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妄想日記⑮もしも私がおじさまだったら。

今日も朝も早くから小夜は出かけて行った。
行き先はたぶん、図書館だろう。
その姿を俺は窓際に立ち、ホットワインの白をすすりながら見ていた。
白いダッフルコートの上でポニーテールが揺れている。
ふいに小夜は振り返る。
俺に気づくとお愛想程度に微笑んで手を振った。
もちろんそれに応えて手を振り返す。
娘を学校に送り出していた頃を思い出した。

正直言うと、初めて会った時から小夜に下心を抱いていた。
二十歳の人妻。
清楚で可憐。
大好物だ。
何気に手をつないでみたりしたけど、彼女の中心は読み物であり、そこからぶれることはほぼない。
この世界へ来てさらにその軸は強くなっているのではないか。
この間は谷崎の本など持っているので、脱線することに興味があるのかと思ったがそうでもないようだった。

「学生時代の友達はだいたい太宰が好きなんですけど、私はあんまりだったんですよ。軟弱に見えて。谷崎は何だかどっしりとして空気を読まない感じがいいですね。まあでも特に谷崎の作品が好きだというわけでもないんですけど。とにかくまだ読んだことのない本をたくさん読みたいんですよね」
先日の図書館の帰りにこんなことを小夜は言った。
本の話になると、彼女は饒舌になる。
「好きな作家は?」
「そうですねー。学生時代は川端康成ですね。川端康成の少女小説に夢中になりました。みんなは吉屋信子がいいって言ってましたけど」
「自分で小説を書いたりしないの?」
「憧れます!それは!」
「でも、書いたことは無い」
「はい」
「コンビニに寄ろう。原稿用紙とノートを買ってあげる。何か書いてみたら?」
「ありがとうございます!」
小夜のバッグの中には昨日俺が買い与えた筆記用具が入っている事だろう。
何を書くのか楽しみだ。

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