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「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアゼルバイジャン共和国との間の条約の締結について承認を求めるの件」について調査します。(政女48党浜田聡議員のお手伝い)



アゼルバイジャンの名を聞いた事は有っても、何処にあるのかを知ってる人は日本国民は少ないかも知れません。旧ソ連圏でカスピ海の西南岸の広い地域を指すコーカサス地方にアゼルバイジャン、アルメニア、グルジア(現ジョージア)があり、1991年ソ連崩壊前に独立しました。

ロシアが18世紀カスピ海に19世紀にイランに侵攻し、トルコの一部であったアゼルバイジャンがロシアの一部となり、そしてバクーからは1901年に全世界の産油量の1/2以上を算出する国際的な町となりました。
ゴルバチョフ政権下の1991年に崩壊寸前の旧ソ連から独立しましたが、石油を運ぶために必要な自国のパイプラインを持ってなかったために、崩壊後も石油の輸出をロシアにコントロールされ経済発展は出来ませんでした。
またその頃から陸地の油田は枯渇し始めましたが、海底の油田を欧米の技術で採掘が可能となり極貧国だったアゼルバイジャン共和国はロシアから自立する為に欧米に接近していきました。
ペルシャ湾からカスピ海へには山脈があり、様々な国際情勢から選んだルートは高額な建設費、地政学的リスクの高さ、並びに環境への対応そして地域住民との調整等が難航しながら2006年5月トルコ・グルジア・アゼルバイジャンの3カ国を通過する『BTCパイプライン』を建設し石油が出荷されました。この建設に日本の伊藤忠商事も参加しておりますが、2006年に来日した当時のイルハム・アリエフ大統領が日本の戦後復興や文化・技術などに感銘を受け、日本のような国づくりを目指すという考えを示し、日本国民の空路のビザ料金を無料にしてくれたのはこういった理由があるのかも知れません。

コーカサス諸国とは?


世界には、国際的に承認を得ていない未承認国家が現在13カ所あり、コソボ共和国やパレスチナ等は紛争国として日本のメディアに度々出てきます。

2022年2月、ロシアによるウクライナ侵攻も、ウクライナ領土にある旧ソ連の非承認国家のドネツク、ルハンシクへの影響を維持するためのウクライナ侵略でした。
そしてナゴルノ・カラバフ現地での戦闘開始は2020年6月にはトルコ製のドローンによる攻撃をし、2020年9月27日朝5時前後に、そしてロシアのウクライナ侵攻後の3月にも、アゼルバイジャン共和国は35年間の紛争問題に成なっているナゴルノ・カラバフ共和国とアルメニア共和国に攻め込みました。

ウクライナ侵攻に見るロシアと未承認国家の関係の変化:南オセチアでは親ロ派「大統領」が敗北



1・条約の内容


提出理由:
政府は、現行の所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約について、日本国とアゼルバイジャン共和国との間において、投資所得に対する源泉地国課税の更なる軽減、税務当局間の徴収共助の手続の整備等の措置を講ずるため、同条約に代わる新たな条約を作成することとし、令和四年十二月二十七日にバクーで、所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアゼルバイジャン共和国との間の条約に署名した。よって、この条約を締結することといたしたい。これが、この案件を提出する理由である。

こちらは新条約と現条約との事項対象表になります。

所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税 回避の防止のための日本国とアゼルバイジャン共和国との間の 条約の説明書


今回は、第211回国会に内閣府提出の条約の承認になります。
基本的な租税条約交渉の流れとしては、外務省主管で行い、「条約交渉開始 → 実質合意 → 署名 → 国会承認(衆・外務委員会、参・外交防衛委員会で審査)→ 公文の交換 → 公布 → 発効」となり、衆議院では既に賛成可決しています。

今回の条約全面改定は、昭和61年(1986年)に発効されソ連崩壊後にも承継されて適用されている現行の租税条約に代わる新条約になります。名称からも明らかなとおり租税条約の最も大きな目的は国と国との間の課税権を調整(二重課税の排除)しています。
この条約で投資所得(配当、利子及び使用料)を改正し、軽減措置の拡大と脱税及び租税回避行為や条約の濫用防止するための規定等、現行条約には含まれていない規定を新たに設けています。(現条約名:所得に対する租税に関する二重課税の回避のための日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約)

日本も自国に居住する法人や個人に対しては、どこの国で生じた所得であるかにかかわらず、すべての所得に対して課税する全世界所得課税を基本としていますし、外国の法人や個人に対しては日本国内で発生した所得 に対してのみ課税しています。



