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小説「ちとせ」著・高野知宙 読書感想文

例えるなら、淡い色の金平糖がたくさんつまった箱。
金平糖の色は一粒一粒違うが味わいは総じて甘い。
それでいて金平糖ならではの棘々が絶えず程よい痛みを与えてくる。
この本の主人公ちとせはそんな女の子。

明治初期、14歳のちとせは丹後から京の町へとやってくる。
疱瘡にかかったせいで顔にあばたが出来、そのうえ近い将来は視力を失う運命にある。
元芸者・お菊の家に住みこみ、三味線の指導を受けている。
ある日、ちとせは河原で俥屋の息子藤之助と出会う。
藤之助との出会いから、ちとせの三味線弾きとしての姿勢がゆっくりと変わっていく。

時代小説であり青春文学である。その様式美を保ち、目新しいことはないのだが、それが良い。このような作品が世に出て来たことを嬉しく思う。新しいばかりが良いことではない。

ちとせの出身地が丹後というのもたまらない。
京都は町によって顔が違う。中でも丹後は静かで侘しくどこか哀しい。山を超えれば城崎になるが、私は丹後のひっそりとした雰囲気が好きだ。
ちとせが丹後の家族を恋しがる度に私も夕日ヶ浦の海や鳴き砂、丹後ちりめんに想いを寄せた。

舞台である京都市内にはあまり心を寄せなかったが、時折読みながら匂い袋のような香りが私の鼻を掠めた。ちとせと同じ年の頃に京都へ憧れていたからだと思う。

普遍的な文学であると思いつつ読み進めていたが、終盤に差し掛かった頃、うっすら涙が浮かんだ。
若い時代は短い。明治の頃ならなおさら。
時間の儚さにたゆたいながら読み終えた。




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