エッセイ 「寄る年波には平泳ぎ」群ようこ著 読書感想文

群ようこさんのエッセイはどれを読んでも面白い。
面白いというか、品質が良い。
ただ、今回は出だしがやや怒りんぼ気味であった。
東日本大震災後に書かれたようで、不安がいつの間にか群ようこさんの気持ちも蝕んでしまったのか、このままこの感じで最後までいくの?と心配になったが、途中からいつもの調子に戻ったので安心した。

いつもの調子といっても、エッセイの常連登場人物で群ようこさんの財産を使いまくるあの親族の悪態ぶりが今回もハッキリ書かれているということなのだが。
群ようこさんのお金で建てられた実家の鍵をお金を出した本人が持つことを許されないなんてね…。
お金って怖いなあとつくづく思う。

そんな漬物石ばりの重い悩みを背負う群ようこさんの心を和らげるのは可愛い猫たち。
群ようこさんの猫への眼差しはどこまでも温かく愛情深い。

また、アプリの発達で人間が自分でものを考えなくなることを危惧したり、世間が女性の社会進出を期待するもそれに反して若い世代のなかで専業主婦願望が増えている現実を憂えたりと社会の変化に即した群ようこさんならではの考察もしっかり書かれていた。

ほかにも、群ようこさんに嫉妬する人々から送られてきたというおどろおどろしい手紙の内容が書かれており読んでいて気味が悪くなった。
確か向田邦子さんも直木賞を取った時に嫉妬のイタズラ電話が凄かったとエッセイに書いていたっけ。
嫉妬する暇があれば努力したり挑戦したりすればいいのに。
そんなふうに思うのは私が常に前のめりで挑戦的な人間だからかもしれないけれど。
あとがきには、群ようこさんご本人による近況報告があり、猫との生活を楽しんでいる様子が読み取れた。
これからも質のいいエッセイを書かれることを期待している。



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