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明け方まで冷たい雨が降っていた。
コーヒーを飲みながら眺める窓の外は、まだ泣きそうな曇り空だ。
今日は仕事の日。
こんな日はいつも、傘をどうしようか迷ってしまう。

とりあえず、長い傘と折りたたみ傘の両方を用意して、電車の駅に近いパーキングまで車で向かう。
自宅から駅まで約3km。
季節がよければ自転車のほうがはやいが、どんよりとして寒い今日のような日は、つい車に乗ってしまう。
どちらの傘にするかの選択は、ちょっとの間おあずけだ。

駅に向かう車のフロントガラスに小さな雨滴がつく。
これで決まりかな。
しかし車を駐めたときには、もう雨は止んでいた。
優柔不断に区切りをつけて、長い傘を選択する。

普通電車に乗って二駅で乗換駅に着く。
こちらのホームから向かい側のホームがよく見える。
左端から、いち、にい、さんと数えてみる。
長い傘を持っている人は、21人目でやっと見つかった。

あの人はぼくの同士。
傘の刀で敵をやっつける。
ほかの人は短刀を懐に忍ばせるように、折りたたみ傘をカバンに隠しているのだろうか。
つまらない妄想をしながらも、すでに長い傘が邪魔になり始める。

乗り換え電車が到着し、傘を杖にしたぼくが乗り込む。
杖は持っているが、優先座席はやめておこう。
電車は府境を越え、20分で降車駅に着いた。
ホームから見上げた空の片隅に青い色が見えた。



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