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落語(64)なるほど七夕物語

笹の葉〜サラサラ〜♬♬…7月7日は七夕です。一年に一度、天の川で織姫と彦星が再会するおめでたい日。小さい子供たちは、短冊に願い事を書いたりしていることでしょう。というわけで、今回は小学校の七夕落語会にお呼ばれした場合を想定し、子供達にもウケる落語を作ってみました。全国の小学校関係者の皆さま、面白いなと思ったら是非この作品をご自由にお使いくださいませ。

天帝「こんちはー、神さま。神さま、いらっしゃいますかー」
神様「おやおや、誰かと思えば天帝さんじゃないですか。今日はどうされましたか」
天帝「いやぁ、どうもこうもないですよ神さま。うちの織姫のことで、あっしはもう、ほとほと懲りちまって…」
神様「ええ?あの可愛らしい、一人娘の織姫さんが、どうかしましたか」
天帝「いえね、織姫のことじゃ、ついこの間も神さまに相談したばかりなんですけど、また新しい問題が発生しちゃいましてねぇ」
神様「ああ、そうですか。そりゃ、大変ですな。分かりました。では、話を聴こうじゃないですか。まあ、そこへお掛けになって下さい。今、お茶を出しますからね。…(宙にフッと息を吹きかけ)…はい、どうぞ」
天帝「わあ!こりゃあ、すげぇや。空中からいきなりお茶が出てきた。さすが、神さまだ」
神様「いやいや、何の。こんなものはちょっとした、ただの超能力ですよ」
天帝「い、いや、ただの超能力って…そんなの、誰にでも備わってるわけじゃないんですよ」
神様「まあ、これくらいは出来ないとねぇ。なんたって、あたしは“神さま“なんですから。ハッハッハッハッ。…で、織姫さんがどうされましたか」
天帝「ズズッ…(お茶を飲み)…いえね、まったくお恥ずかしい話なんですけれども、相変わらず仕事もしないで毎日毎日、彦星と遊んでばかりなんですよ」
神様「おや、それは困りましたなぁ。彦星さんと結婚してから、もう一年以上になりますかな?」
天帝「ええ。それでもって、十月とつき十日とおかでさっそく赤ん坊が生まれたんです」
神様「ああ、そうでしたな。それであたしの所へ、赤ん坊に名前を付けてくれと言って来たのが、半年くらい前でしたかな。えーと、あの時たしかあたしは、織姫の『織』と彦星の『彦』を取って権左衛門という名前を付けましたっけな」
天帝「いや、違うでしょう。なんで権左衛門なんですか」
神様「ありゃ?じゃあ、文左衛門でしたかな?」
天帝「違います。文左衛門じゃありません」
神様「じゃあ、チャールズ?」
天帝「違います」
神様「じゃあ、マイケル?」
天帝「違います」
神様「ああ、わかった。正恩ジョンウンだ」
天帝「全っ然、違います!なんでそこで北朝鮮みたいな名前になっちゃうんですか。だいたい、織姫の『織』と彦星の『彦』を取ったら普通は織彦でしょう。なんですか、権左衛門とか文左衛門って」
神様「ああ、織彦ね。それはいい名前だ。うん、それにしよう」
天帝「いや、『それにしよう』って。何を今さら言ってるんですか。もうあの時、神さまは立派な名前を付けてくれたじゃないですか」
神様「あれ、そうだっけ?どうも最近、物忘れが激しくてねぇ…で、何て名前付けたんだっけ?」
天帝「もう、嫌だなぁ。自分で付けた名前を忘れないで下さいよ。出来星できぼしですよ、出来星」
神様「出来星ぃ?…ぷっ、変な名前」
天帝「ちょっと、なに笑ってるんですか失礼な。自分が付けたんじゃないですか。『織姫と彦星の子供だから、星にちなんだ名前がいいだろう。でもって、せっかくだから出世するという意味のある出来星にしよう』ってんで、神さまが決めてくれたじゃないですか。もう、忘れないで下さいよ」
神様「ああ、そう言われてみれば、確かにそうだったかもしれませんなぁ。いや、これは済まない。…で、あの時の赤ん坊は、その後も元気でやっておりますかな?」
天帝「元気も何も、さっきからここ(背中)にいるじゃないですか」
神様「あっ、本当だ、いつの間に。あたしは全然気付きませんでしたよ。てっきり、リュックサックか何かだと思ってました」
天帝「もう、嫌だなぁ。こんな人の形したリュックサックがあるわけないじゃないですか。どこに『NIKE』とか『adidas』って書いてあるんですか」
