り返り、改めて自分と向き合う。

自分の生き方を決めるのは、勝手に踏み込んでくる異性や物言わず傷つけてくる同性ではない。

相手にとって都合のいい人であろうとする自らが気づかぬうちに作った複製でもない。

自分自身以外にいないのだ。それがわかっていても出来ない人がほとんどという現実が切ない。

この世で自分の砦を守るためには、強くしなやかであらねばならない。

ただ、できればそのような張りつめた精神を保たなくても、多くの人が肩の力を抜いて生きられる世の中であってほしい。

最後に夏美が子供を諭しながらこれからの生き方を決意する姿を読んでそう思った。



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