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斎王からの伝言[創作]8

8 転職願望

 12月中旬、エマは自宅に居た。パソコンの前に座りプログラミングスクールをネットで検索している。今年(2012年)から中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になっていたので、ますますその能力が必要になるだろうと考えていた。今すぐ仕事に就けるとは思わないが、将来的に準備だけはしておこうと学べる所を探していた。
 
 エマは人と関わる事に酷く苦痛を感じるため、家に引きこもって働ける仕事をしたいと常々考えていた。在宅で出来る仕事なら何でも良くて、テープ起こしのアルバイトを一度試したが、全く向いていなかった。

 人嫌いなのに、人が話す言葉を、しかも訛りがあり聞き辛い議会での発言を、何度も繰り返し聞いてワープロに文字として起こす作業がとても苦痛だと分かった。人相手ではない仕事が良かった。
 
 小学生の時、MSXというホビーパソコンを親に買って貰い、テニスゲーム(壁打ち)のプログラムを本に書いてある通りに入力して作った事があった。テレビゲームも好きだし、栄養価の計算もパソコンで行うのだから、いっそプログラミングの勉強をしてみようかと思いついた。人に習わなければいけないが、そのくらいなら我慢は出来る。簿記や翻訳、縫製の仕事も考えたが、特に興味が湧かなかった。やるなら徹底的にのめり込めるものではないと続かない事を知っていた。

 コウは漫画作成、ミキは能楽と二人とも真剣に取り組むものがあるのを、エマは羨ましく思っていた。

 働きながらの勉強は辛いが、人と全く交流をしなくて済むと考えれば何だか出来るような気がした。独身の老後対策だ。同居している親を見送った後、コウとミキとは交流を続けながら、自宅で人と関わらず過ごしたいと夢見た。

 体調不良になったら区役所と事前に連携をして、お金を支払って後片付けをして貰うつもりだ。必要なら出張する福祉サービスを利用して静かな死を迎えたい。

 その為にヨガを習い、ヴィパッサナー瞑想もし、死に逝く時にパニックにならないよう準備をしている。何ら後ろめたさもなく、心穏やかにあの世へ逝きたかった。将来的にその願いが実現可能となる社会体制になっている事を強く望んだ。親が亡くなった後、住んでいる所を出る場合の為に、県営・市営住宅の抽選にも毎回応募をするくらいの念の入れようだった。

【100万円か…】やはり高かった。学校ならそのぐらいはするのだろう。調理師学校も年間100万円は掛かるのだから、覚悟はしていた。
【通信教育はどうかな。】バナナを食べながら、Google検索エンジンにキーワードを入力する。
【マイクロソフト オフィス スペシャリストかぁ。プログラミングとは関係ないしなぁ。WEBとも違うし…ITパスポートの方が良いかな。パソコンの基礎も知らないから今の段階では独学するしかないか…】

 絶対条件は在宅ワークだ。そこから外れる資格は取りたくない。後、WEBみたいなセンスを問われるものも、向いていないと思っていた。

【本屋に行こうかな。】参考になる本を予め読んでおきたい。今の自分は判断をするための知識が圧倒的に少なすぎた。

 最近、能楽の修行でミキが忙しく、野花菖蒲会のSkype会議を三人で開けずにいた。コウは今、沖縄へ行っている。琉球に関心を持ったようだ。2012年が終わるのを目前にして、三人はそれぞれが望む方向へ前進していた。

 

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