神様「いやいや、さようでしたか。それはご苦労さまでした。いやあ、それにしても赤ん坊はよく眠っておりますなぁ」
天帝「いや、今はたまたまスヤスヤ眠ってますけどもね、夜中なんかもうビービー泣いちゃって、その度に起こされて子守おもりしなきゃいけないから、あっしはもう寝不足ですよ」
神様「え?寝不足って…子守おもりは、母親である織姫さんがしてるんじゃないんですか?」
天帝「それが困ったことに、織姫のやつ、ちっとも赤ん坊の面倒見ないんですよ。自分は彦星と遊んでばっかりで、育児は全部あっしがやってるんで」
神様「おや、それは困りましたな。母親が子供の面倒を見ないとは。じゃあ、お乳なんかはどうしてるんですか?…あっ!まさか、天帝さんのおっぱいを飲んでるとか?」
天帝「んなわけないでしょう。あっしの乳をいくら搾ったところで、何も出てきやしませんよ」
神様「じゃあ、どうやって?」
天帝「ですからね、彦星ってのはもともと牛飼いでしょう?だから、あれが飼ってる牛の乳をいちいち搾っちゃ、赤ん坊に飲ませてるわけですよ」
神様「はあ、さようでしたか。それはそれはご苦労さまです。で、当の織姫さんと彦星さんは毎日毎日、いったい何をして遊んでるんですか?ニンテンドースイッチですか?それとも、ユーチューブばかり観てるとか?」
天帝「いやあ、それがねぇ、あっしも二人が何をしてるのかは分からないんですよ。とにかく、もう一日じゅう部屋にこもりっきりで。で、こないだふと気が付いたら、また織姫のお腹が大きくなってました」
神様「ああ。じゃあ、寝たり起きたりしながら、ポテチ食べたりカントリーマアム食べたりしてるんでしょう。だから、お腹が出ちゃったんだ」
天帝「いやいや、そんなんじゃないですよ。そういうお腹じゃなくて、あっしが言ってるのはこっちですよ、こっち(懐妊のジェスチャー)」
神様「…ああ、こっち?(真似る)」
天帝「そう、こっち(ジェスチャー)。要するに、二人目が出来ちゃったんですよ」
神様「はあ、そらまた随分お早いことで…おめでとうございます」
天帝「おめでたかないですよ。今だって赤子これの面倒見るのに一杯一杯だってのに、これ以上増やされたんじゃ、あっしの身がもちませんで」
神様「なるほど、たしかに…」
天帝「神さま、あっしはいってぇ、この先どうすればいいでしょうかねぇ?」
神様「うーむ、これはなかなか由々しき問題ですな。…ああ、そうだ。今日はこうした問題解決にはピッタリのお客さんが来てるんだ。今、奥の座敷でもって茶を飲んでるから、ちょっと呼んでみましょう。…おーい、雷さんっ。ちょっといいかね。こっちへ来ておくれ。今ね、あなたの話を聴きたいって人が来てるんだ」
雷様「ゴロゴロゴロ…ドッカーンッ!誰じゃあっ、このワシの話を聴きたがってるのは!?ドッカーンッ!」
天帝「うわ、凄い剣幕だな…なんでこの人、こんなに怒ってるんだろ。…ちょっと神さま。いってえ、誰なんですかこの人は」
神様「ああ、この人は雷様と言ってね、つまり雷様なんだよ」
雷様「ドッカーンッ!そんなこといちいち説明しなくても解るだろ!雷様なんて子供でも知ってるぞ、ドッカーンッ!」
天帝「うわっ、また雷落とされた。ひえ〜、こりゃあ、おっかねぇや」
神様「あのねぇ、雷さん。天帝さんが、織姫さんと彦星さんのことで、あなたにひとつアドバイスをもらいたいんだってさ」
雷様「なにぃ、アドバイス?」
神様「うむ。仕事も育児もしないで毎日遊んでばかりいる二人を、どうすれば立ち直らせることが出来るかって」
雷様「なにぃ、仕事も育児もしないで、遊んでばかりぃ?…ドッカーンッ!そんなものは別れさせろ、別れさせろ!この際、問答無用!もはや情状酌量の余地なし!今すぐ引き離せ!なんなら、彦星のちんちんをハサミでちょん切って、天の川にブン投げちゃえ!ドッカーンッ!」
神様「だってさ」
天帝「いや、『だってさ』じゃないですよ。何ですか、この乱暴過ぎるアドバイスは。こんなの、全然参考にならないでしょ」
雷様「なんだとぉ?何か文句あるのか、ドッカーンッ!」
