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恋活リハビリ④〜敵に回すと怖いオンナ登場〜

田中と毎週一回は会うようになっていた頃、ちょうど友達とランチする機会があった。

女同士の、あるある。
とりあえず「最近ど?」から始まる。

とりあえずビールって言う人、ビールに失礼だなって飲み屋でひそかに思ってました。

でも、女が久々に合うとほぼほぼ「最近ど?」がゴングです。合図なのです。狼煙なのです。

多分ね、会う約束したら、その瞬間からなんとなくアレ話そう、これ聞こうって台本が組み立てられていく。

そっから大いに脱線するし、海老で鯛が釣れたりもする。

B型、ENFP(最近覚えた)の私は昔から群れるのは苦手だけど、女同士のそのノリは嫌いじゃない。

女性は共感の生き物だと言うけど、大人になるとそれぞれ仕事やら家庭やらで集まる時間は希少。その中で「共感」があったり、あーでもないこーでもないのディスカッションで保てる自分があったりする。

男性はあまり身の上話は同性同士ではしないかもしれないけど、女性は身ぐるみ剥がす勢いで質問もするし、隠し事はバレるのだ。

あやちゃんと久々に会ったのは、おしゃれな公園にあるカフェ。

閑静な住宅地で、まわりにはペットを連れた人たちがたくさんいる。毛がファサァ〜っとした見たことない犬、熊かと思うくらいデカイ犬、足元ちょろちょろしたら踏んでしまいそうな小さい犬、ブランドの首輪をした犬、赤ちゃんかな?と思って視線を落とすと「犬かーい!」ってなるベビーカー?なんかが行交う。

私は犬が好きだ。
実家にいるときは、犬が最大6匹いた。
猫も飼っていたし、亀もいた。

だから、バカにしていっているわけではない。田舎にいると犬種は、5種類くらいしか見たことがなかったけど、東京にいると、人も犬も多いな、いろんな人種、犬種がいるなという話。

「いぇーいぇー」

あやちゃん登場。
いつも待ち合わせに遅れてくるので想定内。

遅れてくるくせに、悪びれた様子はないのはいつものことすぎて私は先にコーヒーを注文して犬を眺めていた。

あやちゃんは、ギャルである。

私より年上なのだけど、人前に出る仕事をしてるし、インスタグラムのフォロワーはえげつない。TVにもでたこともある。さすがのメンテナンス力だと思う。彼女も隠してないから「いじった」とか「入れた」とか言うし、聞いたりもする。

バチバチの派手ギャルで、背も高いし、目立つのに声もでかい。なんで、こんな静かなカフェで待ち合わせてしまったんだと、このあと100回思うことになる。

ゴング開始と共に、ロマンティック浮かれモードな私はマッチングアプリで出会った田中の話をする。

おめでとうとは言われないにしても、何かいいリアクションがあると思っていた私は、このあと取り調べに合う。

「彼、フリーなの?」
「一人暮らし?」

その時の私は全く疑っていなかった。その思考はなかった。

マッチングアプリなんだもん、出会いを求めてるフリーが登録してるのではないのか、、、

私は一歩を踏み出したことに満足して、アプリもすでに退会していた。

「彼の家には行ったことあるの?」

いつも会うのは私の家、そして会う時間はだいたい決まって3〜4時間。

前に田中に聞いたことがある。

「田中くんの家で会おうよ、今度」
「オレんちは汚くて、狭いから」

家に人呼びたくないタイプなんかなーと、そのときは深読みしなかったが、今ならばわかる。


コイツ女いるぅぅ???



あやちゃんの取り調べで、だんだん点と点が線になっていく。

これが人の話なら、わたしも取り調べができるのだが、なぜ人は人のことは気付くのに自分のことはわからないんだろう。

戦争が起きても、災害が起きても、事故や事件が起きても、どこか遠い話のような気がして、まさか自分の身に起きるとは予想もしていない。

飲んでいたコーヒーは空になり、同じく私の身体もカラカラに干からびたのか、あまりの自分のお花畑具合に放心状態になっていく。

あやちゃんの声がでかいことなど、もうどうでもいい。

本人には聞いてないし、これはまだこちらが勝手に憶測で言ってるだけだし。


来週も田中が家にやってくる。

あやちゃんにも来てほしいくらいだ。

「田中くんて、すぐ電話出るの?」
「仕事じゃなかったら出ると思う」
「今かけてみてよ」
「え。」

あやちゃんは白黒ハッキリしたいタイプで、何でも行動が早い。常に60点くらいで、だいたいまんべんなくなんとなくできるところを目指す私とは違って0か100しかない。

そうだ、こうだった。
あやちゃんこうだったわ。

好きなとこでもあり、ちょっと抑えてよと思う部分でもある。

話題をそらしたい一心で、たぷたぷすぎて飲みたくもないコーヒーをもう一杯注文することにして席を立った。

何も悪いことはしていないのに、だんだん憂鬱になるのは、あやちゃんのせいではない。

田中への電話は、かけたけど出なかったことにした。

というか、そもそも付き合っているわけでもないんだよな。

そんな話もしてないんだよな。

一番のポイントを見過ごしている。

決定打になるから、話題に出してないというのが正解かもしれない。


「私達つきあってるの?」

は、小っ恥ずかしくて聞けない。

そのあとの「付き合ってない」の返答は一番恐ろしい。


大人の恋愛はもっと違うものだと思っていたけど、中学生も高校生も大学生もやってることは、さほど変わらないのかもしれない。

この日を引金に、わたしのオンナのカンは徐々に取り戻されていくのであった。

アスリートは、1日練習を休んだら、取り返すのに1週間かかると聞いたことがある。


そら、わたしも取り返すのに時間は要するはずだ。ここからだ。

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