社会起業家のセカンドキャリアについて
大阪出張だったので、関西のNPO経営者仲間たちと飲んだ。
元ブレーンヒューマニティ(老舗NPO)代表で、現尼崎市理事の能島裕介さん。
元国際協力NGO事務局長で現在はポートフォリオワーカー(複数の仕事を兼業している働き方)の井川定一さん。
元ファザーリング・ジャパン関西代表で、今はトイボックスの代表理事をしている篠田厚志さんだ。
彼らと話していて、ここに図らずも「社会起業家のセカンドキャリア」を考えるヒントがあることに気づいた。
【そもそも前例があんまり無い、社会起業家のセカンドキャリア】
社会起業家やNPO経営者は辞めた後どうするのか。
型はほぼ何も無い、と言って良い。
かつてなら大学教授、というパターンはあった。社会課題の現場経験を結晶化し、若者たちを育成していくのは意義深い。しかし最近は少子化によるポスト削減によって、それも難しくなった。
というわけで、創業者なら、自分が立ち上げた組織に居続けることになる。辞めたら経済的に生きていけないし、生き甲斐も奪われるから。なので居続ける。死ぬまで。だがそうなると、組織は後身が育たず、経営者とともに衰えていってしまう。
ではどうすれば良いのか。今日の3人は、それぞれ独自のパターンを示唆してくれている。
【①社会起業家→行政官】
まず1つ目。尼崎市理事(自治体に理事という役職があるのを知らなかったが)の能島さんがロールモデルの、ハイクラスの行政官になるというパターン。現場のことが分かりつつ政策立案にも携わるので、社会的にはとても良いインパクトを出せるだろう。
一方でこれはなりたくてもなれるわけではなく、首長から抜擢される等の偶然に左右される部分があるので、キャリアとしてはやや難度が高そう。
【②社会起業家→ポートフォリオワーカー】
次に、井川さんのパターン。井川さんは15年間事務局長を務めた国際協力NGOを辞めた後、フルタイムのボランティアで1年半熊本や長野等で住み込みの災害支援を行い、、その後はAVPN(シンガポールに本部を置くアジア最大の社会的資金提供者ネットワーク)のマネージャーをされていたり、ソーシャルセクターのグローバルマガジンであるスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビューの副編集長、国内外の組織の調査やコンサルティング、助成審査委員等をされていたりする。全国をバンライフをしながら旅と仕事を行い、肩書きの総計は10個もあるそうだ。目標は、ソーシャルの仕事をしながら、世界を自転車で旅をすることとのこと。
こうやって、いくつも自分の興味のあるプロジェクトや仕事をパートタイムで受けていく(複業)あり方を、ポートフォリオワーカーと最近言うわけだけど、まさにそれ。
ポートフォリオワーカーの良いところは、社会の動きに合わせて毎年組み換えることで、常に最先端の分野で社会にコミットできるところ。収入もある分野の仕事の分量を増やしたり、違う分野の仕事をしたりしてポートフォリオを入れ替えることで安定する。さらには非営利系の仕事は単独だと年収水準がそこまで高くないことが多いが、組み合わせればそれなりになる可能性も出てくる。
リモートワークによって兼業のしやすさが爆発的に向上した今、かなり現実的な道だろう。
【③社会起業家→他のNPO経営者】
篠田さんのパターン。トイボックスという子ども支援系のNPOの代表の方が倒れられたことで、急遽ピンチヒッターとして経営者に。NPOの場合、次代の経営者をビジネスセクターから連れてきづらい。カルチャーやマネジメントスタイルなど、相違点が大きいからだ。そこで、もともとNPOを経営していた人に引き継いでいく、というのは一定の合理性と需要があるだろう。
とはいえカルチャーフィットやリーダーシップスタイルの相性等もあるので、事業継承には一定の難しさがあるのも現実ではあろう。とはいえ、NPOの世界でもプロ経営者が流通していくようになったら素敵だ。
【④社会起業家→政治家・首長】
今回のメンバーの中にはいなかったが、長谷川岳さん(よさこいソーラン創設者)や中川げん奈良市長(元奈良NPOセンター代表)等のケース。いちNPOでは解決できない制度的な課題を政治家の立場になって解決に尽力する、というのもある。中川さんの首長としてのリーダーシップは、NPO経営者時代に培われたのだろう。
ただ、社会起業家だからこそ様々なメディアや有識者会議に出て、政策提言の機会があったりするのも事実なので、政治家になることでむしろ政策実現力が落ちてしまうケースも考えうる。また、衆院議員の場合は、選挙に忙殺されて自分がしたいテーマになかなか力を割けないということも起きえてしまう。
【⑤社会起業家→社会起業家】
まだあまりないが、シリアル・アントレプレナーならぬ、シリアル・ソーシャルアントレプレナー、シリアル社会起業家、という路線もあるだろう。自分の団体はある程度回るようになったから、自分は次のテーマで社会起業しよう、というような。
これが増えたら良いな、と思いつつ、起業家と違って社会起業家の場合、エグジットしても金銭的な報酬がないので、次の事業資金を貯めづらい。
以上、御三方との議論の中で示唆を得たので備忘的にまとめてみた。
しかしいずれにせよ、社会起業家のセカンドキャリアのモデルケースを作っていくのは、我々の世代だ、ということだ。「その後」が輝いていたら、現役世代も希望を持つだろう。輝きは社会的評価や名声である必要は全くない。自分が笑って、自分に「いいね」を出せるかどうか、ではないだろうか。
追記
「で、お前はどうなんだ?」という質問もあろうかと思ったのでちょこっと記しておこうと思うが、あんまりオープンにするようなことでもないので、限定コンテンツで語りたい。(先日記事にしたサブスクマガジン構想については今準備中なので、今は単発販売でごめんなさい)
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