天帝「いえいえ、何でもないです何でもないです…(背中を見て)…あーあ、とうとう赤ん坊が泣き出しちゃった。…わかりました。じゃあ早速帰って、織姫と彦星に、今すぐ別れるように説得しますので。さいなら…(歩きながら)…ひえ〜、とんでもないアドバイザーに当たっちゃったなぁ。あれじゃあ、ちっとも相談にならないじゃないか。まあ、仕方がない。とりあえず雷様の言う通り、二人を別れさせてみるか…(帰宅し)…今、帰ったよー。おーい、織姫と彦星。二人に話があるんだ。ちょいと、出てきとくれないか」
織姫「あら、お父つぁん、お帰り。もう、せっかくいいところだったのに。なぁに、話って?」
天帝「うむ、とても大事な話なんだ。…ああ、ほら、彦星くんもこっちへ来なさい。いいかい、二人とも。この一年間、私はじっと我慢してきたけれども、もうさすがに限界だ。今日この日をもって、二人は夫婦関係を解消しなさい」
織姫「ええ!?お父つぁん、なんてことを!」
天帝「いいかい、彦星くん。今すぐ荷物をまとめて、牛たちと一緒にこの家を出ていきなさい」
彦星「え、牛たちと一緒に?…モォー***、お義父さん何てこと言うんですか」
天帝「さりげなく牛の真似してんじゃないよ。そんなんだから君は駄目なんだ。もっと誠意というものを見せなさい。とにかく、今すぐこの家を出ていけ」
彦星「モォー、酷いなぁ、お義父さん。わかりましたよ。じゃあ、出ていきます。…織姫、そういうわけだから、さようなら」
織姫「ちょっ、彦星さん、待って。お父つぁんの言うことなんか無視していいのよ。これからもずっとこの家で、あたしと一緒に遊んで暮らしましょ。あっ、彦星さん、待って。行かないでっ。あーあ、行っちゃった。…んもう、お父つぁんたら酷い!いきなり、何てこと言うのよ!」
天帝「あきらめなさい。お前たちは初めから夫婦には向かなかったんだ。彦星くんはまた昔のように牛飼いとして、お前ははた織りとして真面目に働きなさい」
織姫「ひどい!お父つぁんなんか大っ嫌い!もう、あたい絶対にお父つぁんとなんか一緒にお風呂に入ってあげないんだから!プンスカプン!」

 このように、織姫と彦星は毎日毎日遊んでばかりいたので、天帝によって無理やり引き離されてしまいました。さて、これで二人とも、また昔のように一生懸命働くだろう…と思いきや、それから三日経っても、一週間経っても、一ヶ月経っても、三ヶ月経っても、ちっとも働こうとしません。織姫は、彦星のことが恋しいと言って泣くばかりで、前よりも酷くなってしまいました。見かねた天帝は、再び神さまの所へ相談に行きます。

天帝「こんちはー、神さま。神さま、いらっしゃいますか」
神様「おやおや、誰かと思えば天帝さんじゃないですか。ん?相変わらず赤ん坊の子守おもりですか。えーと、たしか名前が出来物できもの…」
天帝「出来星できぼしですよっ。何ですか、出来物って」
神様「いや、いつの間にか出来ちゃったってことで」
天帝「まあ、たしかにそれはそうですけど…出来物なんて名前じゃ、なんか一生、薬と共に生きていかなきゃならないみたいじゃないですか」
神様「いや、これは済まない済まない…で、今日はまた、どうされましたか」
天帝「いえね、今日も今日とて、また織姫のことで相談があるんですよ」
神様「あらあら、また織姫さんのことですか。仕方がない。では、ひとつ話を聴こうじゃないですか。まあまあ、そこへお掛けになって下さい。今、お茶を淹れますからね…(呪文を唱える)…ウンウンチクチクウンチッチ、ウンチクウンチクウンチッチ。ウンッ…(尻の下から)…はい、どうぞ」
天帝「ちょっと、嫌だなぁ。今、めちゃめちゃウンチって言ってたじゃないですか。おまけにお尻の下から出てきたよ」
神様「いやぁ、ちょっとした“腸”能力ですよ」
天帝「うわぁ、ちょっと飲みたくないなぁ、このお茶。ズズッ…(飲んで)…あ、でも味は普通のお茶だ。さすが、神さま」
神様「まあね。で、今回はどうされました?」
天帝「いえね、前回こちらで雷様のアドバイスを受けましたでしょ?で、あのあと実際その通りにしてみたんですよ。そしたら織姫のやつ、彦星に会えないからってんで、ますます酷くなっちゃいまして」
神様「あらら、それは困りましたね」
天帝「で、ほら、今お腹の中には二人目がいますでしょ?このままじゃ、産まれてくる赤ん坊にとっても良くないなと思って。いってぇぜんてぇ、あっしらはこの先どうすりゃいいもんですかねぇ?」
