藍の花が咲いて
愛に花が咲いて、あなたと私は出会った
あなたとの出会いは、わたしのすべて
だから、すべてをあなたに捧げて、わたしはあなたに生きる意味を見出したの
手がかかる子ほどかわいいというけれど、それはどうやら本当のようで
なにが起こっても、手を放すことはできなかった
わたしがあなたの手を引いて、あなたはわたしの手を取って
歩幅を合わせて、隣を歩いていく
あなたがわたしの手を引くようになって、歩幅は少し合わなくなった
だけどあなたはわたしの手を放しはしなかった
あなたはわたしのすべてで、わたしはあなたのすべてだと
そう思っていた、だけど
藍の花が咲いて、あなたはわたしの手をすり抜けていった
わたししか知らなかったあなたは、世界を知って、世界へ駆け出して行った
手がかかった子ほどかわいいというけれど、それはどうもかけた方の感情のようで
あなたはその咲みを、あたりまえのように世界へと投げかける
わたししか知らないあなたはもういなくって
わたしがあなたに捧げたものを、あなたはわたしに返してくれるわけでもなくて
それがどれほど、どれほどわたしを醜くさせたか
あなたがわたしの手を離れるその日、あなたはわたしに言った
「わたしはほかの人と歩いていくけれど」
「あなたはずっと、わたしの隣にいてくれた」
「あなたはどんなわたしのことも見ていてくれた」
「だから」
「いつだって、一番は、あなた」
そういって、一番の咲みをわたしに捧げて
あなたはわたしのもとを去った
それは、私のこわばった手を、醜くゆがんだ思いを
優しくほどいた
藍の花が終わりを告げる頃
もう出会うはずのないあなたの手を放し、わたしはひとり、歩き出した
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2018.11 戯曲集「世界の綻び」 集録
ロゴ : いい ことみ
文章 : 駒 優梨香
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<藍の花が咲いて>
藍染が出来るようになるまでには、相当な手間がかかります。
藍の花がたって染められるようになった日には、我が子のような気持ちになっているのではないでしょうか。
因みに、冊子にした際このページのロゴのみ手刷りで作成しましたが、手間暇かかったからか非常に愛着が持てました。