例えば日本の企業がアゼルバイジャン共和国に進出し支店を設立し収益を上げた場合、基本的には日本にその収益は送られますので日本で源泉徴収での税金がかかります。条約を結んでいないと、アゼルバイジャンの支店にアゼルバイジャン共和国からも同様に請求され払わされることになります。これを二重課税と言います。
今回は配当・利子・使用料ついて、旧ソビエト時の条約より課税の上限を引き下げられました。つまり日本企業がアゼルバイジャンに納める税金が以前より少なくなるという事です。それは、アゼルバイジャン共和国の企業等が日本で課税が生じた場合も言える事です。

この税率は相手国との交渉の結果決まるので、当然各条約税率は違ってきます。例えば、同時期に結んでるアルジェリアとの租税条約では、配当の税率に条件が付いています。また、日本の企業がアゼルバイジャンの企業に対して特許権や著作権等を使用するために支払う使用料などはアルジェリアの10%よりも少ない7%が設定されています。


2023年5月1日現在 日本は84条約等153国と条約等を結んでいますが、これらの租税条約は国際標準の「OECDモデル租税条約」といったひな型をベースに締結されることが一般的で、OECD加盟国である我が国はこれに沿った規定を採用しています。
また、課税所得を人為的に操作し課税逃れを行うことを「税源浸食と利益移転」(BEPS:Base Erosion and Profit Shifting)といいますが、例えば多国籍企業が税の抜け穴を利用して税負担を免れると言った問題を起こさない様に、日本もBEPSプロジェクト条約に署名しBEPS防止措置を適用しています。

BEPS防止措置実施条約


租税条約は企業だけでなく当然個人にも当てはまりますので、御興味のある方は参考にして下さい。




2・なぜ今ごろ租税条約の全面改定?


1988年11月16日、ソ連で初めて国家主権を宣言したのはエストニアです。 1990年3月11日、リトアニアがソ連からの独立を宣言し、2ヵ月後にはラトビアと南コーカサス地方のグルジア(現ジョージア)が独立を宣言しました。
そして、1991年に崩壊したソ連から独立宣言を発表した15か国のうち、日本との租税条約が最後となったのがアゼルバイジャン共和国です。


1・ロシア:署名日:2017年9月7日
2・ウクライナ:署名日:1986年1月18日
3・ベラルーシ:署名日:1986年1月18日
4・ウズベキスタン:署名日:2019年12月19日
5・カザフスタン:署名日2008年12月19日
6・グルジア:署名日:2021年1月29日
7・アゼルバイジャン:署名日:2022年12月27日
8・リトアニア:署名日2017年7月13日
9・モルドバ:署名日:1986年1月18日
10・ラトビア:署名日2017年1月18日
11・キルギス:署名日:1986年1月18日
12・タジキスタン:署名日1986年1月18日
13・アルメニア:署名日:1986年1月18日
14・トルクメニスタン:署名日:1986年1月18日
15・エストニア:署名日2017年8月30日

ソビエト連邦構成共和国 Wikipedia


2020年、紛争は両国の係争地であるナゴルノ・カラバフをめぐるもので、9月末から6週間続きましたが、旧式目立つアルメニアの兵器で、アゼルバイジャンのドローン攻撃は、正にロシアとウクライナの前哨戦であったのかも知れません。

令和3年版防衛白書
2020年9月27日早朝、コーカサス地域にあるアゼルバイジャンとその領内のアルメニア系住民居住地域「ナゴルノ・カラバフ」(下欄参照)との境界一帯の複数の地点で軍事衝突が発生し、その後44日間にわたり、アゼルバイジャン・アルメニア両国の間で、民間人を含む多数の死傷者(約7,000人)を伴う紛争に発展しました。

財務省サイトには、2021年5月19日「アゼルバイジャンとの租税条約の締結交渉を開始します」あり、2022年5月27日付で「アゼルバイジャンとの新租税条約について実質合意に至りました」と発表されています。

2021年令和4年12月27日 バクーで署名
12月27日(現地時間同日)、アゼルバイジャン共和国の首都バクーにおいて、和田純一駐アゼルバイジャン日本国特命全権大使と、ミカイル・ジャバロフ・アゼルバイジャン共和国経済大臣との間で、「所得に対する租税に関する二重課税の除去並びに脱税及び租税回避の防止のための日本国とアゼルバイジャン共和国との間の条約」の署名が行われました。


外務省サイトにあるアゼルバイジャン共和国個基礎データーには、外交上最大の課題はナゴルノ・カラバフ問題であり、2020年9月に軍事衝突が発生し、11月にロシアの仲介によりロシア、アゼルバイジャン、アルメニアの3か国首脳が停戦に合意したが、ナゴルノ・カラバフの法的地位については未解決となっていると書かれています。