神様「なるほど。それでもう、にっちもさっちも行かないというわけですな?わかりました。今日はこの問題にふさわしい回答者が来てますから、ひとつ訊いてみましょうか。今、ちょうど奥の客間で茶を飲んでますから、呼んでみましょう」
天帝「げっ、まさかまた雷様…?」
神様「おーい、GOさん。ちょっと来ておくれ。ぜひ、あんたの話を聴きたいという人が来てるんだ」
GO「(郷ひろみ調で)いらっしゃーい。どうも、GOでーす」
天帝「あのぉ…すいません神さま、この人は?」
神様「こちらさん、ロミヒー星人のGOさんだ。この人はね、男女の問題についてはとても詳しいんだ。何かきっと、役に立つアドバイスをしてくれるはずだよ」
天帝「はぁ、ロミヒー星人さんねぇ…神さまの所には本当、色んなお客さんが来るんですねぇ」
GO「さあ、何でも僕に訊いて下さい。どんな相談にもお答えしますよ。イチGO!ニーGO!サンGO!シーGO!ゴーGOーっ!」
天帝「うわ、凄いキャラだな。…あのぉ、すいませんGOさん。うちの織姫が、彦星に会えないってんですっかりやる気を無くしちゃってるんですが、一体どうすりゃいいでしょうかね」
GO「そんなの簡単ですよ。また会えばいいんです」
天帝「いや、だけどねGOさん。あの二人は会ったら会ったで、もう遊んでばかりで、ちっとも働かないんですよ」
GO「天帝さん。なにも僕は、毎日会えと言ってるんじゃないんです。一年に一度だけでいいんです」
天帝「えぇ?一年に一度?」
GO「そうです。一年に一度会えるからこそ、アーチッチーッ、アーッチー♪♪…な関係になるんです。つまり、会〜えない時間が〜、愛〜育てるのさ〜♪♪…てことなんです」
天帝「はぁ…なんか良くわかんないけど、そういうもんなんですかねぇ」
GO「そういうもんなんです。そうと決まれば、今日はえーと…七月七日ですね。なら、来年の七月七日に二人を再会させましょう。そのあとも毎年七月七日だけ、二人が会っていい日にするんです。よし、これで行きましょう。イチGO!ニーGO!サンGO!シーGO!さあ、ご一緒にぃ…」
天帝「(拳を上げ)ゴーGOー。…あ、どうもGOさん、有難うございました。じゃあ、さっそく家へ帰って織姫にそうさせますね。それじゃ、あっしはこれで失礼します…(歩きながら)…いやあ、随分と熱い人だったねぇ。ロミヒー星人のGOさんだってよ。確かに“スター”って感じだったよ。まあ、とりあえず前回の雷様よりはずっと役に立つアドバイザーだったな。よし、これで織姫も、また前みたいに、はた織りに精を出してくれるだろう…(帰宅し)…ただいまーっ。織姫ーっ、話があるから、ちょっとこっちへ来てくれーっ」
織姫「(憔悴した感じで)あら、お父つぁん、おかえり。なぁに、話って」
天帝「あのな、織姫。このままじゃお父つぁん、お前の身体が心配なんだ。だからな、また彦星と会ってもいいぞ」
織姫「えぇ!?お父つぁん、それ本当!?」
天帝「ああ。だけど、これについちゃ条件がある。今日から毎日一生懸命にはた織りと子育てを頑張れば、一年に一回、七月七日にだけ、お前たちのために天の川に橋をかけてやる。そこで、思う存分デートを楽しめばいい。どうだ、この約束を守れるか?」
織姫「うん、守る守る!あたし、今日から毎日一生懸命にはた織りと子育てを頑張るから、来年の七月七日、また彦星さんに会わせてね!ありがとう、お父つぁん!」

 さて、それからというもの織姫は毎日毎日、ガンガラガッシャン、ガンガラガッシャン、いないいないバァー、いないいないバァー、とはた織りと子育てを一生懸命がんばりました。やがて一年が経ち、いよいよ彦星に会える七月七日がやってきました。織姫は朝四時に起きて、顔を洗って、お弁当を作って、朝ごはんを食べて、歯を磨いて、ウンチして、それからお化粧をしてルンルンで、天の川にかかったカササギ橋へと出掛けていきました。ところがどっこい、そこである問題が起きてしまったため、残念ながら織姫と彦星は会うことが出来ませんでした。これを聞いた天帝さんは「さあ、困った」と、これまたいつものように神さまの所へと相談にいきました。

天帝「こんちはー。神さま、いらっしゃいますかー」
