近年の小学校お受験試験内容の動向2 近年の小学校試験試験内容の動向 お受験合格への道2022

 今回は前回の続きとして、近年の小学校お受験試験内容の動向を掘り下げていきたいと思います。

ペーパーテストを実施しない学校が増えた理由

 ペーパーテストを実施しない小学校が認められるようになったのは1992年の秋(1993年度入学)のお受験からになります。

 この年から新しい学習指導要領が実施され、同時に幼稚園の保育も「幼稚園教育要領」の改訂が行われました。それにより、今までの一斉保育から自由保育へと方針が変わり、一人ひとりの個性を伸ばしていく保育事業の整備が始まりました。

 自由保育とは集団に同時に同一の強制的な保育から、子どもが自発的に活動できるように導く保育のことを指します。例えば、知識や理解力を培うにも、自分自身で考えたり、工夫する機会や経験をたくさん持たせたり、自分勝手な考えではなく、客観的なものの見方や考え方を身につけるように指導する保育がこれにあたります。

 つまり、一斉保育は他律の保育で、自由保育は自律の保育であるとも言えます。

 新指導要領の狙いは、偏差値教育の弊害などを見直すことでした。誤解を恐れずに言えば、今までの学習指導の基本的な考え方は、ペーパーテストのように持ち点を100点として、「これもできない、あれもダメ」と点数を引く減点方式であり、主に知力だけを判定したものでした。

 しかし、改訂された「幼稚園教育要領」では持ち点を0点から始め、子ども一人ひとりの個性を見極め、「これもできた、あれもできるぞ」と点を積み重ね、合計で何点取れたかと点数を積み重ねていく保育構造に変化しました。

 そして、点を積み重ねていく加点方式の評価方法が行動観察型のテストなのです。

減点方式と加点方式

 ペーパーテストは、取れた点数で子どもの限られた能力を評価しますから、個性を評価する軸がありません。一方、行動観察型のテストは、絵を描いたり、自分の意見を発表したり、課題に取り組む子ども達の様子を観察しながら採点しますから、プロセスも重視し個々の特性や能力も評価します。

 計算の問題を例に挙げて考えてみましょう。
 1+9=□は、答えは一つしかありませんから、全員で同じことに取り組む集中思考型保育。□+□=10は、答えが11通りありますから、一人ひとりを育てていく拡散思考型保育と考えると、

一斉保育(他律の集中思考型保育)→減点方式→ペーパーテスト
自由保育(自律の拡散思考型保育)→加点方式→行動観察型テスト

 となり、幼稚園の保育の方針が、他律の一斉保育から自律の自由保育に変わったことから、小学校の入学試験の形式も減点方式だけではなく、加点方式を加えたとも言えます。

 また、ペーパーテストを実施している学校も、制作や課題遊び、自由遊び、運動テストなどを通じて、社会性や協調性など集団生活への適応力を観察・評価・採点し、バランスの取れた成長をしているかを判定しています。

 そのため、入試に必要な知識なるものを、記憶だけに頼って詰め込む知育偏重型の受験対策は、どこの学校からも歓迎されないと言えるわけです。

 現在、国立附属校では、筑波大学附属小学校を除き、お茶の水女子大学附属小学校、東京学芸大学附属竹早小学校等はペーパーテストを実施していません。私立校では、慶應義塾幼稚舎、青山学院初等部、学習院初等科、成城学園初等学校、桐朋学園小学校、川村小学校なども実施していない状況となっています。(2020年現在)

 他にも、以前は運動テストもなく、ペーパーテストしか実施していなかった立教小学校が、現在ではペーパーテストを廃止して行動観察型のテストに切り替え、運動テストはもちろんのこと、男の子が苦手とするダンスまで入試問題として取り入れています。

 以前の学校説明会も、「私学がよい子を取り合った時期があったが、それは間違いでした」と指摘し、「取りっこではなく分けっこの時期に入った」との発言もみられました。

 珍しいケースとしては慶應義塾幼稚舎の舎長が「ペーパーテストを廃止した理由」を公表しました。
 ※舎長=校長

 「受験という現象がある以上、その競争の社会の中で、人より抜きん出て勝利を占めようと、どんどんエスカレートします。競争社会は、結果を争うわけです。だから、私たちは、結果を争うようなテストをしません。結果を点数に直して、点数で序列をつけるような教育をしていない。点数で子どもの序列をしないということは、ペーパーテストはしませんというのが、一番わかりやすいということです」
(週間ポスト1994年4月3日号より抜粋)

 そして、2002年度から実施されていた学習指導要領は学習内容が削減された問題などを含め、早々と改訂されました。

 しかし、すべてが悪かったわけではありません。「ゆとりの教育」を目指し、公立学校の週五日制、英語教育、少人数制の教育も整備されました。

 その様な公立を中心とした教育体制の整備に触発され私学でも、日本女子大学附属豊明小学校、立教女学院小学校、東洋英和女学院小学部、青山学院初等部、成蹊小学校、昭和学院小学校、日出学園小学校、国府台女子学院小学部など、最近の私学の環境整備のレベルは高くなっています。

 また、桐朋小学校は1クラス24人、成蹊小学校では4年生まで1クラス28人、日出小学校は2年生まで25.26人編成の少人数制を実施するなど、私学ならではの柔軟な対策が顕著になっています。

志望校の選び方

 一方で近年は私立小学校の校数も増加しています。
2013年 慶應義塾横浜初等部
2014年 江戸川学園取手小学校(茨城県取手市)
2015年 日本大学藤沢小学校(神奈川県藤沢市)
    開智望(のぞみ)小学校(茨城県つくばみらい市)
2016年 国際暁星流山小学校(千葉県流山市)
2019年 東京農業大学稲花小学校
 が開校しています。

 そして、私立小学校数が増加することで問題となるのは、志望校の選び方です。特徴のある小学校が増えることによって、小学校お受験を検討しているご家庭の情報収集能力が問われることになります。

 大切なのは学校のブランドイメージや内部進学率ではなく、ご家庭の教育方針と志望校の教育方針が一致しているかどうか、ご家庭としてどの様な子に育って欲しいか、子どもの志向性はどうか、と言うことをしっかりと話し合うことだと思います。

 そして、それは子どもの今後の将来に大きな影響を与えかねない問題となりますので、各校の正しい知識の収集と分析や、多角的な観点からの子どもの特性の把握が重要となっています。

 「教育は、家庭の教えで芽を出し、学校の教えで花が咲き、社会の教えで実がなる」

 これは明治初期に文部省から高等科(現在の5.6年生)の家庭に配布されたものですが、子どもに「どんな花を咲かせたいのか」、これこそ学校選びの基本であるとも言えます。

 小学校のお受験は、花が咲くための大切な一歩となります。そのため、しっかりと状況を把握したうえで、慎重に計画を立て、「ゆっくり、じっくり、しっかり」と、ゆとりをもって挑戦していくことが大切だと考えています。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
 今回のコラムも私の個人的な知見に基づくものですので、必ずしも正しいとは言えませんし、他で主張されている理論を批判するものではないことをご理解いただいたうえで、一考察として受け止めて頂き、大切なお子様のお受験に役立てて頂けたらと思います。

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