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『ブルックリン99』からわかる差別について告発する時の心構えについて

『ブルックリン99』というニューヨークを舞台にした刑事ドラマがあります。ニューヨークのブルックリン99分署の刑事達をコミカルに描いたドタバタコメディです。そのシーズン4に「moo moo」という回があります。

※以降、ネタバレしています。

ある夜、99分署のテリー巡査部長は幼い娘が「moo moo」と呼んで大事にしている牛柄のタオルを探しに出かけます。風で飛んでいってしまったからです。家の近くの路上でタオルを発見しましたが、そこで他の署の知らない警察官に呼び止められます。白人であるマルダック警官は、制服ではなく普段着を着ていた黒人であるテリー巡査部長を怪しい犯罪者だと認識したのです。レイシャルプロファイリングと呼ばれる差別行為です。テリー巡査部長は説明しようとしますが「何も喋るな!」とマルダックから脅かされてしまいます。

その晩は解放されたのですが、警察仲間から差別されたことにショックを受けたテリー巡査部長はマルダックの真意を確かめようと後日、彼とカフェでミーティングをすることにしました。マルダックはテリーに謝りました。
「すまない。君が警察だと知っていたらあんなことはしなかった」
「何だと。もし私が警察じゃなかったらあんなことをしてもいいと思っているのか?」
「そうだ。何も問題ないだろ?」
とマルダックは開き直っていました。彼は相手が黒人であるということを理由に怪しい人間だと決めつける行為自体が差別であると全く認識していなかったのです。テリーはとてもがっかりしました。

やはり納得できないテリーは警察組織に対して苦情を申し立てることにしました。しかしその苦情申し立てを99分署のホルト署長から却下されてしまうのです。ホルト署長は黒人です。ゲイの黒人警察官として若い時から同僚から数々の差別を受けてきました。
実はテリーには昇進の話があり、この苦情の件で警察組織の判断によって昇進が却下される可能性もあったのです。

テリーは、その晩勇気を出してホルト署長の家まで直談判に行きます。テリーは普段は絶対にホルト署長に逆らわない真面目な刑事です。それだけ意思が固かったのです。
いったい何故なのかとテリーは問いました。ホルトは
「私はゲイの黒人警察官としてたくさんの差別を受けてきたが、我慢して出世した。そのお陰でこうした差別のない99分署を作ることができた。君もこうした苦情を出すことによって昇進の機会を逃すな。早く出世して私のようになれ」
と言うのです。
テリーはホルト署長に言いました。
「私は子供の頃スーパーヒーローになりたかった。だから刑事になって誰かを助けたいと思った。だけど私は無力です。私は刑事でも、娘を持つ一人の市民でもない。私はあの晩、刑事でもなく一人の”危険な黒人”でした」
「私は警察バッジを出すことができるが、娘達は?彼女達はバッジを見せられない。やはりこのまま黙っているわけにはいかない」
「例え昇進の道が断たれようとも、この苦情は申し立てます。署長に断られてもです」
テリーは捲し立てました。ホルト署長は黙ってしまいました。

翌日、ホルト署長はテリー巡査部長を呼び出しました。
「テリー。苦情は提出した。私が間違っていた。私の時代は1人で差別と戦っていて、誰も味方がいなかった。私も昔は何かを変えたくて必死にもがいていた。私が君を後押ししなかったら自分を裏切ることになる」

後日、ホルトは署長室にテリーを迎えて2人きりで話をします。
ホルト「残念ながら君の昇進は警察組織によって却下された。苦情の件も関係あるだろう」
テリー「署長、これでよかったんですかね。やっぱり昇進した方が良かったかな」
ホルト「いや、我々は勝ったんだ。苦情を出したのは良かった。マルダックの考えは変わるだろう」
テリー「現実は厳しいですね」

どうでしょう。私はこのエピソードにいたく感動しました。一見、昇進を不意にしたテリーは負けたように見えます。しかし、差別に抗議するという意思を示し、少しでも警察組織を変えることに貢献したのだからこれは長い目で見れば勝ちなのです。

翻って私のことを話したいのですが、「足関おじさん」という格闘技のレフェリーや道場主や有名選手と相互フォローになりまくっている有名格闘技アカウントが差別発言を撒き散らしている時に、私は抗議して良かったと思います。

そのせいで私はネットリンチに遭って格闘技業界での居場所が狭まりました。私もテリーのように抗議する時に「そうなるだろうな」と覚悟しました。しかし差別について抗議したことに後悔していません。
更にイサミ(ISAMI)・reversal社長の差別発言も嗜めた為に所属道場を辞めざるを得なくなりました。

完全に格闘技業界から居場所は無くなりましたが、彼らの差別発言を批判したことを後悔はしていません。私のキャリアより、格闘技業界から差別を無くすことの方が大事だと考えたからです。

ホルト署長の発言で締めくくりたいと思います。

「Doing the right thing(正しいことをする)」

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