主要援助国

経済・日本企業支援 | 在アゼルバイジャン日本国大使館 (emb-japan.go.jp)のサイトを見ると、アゼルバイジャンの経済・財政が解かるグラフがあります。
それらを見るとロシアからの経済的な完全に独立した後の発展は素晴らしく、外交上最大の課題であった「ナゴルノ・カラバフ問題」は圧倒的な戦力の差とロシアの状況からその問題はほぼ解決したとも思えます。
さらに、石油生産量が落ち込んで来ても天然ガスの産出が増えています。
時代は化石燃料からのシフトと、ウクライナ侵攻によるロシアへの経済制裁、コロナ禍での赤字収支、今後の欧州のCo2削減政策などが考えられ、経済的なつながりを他の地域とも結ぶ必要があり、日本人の観光客の激減からの復活や日本の企業の進出を導き次のレベルでの技術的な発展を期待しているのだろうと想像できます。

在アゼルバイジャン日本国大使館


 

3・気をつけねばならぬ事


アゼルバイジャン共和国は、2000年頃に2ドル以下の極貧時代も長かったようですが、国内的には石油の輸出により急激な経済成長を遂げました。しかしその間自らの力で基礎から技術を習得してきた訳ではなく、常に紛争地域であって、ロシアの勢力が激減し紛争のリスクは小さくなりましたが、近隣を見回すとその状態は地政学的に解消する事は無いのでしょう。
トルコの提供するドローンが無くなった時、石油・ガスを失った時に新たな産業で生き抜くためには自らが作り出す産業を得る必要があると考えるのは必然です。

更に、今回の様な経済的な取引をEUだけに頼る事のリスクも大きい事に気づいたのではないでしょうか?
日ア30周年記念を契機に、日本からの投資を呼び込み、税率を押さえる事で貿易の拡大を期待しているのは双方にとって喜ばしい事ですし、それが正に狙いなのでしょう。
だからこそ、逆にグローバルサウスと言われる新興国・途上国への支援・進出には現地の状況を知る事が重要です。


2002
『基準を課す グローバルな租税政治への南北の側面』
マーティン・ハーソン著
マーティン・ハーソンは、『基準を課す』の中で、国際課税規則に関する政治的レトリックの焦点を、タックスヘイブンとグローバル・ノースから、この体制がグローバル・サウスに及ぼす有害な影響に移しています。

多国籍企業によるタックス・ヘブンでの租税回避問題が世界的に注視されました。また、2016年にはパナマ文書流出が世界中を騒がせ、グーグルやアマゾンのようなインターネット企業を中心に、ライセンス収入等特定の支払いに対しては源泉税を課税しないアイルランドやオランダ等の国を活用して節税を行う動きも暴露されました。
それらは当然先進国からも非難され、OECDから改革が進められました。

国際社会がデジタル時代の画期的な租税条約を締結
OECD - パリ、2021年10月8日「本日、OECDにおいて、2023年から多国籍企業(MNEs)に対して最低15%の税率が適用されることとなる国際税制の大改革が取りまとめられました」と発表されました。
そして「世界のGDPの90%以上を占める136カ国・地域によるこの画期的な合意により、世界最大かつ最も収益性の高い多国籍企業100社の1,250億米ドル超の利益が世界各国に再配分され、これらの企業が事業を展開して利益を生み出す場所で公平に税金を支払うことが保証されます。」

親日国であるアゼルバイジャン共和国と租税条約を結び、今後どの様な貿易が行われるかとても興味があります。
日本にとっては天然ガスや鉱物の輸入、反対に農作物や加工品の輸出、そして新エネルギー開発やパイプライン、ドローン、新幹線、発電所、自動車、宇宙産業の技術協力など、多岐にわたっての交流が考えられます。

そこで質問を考えるとすれば、以下になります。

①世界的にデジタル化が進み、WEB3.0も世界中で取り入れられ、租税条約にも大きな影響が起きると考えられますが、それらは日本にとってプラスに働きますか?

②現在アゼルバイジャンにはロシアの避難民?が増えており、ロシアにもアゼルバイジャン人が何百万人もいるとの情報があります。アゼルバイジャン共和国は対ロシア国連採決でこれまで中立的な立場取ってきましたが、今後はNATOやEUに加入すると思われますか?
その場合、租税条約は変えますか?
また、ロシアに中立的な立場を継続した場合はどうしますか?

廣瀬陽子:ロシアと「近い外国」──ウクライナ危機で変わる関係性


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