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卵かけごはんが好きだったけど

こんにちは、元国語教員、現ライターの国語の庭です。

今日は、むかしのはなし。

子どものころの、卵かけごはんのお話です。

以下に参加しています。



貴重な卵かけごはん

私が子どものころ、卵かけごはんは滅多に食卓に上がりませんでした。

チャーハン、ラーメン、焼きそば、うどん。

メニューに悩む休日のお昼でも、少しでも栄養のあるものを、と、母がいつも料理をしてくれていたからです。

卵かけごはんのような火を使わない料理や、お惣菜、ファーストフードなどは、我が家では滅多にお目にかかれない食べ物でした。

おそらく、「少しでも手間をかけて料理しなきゃ」という母なりのプライドがあったんだろうと思います。

限界のサイン

でも、本当にときどきですが、こんなことがありました。

「今日のお昼、卵かけごはんでいい?」

母が、言うんです。

こう言われたとき。

そのときは、母が限界を迎えているサインでした。

普段どんなに疲れていても、料理の手を抜かない母。

その母が、火を使わない卵かけごはんを食べようか、と言っているのです。

子育てと仕事の両立は、目に見えない苦労の方がきっとたくさんあります。

「うん、いいよ」

「炊飯器からごはんをよそって、自分で卵割っておしょうゆかけられる?」

「うん、できるよ」

疲れが出ている母を、これ以上疲れさせてはいけない。

ごはんも卵も、こぼさないように。

おしょうゆをドバッとかけすぎないように。

そうやって、自分で卵かけごはんを作って食べたことが、ほんの数回だけありました。

ごめんなさい、本当は

「今日、卵かけごはんでいい?」と聞かれたとき、あくまでもいつも通りのテンションで「いいよ」と答えていた私。

でも実は、内心喜んでいました。

卵かけごはん、好きなんです。

卵焼きより、スクランブルエッグより、オムライスより。

卵料理の中でも、実は1番卵かけごはんが好きかもしれません。

おいしいんですよね。

でも、卵かけごはんが好き、って、母に言ったことはありません。

言っちゃいけないような気が、ずっと、していました。

だって、言ってしまったら母が悲しむかもしれないじゃないですか。

母にとって、卵かけごはんを食卓に出すことはおそらく敗北の意味を持っているのに、それなのに、私が卵かけごはんを喜んでしまったら。

いつも苦労して作っている手の込んだごはんより、そっちの方がいいのか、と絶望させてしまうかもしれない。

だから、卵かけごはんが好きなことはずっと、今でも言えずにいます。

卵かけごはんは手抜きじゃない

でもですね。

とてもじゃないですけど、卵かけごはんだからと言って、母が手を抜いていた、なんて、私は思えません。

だって、ご飯は常に炊き立てだったし、卵も賞味期限がだいぶ先になっているのを確認してからの「今日、卵かけごはんにする?」だったから。

疲れてはいたけれど、やるべきところはきっちり押さえていた母。

あのとき、「卵かけごはん、好きだからさ、たまには料理休んで大丈夫だからね」と言えればよかったのか。

いやいや、そんなことを言ったらもっと母を追い詰める結果になってしまったかもしれないから、黙っておいてよかったのか。

いまだに正解はわかりません。


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