神様「おやおや、天帝さん。しばらくお見かけしませんでしたが、お元気でしたか」
天帝「いやぁ、おかげさまで、あっしは元気なんですけれどもね、織姫の方がちょっと…」
神様「おやおや、また織姫さんの相談ですか。では、そこへ掛けて下さい。今、お茶を淹れますから…(呪文を唱える)…ナラプーナラプーオナラプー、プーナラプーナラオナラプー、プップププーのプップップッと…(尻の下から)…はい、どうぞ」
天帝「うわ、また腸能力だよ…でも、これで案外美味いんだよな。ズズッ…うん、美味い」
神様「ふふん。で、今回はどうされました?」
天帝「いえね、ちょうど一年前にこちらでロミヒー星人のGOさんからもらったアドバイスをもとに、きのう七月七日に、織姫は朝早くから彦星に会いに、天の川のカササギ橋へ向かったんですよ。そしたらね、なんと目の前で、カササギ橋が壊されちゃったんですよ」
神様「なんと…では、彦星さんには会えなかったんですか?」
天帝「ええ、残念ながら」
神様「で、そのカササギ橋を壊した犯人というのは、いったい何者なんですか?」
天帝「それが、うちの織姫のファンたちなんです」
神様「えぇ?ファン?…織姫さんには、ファンがいるんですか?」
天帝「ええ。まあ、親のあっしが言うのもなんですけど、織姫は芸能人並みの美人でしょう?もともと、毎日のように告白されるくらいモテモテではあったんですが、彦星と結婚してからはファンたちも諦めていなくなってたんです。ところが彦星と別れて、自分が織った衣なんかを売りに外を歩くようになったら、また男たちがぞろぞろついてくるようになっちゃって。今じゃ、ファンクラブまであるそうですよ」
神様「ほお、それは大したもんですな。いや、実はあたしもね、前から織姫さんのことは美人だなぁと思ってたんですよ。…そのファンクラブ、まだ入れますか?」
天帝「ちょっと、神さままで入ろうとしてどうするんですかっ。これ以上、ファンが増えてもらっちゃ困るんですよっ。これじゃあ、織姫はこの先ずっと彦星と再会出来ないじゃないですかっ」
神様「ああ、たしかに。それも、ちと可哀想ですなぁ…わかりました。今日はこの相談にぴったりの回答者が来てますから、呼んでみましょう。…おーい、お茶さん。ちょっと、こっちへ来とくれ。今、あんたの話を聴きたいという人が来てるんだ」
天帝「え?おーい、お茶?また、面白い名前の人だねぇ」
神様「おお、来た来た。…天帝さん、紹介するよ。この人はね、元宇宙警察捜査一課長の佐藤茶さんだ。元刑事だけに、ストーカーや嫌がらせ行為なんかに対する問題にも非常に詳しいから、ひとつ相談してみたらいい」
天帝「はぁ、佐藤茶さんですか。なるほど、それで『おーい、お茶』か」
佐藤「(カトちゃん調で)どうも、はじめまして、佐藤茶と申します。サトちゃん、ペ」
天帝「うわぁ、完全にパクリじゃないかよ。てか、この人、本当に元刑事?すっごい軽いけど」
佐藤「何でもあたしに訊いて下さいね。うんこチンチン」
天帝「本当に大丈夫かなぁ…いえね、佐藤茶さん。うちの織姫のファンたちが、最近暴走ぎみでして。最近じゃ、織姫が外出するたびに後ろをつけてくるし、うちの庭にある笹の木には『織姫とデート出来ますように』とか『織姫とキスできますように』とか『織姫と彦星が喧嘩しますように』とか短冊に書いて結び付けるし、つい昨日も、せっかく一年に一度の彦星との再会を邪魔されたばかりだし…この調子じゃ、きっと来年の七月七日も邪魔されるんじゃないかって…」
佐藤「なんのなんの天帝さん、そんなの全然心配いりませんよ」
天帝「えぇ?じゃあ、一体どうしろと?」
佐藤「来年から織姫さんは、七月七日だけは絶対に昼間に外に出ないこと。これでバッチリ」
天帝「え、なんでですか?」
佐藤「だって、まだファンが家の前に大勢いるでしょ。出るなら、そいつらがほとんどいなくなってから。裏口からこっそりと出るの」
天帝「そいつらが、ほとんどいなくなってから?…するってぇと、織姫はいつ彦星に会いに出掛ければいいんですか?」
佐藤「天の川で会うんでしょう?だったら、夜になってからです」



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